第36話 はじめての帰還。姉妹共闘編。
「今後のためにも一度ログアウトしたほうがいい?」
現在時刻朝の四時……つまり、フィールドに出てから四時間が経過していた。途中食事などの休憩をはさんだとはいえ、合計十時間以上はプレイしているのに、ログアウト勧告すらいまだ来ない。昔から徹夜とかには強い方だったので、それが良い方に働いているのか。
あれから、もう一回だけ二十枚のカードを解体して、ほぼ俺のアイテムBOXを鉄鉱石とクズ鉄でいっぱいにした。そしてさらに採掘をして、コラムダさんとアイリスのアイテムBOXとアルバムを風岩の塊で埋めた。
黄色の煙が出ている所を重点的に採掘したので、Cランクが山ほど……と言うほどでも無かったが、五分の一くらいの確率でCが出るようになった。解体するのが楽しみである。
さあ、そのためにも一度マイルームに戻ろう……そんな時にコラムダさんが「さあ、セイチ様! ここでいったんログアウトしましょう! 今後のためにも!」と言ってきたのである。
「……えっと、何が今後のために何ですか?」
わからないので素直に聞く。そもそも、マイルームに戻ってようやく生産者としての本領発揮の生産に入ると言うのに、ここでログアウトしろと言うのはどういうことなのか?
コラムダさんはしたり顔でうんうん頷き、俺の怒りのリミットゲージを一割ほど上げつつ説明を開始した。
「まだアイリスちゃんが生まれてから一度もログアウトしてませんよね?」
「まあ、そりゃあ……」
こんな小さな子を放っておけないし……と続けなかったのは、俺の頭の上でこの会話を聞いているアイリスに配慮してのことだった。役に立ちたいと思っているタイプには、逆に大事にされるとプライドを傷つけられたように感じることがあるし。
そもそも、アイリスの気持ちを大事にしてなければカードの解体も当初の予定通りできたのだ。アイリスが疲れて眠っても約三十分。採掘は最初の一回一分よりは早く出来るようになったとはいえ、五十枚から六十枚ほど解体して眠っても、その枚数を採掘する前にアイリスは起きる計算になる。
――だけど、こんな短期間であれほど落ち込んだ疲れによる眠りをしろ……と言うのはさすがに気が引けた。気にするな……と言って、本当に気にしないでいることができる人間がどれほどいるかって。AIと言えど、生まれたばかりのアイリスにそんなことはさせたくなかった。
何が言いたいのかと言うと、俺はアイリスの事を結構大切にしていると言うことだ。卵を渡された時はどうなるかと思っていたけど、実際生まれてきたAIの子供は親――じゃなかった――マスターを立てる良い子だし、懐いてくれてるし……大切にしようと思うのは当然のことじゃなかろうか?
そのアイリスを放って現実に戻る……と言うのは難易度の高い選択だった。いずれログアウト勧告がでてしまえばお別れになってしまうのは確実なのだが、せめてそれまでは一緒にいたいと言うのが親心ではなかろうか?
そんなわけで、当初は単にゲームが楽しみで強制ログアウトまで居座ってやると思っていた俺だが、今はアイリスのためにあまりログアウトはしたくなかった。
……そう言えば、プレイヤーがログアウトしたら精霊AIはどうなるんだろうか? 精霊AIの休憩所みたいなワールドがあって、そこに移動すると言うのなら心置きなくログアウトできるのだが。
「セイチ様は、フィールドでプレイヤーがログアウトするとどうなると思います?」
コラムダさんの質問に思考の海から脱出する。
フィールドでログアウト? ……普通なら、
「そのまま消えるんじゃないですか? モンスターに襲われていた場合は、その限りじゃないと思いますけど」
じゃないと、強力なモンスターに襲われたらログアウトすれば逃げれると言うことになってしまうし。
コラムダさんは満足そうにうなずきながら、
「このロボゲー・オンラインでは、プレイヤーがフィールドでログアウトした場合、その後は精霊AIに任されるんですよ」
「アイリスに?」
「精霊AIは成長すれば、プレイヤーがログインしていない間はプレイヤーの指示や自分の意志に従って行動しますから。素材集めをしたり、店番をしてプレイヤーに頼まれたアイテムを売ったり……」
「へえー」
「フィールドでログアウトした場合は、マイルームに安全に戻れるかは精霊AIの能力にかかっています」
それは……かなりきついか。最初のフィールドだからこそ、この草原じゃモンスターを避けて歩くことは簡単だけど、先に進めばそう言うわけにもいかないだろうし。デスペナルティの一定時間のマイナスステータスはまだしも、その時に持っていたカードの内、ランダムで選ばれた半分が失われると言うのは痛い。
解体のスキルレベルが上がるほどいいものが手に入ると言うので、さっきまで解体したのは全てがDランク。スキルレベルをなるべく上げてから高ランクのカードは解体したいので、Cランクは温存している。ゆえに、このデスペナはかなり痛い。
「セイチ様はもう何時間も連続でログインされていますし、今なら私と言う絶対無敵、元気爆発、熱血最強の私! 光の戦士コラムダちゃんが側にいるわけですから、はじめての帰還にはちょうどいいと思うのですよ」
「中身が小学生と言うことですね。ええ、わかります」
「ひどい!?」
涙目のコラムダさんは放っておいて、少し考える。確かにカードの半分が失われる可能性がある状況でアイリスとコラムダさんに任せる……と言うのは心配だ。むしろコラムダさんがいない方が安心できるのは俺の気のせいだろうか?
「ぐっすん……詳しい仕様を話しますと、フィールドに居る間、精霊AIは小型化ができなくなるかわりに、歩いたりしただけでは魔力が減らなくなりますから」
「ああ、それなら任せても……いいのか、な?」
いずれやることならば、確かにやっておいた方が良いだろうし。コラムダさんは頼りなくはあるが、アイリスの姉である。精神的に心強いと言うのはあるだろう。
一番の当事者であるアイリスの意見を聞いてみるべきか。
頭の上から手のひらに乗せたアイリスに目をあわせて聞いてみる。
「アイリスはどうだ? ほぼ一人でも帰れそうか?」
「あのぉ……ほぼってなんですか?」
コラムダさんの突っ込みはスルーしておく。
アイリスの眼には迷いが見えていた。そりゃあそうだろう。本人からして見れば張り切って失敗した後なのだ。慎重になるのも当然と言える。
だが、迷いは数秒で消え去り、決意したように一回うなずくと、
「はい。ちゃんとマイルームに一人で帰って見せます!」
「とうとう、ほぼまで消えた!?」
コラムダさんが妹にまではぶられて崩れ落ちるのはどうでも良いとして。俺はアイリスの返事に少しばかりの寂しさを感じていた。これが子供の成長を感じた親の気持ちと言う物か……へへ、大きくなりやがって……
俺はログアウトを決意したのだった。
主人公がロリコ――いえ、親バカ化が進んでいます。これには姉二人にイジられて過ごしてきた幼少時代のほかにもう一つ理由がありますが……それが明かされるのはだいぶ先です。ヤバ気に笑うキャラが出てきたときですかね。
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突貫って、ウ〇キ少尉以外で聞いたことがないな……と思う今日この頃です。それでは次回で。




