第48話 セイチとアイリス大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!
俺は今、怒っている。かつて感じたことのない怒りだ。
そう分かるほどに頭の中は冷静なのに、どうしてもその怒りを消すことができない。
ああ――本当に、どうしてくれよう?
――気づいてはいた。
奴の身体が沈むその瞬間を目に入れていた。
そう――攻撃の予備動作だ。
ユニーク・モンスターがどうなるのかは知らないが、倒されたモンスターは光となって消え、カードが遺されるのだ。
――少なくとも。俺はまだそうならない目の前の鉄のクモから集中を切らすことは無かった。
だというのに反応できなかった。そう、素早く攻撃するために、俺は倒れ込むようにしてアイリスの背に素早く身長をあわせ、クモの口に手を突っ込んだのだ。
両膝を折るような姿勢ではとっさの動きがまったくできなかった。だから――
「ガッ――!?」
「くぅ!?」
最後の悪あがきなのか、前足の鎌すら使わず、残りの足を総動員して行った奴の攻撃は野良クモ達が使っていた体当たりだった。
悲鳴を上げたのは吹っ飛ばされて背後のきのこに激突した時だ。きのこが柔らかくて助かった……のかもしれない。オブジェクトに激突した時のダメージ計算がおこなわれるのかどうかを調べる術は今の俺には無い。
だって――
「アイリス!?」
「あ――……」
アイリスの身体が光となって解けて消え……地面に手のひらサイズのアイリスが気絶していた。
そう、アイリスを抱きかかえるような形だった状態で正面から攻撃を受けたのだ。意図していなかったが、アイリスを盾にする様な形になってしまったのだ。
それが脳みそを沸騰させた。
アイリスはオーバーダメージを受けて小さくなっただけだ――とは理解している。これはゲームの世界だと言うのも理解している。
――だけど……これは許せねぇ……絶対に許さないっ!!
「アイリス、ちょっと待ってろ……」
俺はアイリスを優しく手のひらに乗せつつ、現実なら目が痛くなってしょうがないほどクモを睨みつけた。
「直ぐ終わらせてくる」
優しくきのこの陰に隠すようにアイリスを横たわらせ、俺は宣言した。
こんな子供を盾にしてしまった自分と。そもそもの原因を造ったクモにケリを付けないといけない。
「――テメエ!! うちの娘になにしてくれてんだぁあああああああああああああああああああああああ!?」
全力疾走を開始した!
使えるものは、拳と蹴り――つまりは肉体しか無い。鉄のグローブ……普通のグローブに、申し訳程度の薄い鉄板が手の外側に縫い付けられているだけの物だ。攻撃力を期待するのは酷という物だろう。
だが、ぶっちゃけ、この冷静で無い状態で剣を持っていたとしても使わなかった可能性が高い。倒すより、ボコボコにしたいと言う私怨を優先したい。
奴も瀕死なのか、動きが明らかに鈍すぎる。身体のあちこちから煙を上げて、八本の足もガタガタ震え続けている。
だが、それで向こうも諦めるつもりなどないのか前足の鎌を二本とも振り上げた。
――上等っ! 俺は勢いを弱めず突っ込んだ。
俺の速度に合わせて振り下ろされた鎌は、俺をカウンターで捉える――はずだった。
一度アイリスを守るために集中してその軌跡を見て、両腕で防いでいたのが良かった。
いや――それだけじゃない。相手の動きが悪い事をプラスしても、異様なくらいに相手の動きが遅く感じる。異様なほどの集中力が生まれていた。
振り下ろされる鎌にあわせて、ダンっと片足で跳び半身の体勢になって、その二対の鎌の隙間を通り抜ける。目の前を通過していく鎌と後ろ髪で感じる鎌の勢い。それに対してゾッともせずに当然のごとくクモ目の前に降り立った俺は――
「くたばれぇえええええええええええ!! 『ハイ・ナックル』!!」
この森で初めてのアーツを発動させた。
右手が光り輝き、温かな熱さを感じたまま、俺をはすくい上げる様なアッパーをアイリスの剣が消えてガラ空きとなったクモの口へと叩きこむ。
グシャッと言う潰れる音。散々燃やされたせいか口はあっさりと破壊された。
「――――っ!!」
アーツ――ハイ・ナックル。単純に次のパンチ攻撃の威力を上げる技だ。時折、蹴ってスライムを倒したりした俺は格闘のスキルlvが10を超えた時点でこの技を覚えていた。
次の剣の一撃が強くなるハイ・スラッシュも覚えたが、今は剣が無いので使い道が無い。それに今はボコボコに殴りたい気分だし!
さすがにこの低い一の口に連続で攻撃をたたみこむのは厳しいので、俺は首と身体をつなげる関節部分へ何度もハイ・ナックルを叩き込む!
「ハイ・ナックル! ハイナックルっ! ハイ・ナックルゥ!! ハイ・ナッコォオオオオオオオオ!!」
ガン、ガン、ガン、ガン!! 鉄を殴る音がきのこの森に響きわたる。殴られるごとに地面に叩きつけられるためか、悪あがきも出来ずにクモは俺のなすがまま!!
――だが、そんなのは、相手が倒れるか……俺のスタミナが尽きるまでの話。どっちが先に来たのかと言えば……
「くっそぉ……」
スタミナ切れで一気に身体が重くなる。それを待っていたかどうかは知らないが、二対の鎌を上げて俺の命を取りに来るクモ。
回復薬の一つでも持ってきてれば……武器と防具の代わりを持ってきていれば……そんな後悔を抱きながら、確実に俺の命を取りに来れるよう持ちあがったその鎌を見上げていると……
ふと――俺の怒りをあっさりと消し去る声が、俺の名を呼ぶ声が、足元から聞こえた。
俺はニッと笑いながら、まるで早く死にたいかの様に今にも振り下ろされそうな鎌に向かってジャンプした。ひざを抱きかかえる様なジャンプ。
そうだ。俺は足元の空間を開けたかったのだ。子供一人分くらいの空きが出来るように。そう――
「ハァアアアア!! 『ハイ・スラッシュ』!!」
手のひらサイズのまま、余計な魔力消費を抑えてこちらに近寄っていたアイリスは、俺の行動に合わせるように幼女化し、光り輝く剣をクモの口へ突き刺した!
「――――!!!!」
断末魔すら上げることはできず、クモは今度こそ光となって消えた。
俺は無様に着地して倒れ込むと、その胸にアイリスが飛び乗ってきた。
「マスター! やりましたぁ!」
「……はあ~……そうだな、大勝利だよ!」
お前のな……とは言わず、俺は最後の最後まであきらめずに動いていたアイリスをねぎらった。
な? 俺は主人公の器じゃない……この娘こそが、まさに主人公じゃないか。それが本当に、なぜか誇らしかった。
タイトルがネタバレすぎる? 文句はGガン〇ム最終回に言ってください(笑)
今回書くまでは、勝つか負けるかどっちにしようかな~と迷っていたりします。デスゲームじゃないVRMMOならではの展開ですし、負けるという展開も心惹かれたのですが……ロボよろならなーと言うことで今回のようなお話に。
お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。最近はこの三種の神器のおかげでサタンガン〇ムを倒せ――じゃなく、投稿ペースが上がるやる気がわいています。え? コラムダさんがいないおかげ? ……ごほん、ごほん。
今回気付いた重要なこと。ロボゲー・オンラインにようこそ! の略称はロボよ『そ』のはずなのにロボよ『ろ』になっていること。
……いっそのことタイトルをロボゲー・オンラインもよろしく! に変えてしまおうかな―……いやいや、それはまずい(笑) まあ、このまま貫き通すか、誤字脱字として処理していくかは神のみぞ知るということで。ヒントとして作者はベーオ・ウルフが大好きです。
それでは次回で。




