第46話 通常の三倍の奴。現る。
RPGのお約束……それは夜の時間帯はモンスターが強くなると言う物だ。少なくとも夜弱くなるモンスターに心当たりは無い。そしてロボオンも……そのお約束の例外にはなっていないようだ。
「聞いていたけど……マジか……」
サーチに引っかかるモンスター……野良クモの煙の色が白から全て黄色になった。つまり格下が全て俺たちと同ランクくらいまで強さが上がったのだ。
事前情報――ネットの掲示板で仕入れていたとはいえ、いきなり安全な状況から気を抜くとまずい状況に変わったと言うのは心臓に悪い。ドキッとした。この胸の高鳴りは……恋では無いことは確実だな~……
「……でも、そうだな……強さがワンランク上がったってことは、手に入るカードのランクも上がるってことかも……油断せずに一体倒してみようか」
「はい! 大丈夫、マスターならやれるわ……です」
「おだてないでください……」
最近アイリスもボケれるようになってきた――が、まだ恥ずかしいのか、ボケとはいえ普段と違った口調はマスターへの不敬に当たると思っているのか、最後はしりすぼみになってしまう。まだまだだなー……いやいや、本当にそのままの君でいてください。羞恥心は大事だ。
しかし、今のやり取りは縁起が悪い。実は言われたとおりに結局できなくて、機体の性能に助けられる話のやり取りだからなー今のは。
気を引き締めよう。少なくとも、一体なら安全と言う考えは捨て、夜になったことで視界がさらに悪くなったきのこの森の奥深くから抜け出して、月明かりを確保できる位置まで後退しよう……
戦闘に重要なのは色々あるが、今の状況で俺たちが有利に戦闘を運ぶのに必要なものは、数の有利、有利な位置取り、そして敵の情報だろう。
今やっているのは常に二対一でやれるようにしている数の有利の確保と、敵の不意打ちを受けないように視界が確保できる場所に移動すると言う位置取りの確保だ。
情報は……若干運が絡むが野良クモのカードをアイリスにインストールすればいいが、欲しい情報――敵の弱点とか有効な属性攻撃とか――がヒットすればいいが、ランクDのカードじゃ今手に入った枚数をインストールした所で手に入る確率は低そうだからやめておく。そもそも糸が欲しくて手に入れたカードを消費するんじゃ本末転倒だしなー……
俺たちが持っている野良クモの情報は実戦で得たもので、『野良ウルフの様に動き回らないので戦いやすい』『糸の使い方が相手を拘束しようとする者に限るので、本来のクモの使い方である罠としては使わない』『一人が糸を喰らっているうちにもう一人が攻撃すれば楽勝に近い』と言う所だろうか。
強さが上がっているし、カードの情報と言うわけではないから、これらの情報を今は疑って戦闘するべきだろうな。
俺たちはゆっくりと自分達が有利に運べる状況を確保すべく動き出した。
「このっ――」」
――ザンッ!
持っていた剣で俺は野良クモの頭を切り裂いて戦闘を終わらせた。
「ふぅー……結構まずいな」
「はい……かなりパワーアップしてます」
「まさか、糸を手繰り寄せる力があんなに上がってるとは……こりゃあ安全に倒せていた戦法は無理か……それともダメージ覚悟で使うか……」
最初に出会った時の様に糸を吹きかけられ、今までの戦法が通じるかどうか試したところ……俺はあっさりとまでは言わないがずるずるずるずると引き寄せられ、ある一定の距離に入ったら、体当たりをされてこの森で初のダメージを喰らった。
防具と盾で防御したと言うのに、身体からかなりのマナが出た。煙の様に出るこれが俺たち人間のダメージ量を知る目安である。
とはいえ、この戦法を取り続けて一体目は倒した。最後のはもう一回体当たりをされかけてのカウンターである。それで倒れてくれたので、二回目の体当たりを喰らう前に倒せた。
アイリスの斬撃だと、今までは七~九回程度で倒れた相手が今回は最後の俺の一撃を含めて十五回である。正直かなり強くなっている。
「で、手に入ったカードは『野良クモ。lv11。ランクC。無属性』……って、俺たちが今まで相手にした野良クモの最大レベルより四つも上じゃないか……」
いや。ランクCなのは嬉しいけど。嬉しいけど……正直、辛い。
これは、『技』や『攻撃魔法』も使うべきだな……出し惜しみしている場合じゃない。魔法で遠距離からダメージを与えて、接近されたら技を使う。テンプレな戦い方だが、それが俺たちが最も安全に相手を倒せる最大火力でGOである。
今まで使わなかったのはもったいなかっただけである。とはいえ、それらを使う時に発生するスタミナとMPの消費を無駄に温存したと言うわけではない。
スタミナは走りに。MPは補助魔法に使っていた。戦闘の時間を短くするより、移動の時間を短くする方に割り振っていただけである。戦闘は昼間の野良クモだったらほぼノーダメだったからな。
……まあ、そうやって移動速度を上げて次々に野良クモを倒して行ったから、気付かぬうちに奥深くに入ってしまい、時間が経つのも忘れてしまっていたのだが。
それにスキルlvを上げるには技を使って手早く倒すよりも、通常攻撃で何回も攻撃した方が獲得経験値は上がる……と言うのが今までの俺のゲームで得た経験である。ロボオンで通じるかどうかはわからないけど。
「マスター、お怪我は?」
「うん? まあ軽量装備だから結構喰らったけど、一、二回で死ぬようなものじゃないだろ?」
心配そうに手のひらサイズになったアイリスが俺の目の前に浮きこちらを見てくる。俺はそれに苦笑しながら、手のひらに乗せて久々にその頭を指先でグリグリなでてやる。
アイリスは気持ちよさそうにしながら、俺の質問に答える。この世界では俺の体のことは俺より精霊AIであるアイリスの方が詳しいための先ほどの質問である。
「はい。パーセントゲージで言えば、マスターのHPは十五パーセントほど減りましたから……」
「……五回までが安全領域と思っておくか。糸を盾で防ぐと、自然と盾から体当たりを喰らうから、クリティカルヒットとかの計算違いは起きないとは思うけど」
七回だと完全に死亡するだろうから、五回までがギリギリと思って置いた方が良いだろうな。
防御しているのに七回の攻撃で死ぬ――と言うのは多いのか少ないのか。
今回は野良ウルフと同ランクで今の俺達より格下の野良クモを倒しに来たから、もしものための重装備や回復アイテムをBOXに入れてこなかったからなー……
一度帰るか、それともCランクのカードをもう少し集めるか……
嫌なことを先に済ませる俺の性格なら、夜の野良クモ狩りを続けるのは当然――と言うわけでも無い。
俺の今の目的は、裁縫のスキルlvを獲得するための素材集め、+水のコアが見つかれば良いな―……と言う物である。ハイ・ゴーレム用の少しでも良い素材集めに来たわけじゃない。
必要なのは数だよ兄者! と言う奴である。
でもなー……夜の時間と言うのは意外と貴重なのだ。ロボオンの世界は八時間で一日のサイクルで、昼間五時間、夕方一時間、夜が二時間――つまり二時間しか無いわけである。
いざ、ハイ・ゴーレム用に取りに来た時に二時間経って集めきれなかったら、六時間も手持無沙汰になってしまうのである。
俺が今装備しているのは、俺が行ける範囲で作った素材と上げづらくなるまで上げた鍛冶スキルによって作った今現在の最強装備である。糸で服とズボンが造れればジャージとはおさらばでさらなる防御力が手に入るかもしれないが……
あー……どうするかな。悩む時間ももったいないし、どうせアイリスのカードアルバムも十枚も入らずに全て埋まるだろうから、残り十体くらい倒して帰るか?
……うん、その線で行こう。
「……!? マスター危ないっ!」
「っ!」
アイリスを手のひらに乗せていたのが良かったのか、アイリスが右の方を見てそう叫んだので、俺はとっさに動きやすい前へと駆け出した。
ブオンッと重たいものが空気を裂く音が後方で聞こえ、俺は背筋が凍りつくような気分を味わいつつ後方を確認する。
そこには月明かりを受けて鈍く輝く――鉄を纏ったクモ型のモンスター……!
「なっ!?」
サーチに引っかからないのか、その身体からは煙が出ていな……いや薄く出ている。まるでステルスされているかのように……
――いや、問題なのは目の前のモンスターのステルス性能じゃない。その身体から出ている色は……
「赤……かよっ!」
「……マスター」
アイリスは何も言われずとも、幼女サイズに戻り剣と盾を構える。俺も同じように。
格上を表す色と、俺たちのサーチのlvじゃこんなに接近されてようやく気付くステルス性能。
――多分、間違いない。初めてのユニーク・モンスター戦……鉄の鎧を着こんだようなクモの異形とのボス戦の開始だった……
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気づけばPVも18万を超えナ〇ック星到着時の悟〇さんと同じ数値だと思うと感慨深いものがあります。いつか言ってみたいものですね「瞬間的に出せるPVはまだまだこんなもんじゃねぇ」と。え? ロボよろは逆に弱くなる偽乳さん入りの方? ぎゃふん。
もちろん、感想、評価もお待ちしております。気が向いた、時間が余った時などで良いのでよろしくお願いします。
それでは次回もよろしくお願いします。




