第35話 ヒロインは劣化しない。コラムダ語録より
「――ミスった」
スキル『解体』……その仕様を良く聞いておけばよかった。
モンスターカード、素材カードを素材やアイテムに変換するスキルで、スキルレベルが上がることによって取り出す素材のランクが上がったり、出てくる個数や種類が増えたりするドキドキスキルである。
トレカ等にはまった人にはめちゃくちゃ上げたいスキルだろうし、このスキルがパイロットより二倍上がりやすいと言うだけで、生産者を選ぶ人もいるんじゃないかと思うくらいだ。
カードから取り出す素材のランクが上がれば、その素材から生み出すアイテムもランクが上がる……つまりは、生産者にとって基本かつ重要なスキル。
俺がこのスキルを一番初めに使ったのはチュートリアル――コラムダさんが臨時のパートナーを務めていた時である。
その時は『コア』と言う重要なアイテムが出たために浮かれてしまい詳しい説明を受けなかった――と言うより奴がしなかった――ため、俺は今窮地に立たされている。それが――
「まさか、俺とアイリス。両方のMPが必要だとはなー」
「はい……」
アイリスの元気のない返事に苦笑しながら、俺の頭の上のアイリスをそっと撫でる。
精霊AIには精霊AIにすら感覚的にしかわからない「疲れ」と言う隠しステータスがある。これがある限り、MPが尽きるまで解体して休んで……が出来ない。
最初からわかっていれば、採掘の時にはアイリスに休んでもらい、合間合間に解体をして疲れを軽減しながら出来たのだが……まあ、後の祭りである。
この疲れは、安全領域なら半減、マイルームならゼロになるらしいので、いったんマイルームに戻ろうかなー……と考えている最中である。
――コラムダさんVS野良ウルフの激闘を見ながら。
「コラー! サポートNPCメイドが攻撃できないのを知って観戦しているんですか?観戦しているんですよね!? 助けてくださいよー!?」
涙目でこっちを見て叫びながらも的確に竹ぼうきで野良ウルフの攻撃を防いでいるコラムダさん。しょうがないので応援してやることにする。
「コッラムダ! コッラムダ! コッラムダ!」
「幕○内コールならぬコラムダコールは良いですから―!」
そう言いながら、∞を描く様に上半身を振り始めるコラムダさんは本当にノリのいいAIだと思う。おお、マジで躱して……攻撃できないから全く意味がないな。
「いや、本当は俺のアイテムBOXがいっぱいになったら助けようと思っていたんですけど、解体にMPが必要だなんて思ってませんでしたから……もうちょっと時間がかかっちゃうかと」
「うわああいっ!? 初志貫徹は素晴らしい心意気だと思いますけど、若者らしくもうちょっと優柔不断でもかまいませんよ? ハーレム物の主人公の様に!」
「ハーレム……この年齢になると色々考えちゃうんですよね。一人の奥さんが増えることによって必要になる生活資金はどのくらいになるのか……とか。今は良いけど十年、二十年……五十年とか経っちゃった日には、周りには婆さんがいっぱい――」
「夢も希望もない事を!? ヒ、ヒロインは劣化なんてしませんもん!」
ヒロインは劣化しない? ……十年以上姿が変わらない姉神二号が脳裏をバイクで通過して行ったが、あれがヒロインと言うことはあるまい。
「とりあえず、ヒロイン談義は横に置いときまして――ヘルプミー!」
「しょうがない……」
アイリスに剣を出すように頼み、また今回はアイリスには休んでもらうことを伝えた。HPもスタミナもMPも等しく魔力で統一されているのだ。ダメージを喰らわない戦闘でも、解体をこれから何度もしなくちゃいけないことを考えるとアイリスは温存しておかざるをえなかった。
「一度も俺に牙をむけないオオカミを斬る行為はいつも俺の胸を痛める……」
「……カッコよくたそがれている所悪いんですけど、美少女メイドがオオカミに追い詰められているのには胸が痛まないんですかねぇ……?」
「はい(にっこり)」
「最終回の最後の一枚絵の様なにこやかな笑顔で!?」
採掘のスキルレベル等が上がったおかげか、二十回切りつけて倒したが、スタミナが途中で切れることは無かった。俺も徐々に成長してるんだなぁ……単にやる気があまりわかなくて、歩いて追撃していたせいかもしれないけど。
「そもそも、コラムダさんが悶え苦しんでゴロゴロ転がって野良ウルフに激突したのがそもそもの原因なんですから、この野良ウルフは可哀そうな被害者ですよ」
「私を悶え苦しませたトドメの一撃を放った人が言います?」
「……さて。ともかくコラムダさんが持っているカードをアイリスに渡しておきましょうか」
「くぅ!? 言いたいことは山ほどあるのに、セイチ様の頭の上で可愛らしくこちらに両手を突き出しているアイリスちゃんがかわい過ぎて、どうでも良くなってきた自分が憎い!」
そして、そのベストショットを見れない現実――いや、仮想世界が憎いのが俺だ! おのれ、どっかにカメラは無いのか!?
……はっ!? また親バカが発動していたようだ……もはやロボゲーでは無くAI育成オンラインと名前を改めたらどうだろうか?
俺たちは大岩の前に戻って、そこに座った。二人のアイテム移動が終わるまで、俺は手に入れたアイテムを見ていた。
とりあえず解体できたのは二十枚。そこで俺とアイリスのMPは尽きた。
十枚までいっぺんに解体できるらしく、それを二回やった。
出てきたアイテムは、
「『鉄鉱石』が二十、そして……『クズ鉄』が四十か」
クズ鉄って何ですか? クズでも鉄なら鉄に入れてあげればいいじゃないですか。ちくしょー! 僕達は腐ったミカンじゃない!
鉄鉱石のランクはDが十一枚、Eが九枚。初めてのEランクのアイテムである。クズ鉄は逆にBランクが二四枚に、Cが十六枚とランクだけならば高い。
マイルームに帰ってから何が造れるのか調べてからのお楽しみ……と言うことだな。クズ鉄で造れるアイテムがあると良いんだけど……
八つまでスタックできるのでアイテム欄は、鉄鉱石D8/8 鉄鉱石D3/8 鉄鉱石E8/8 鉄鉱石E1/8 クズ鉄B8/8 クズ鉄B8/8 クズ鉄B8/8 クズ鉄C8/8 クズ鉄C8/8と言った感じで、俺のアイテム欄は9/20と十一もの空欄がある。
しかし、二十枚でこれだと……さすがにアイリスが眠らずに全ての作業をこなすことはできないだろうな……しょうがない。もう一度二十枚解体して、採掘で空き欄をカードで埋めたら始まりの遺跡に戻って、マイルームに行くとしようか。
コラムダさんとアイリスの受け渡しが終わった後、また解体をして、つるはし片手にお楽しみであった黄色い粒子の岩肌へ向かうのであった。
素材についてはいろいろ考えた結果こうなりました。ロボットには最低でも合金や複合素材じゃないと――という現実的なお話はポイッしました。ゲームの世界だからOKということで。
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そろそろプロローグから読み直して、誤字脱字や表現のおかしいところを直そうかと考えています。設定のおかしいところ? ……宇宙刑事も言っていたじゃないですか。若さ、若さって何だ? 振り向かないことさ……と! ……すいません、できる範囲で直します……




