第34話 姉より優れた妹など――いてしまう現実
アイリスのカードアルバム50/50。満タン。
俺のアイテムBOX20/20。満タン。
コラムダさんのアイテムBOX20/20。満タン。
「――さて、お楽しみのインストールの時間だ」
「バックルとカードはどこですか? そして世界を救う旅に出ないと!」
「……俺は通りすがりの仮面ラ○ダーじゃないですからね?」
大岩についてから約二時間近くが経過しようとしていた。薬草のカード六枚、モンスターカード四枚を除けば全てが『風岩の塊』のカードである。
頑張った――頑張ったよ俺! 今、スキル欄を覗いたら採掘のスキルlv20になっていたよ! 後半はスキルlvによって消費するスタミナが減ったのか二枚採掘してもスタミナがゼロにならなくなったし!
――そして……『風岩の塊。ランクC』を一枚だけゲットした! 思わずアイリスを抱きしめ、コラムダさんに体当たりした! 「なぜにーっ!?」とか誰かが叫んでいたけど気にしない! さっき黒歴史をしゃべらなくてはいけない状況に追い込まれかけたことなんて気になんてしてないんだからねっ! か、勘違いしないでよねっ!
――こほん。さて、全員が持てるだけカードを持った段階でアイリスもいつもの調子に戻っていた。別にバッドステータスになったわけじゃないけど、気持ちが弱っている子供に何かを頼むのは気が引けたのだ。だから、アイリスが起きてからもインストールは先延ばしにしていた。
だが、今なら大丈夫だろう。無表情の中にも多少の元気がうかがえる。Cランクのカードが出た時から、大分良くなっていた。うんうん、アイリスも嬉しかったんだろうなー。
「それじゃあ、インストールしようか」
「はい、マスター」
選ぶカードは、スライムと野良ウルフが一枚ずつ、薬草のカードが五枚、風岩の塊が……三十三枚ほどつぎ込もうか。
「また、大胆につぎ込みますねセイチ様。教えた私が言うのもなんですけど、そこまで劇的な変化は望めませんよ?」
「いえ、とりあえず四十枚消費して、俺とコラムダさんのアイテムBOXをからにしないとカードの解体が出来ませんから」
そう。そして、俺たちのアイテムBOXがまたいっぱいになるまでカードの解体をした後、採掘作業に戻り、さらにアイリスのカードアルバムがいっぱいになってようやくマイルームに戻る。
「……二人とも飽きません?」
コラムダさんとアイリスに確認しておく。あまりの作業プレイに、普通ならそろそろ飽きが来てもしょうがない。飽きたのなら戦闘をしたり、もうマイルームに戻ろうとしても構わないのだが……
「「いいえ、全然?」」
何言ってるの? 的な首をかしげたポーズで二人揃って答えられた。
「元々、AIは作業プレイには強い精神構造してますから。それは感情表現が乏しいタイプでも、多いタイプでも変わることのない基本骨子です。休憩とかあるのは、別に私たちAIに必要なものじゃなくて、人権があることによって法律で決められた事だからあるだけですし」
「……じゃあ、別にアニメとか見られなくなっても全然平気だと?」
「あっはっはっはっは! ……そんなことになったら、一昔前の映画見たく人類に対して逆襲しちゃうかもしれませんよ? アク○ズ落としますよ?」
じゃあ、ダメじゃん……どうやらコラムダさんは基本骨子がバキバキに複雑骨折してしまっているようだ。医者も匙を投げだすくらいに。
一方のアイリスはどうだろうか? インストールに必要な行為なのか、幼女の姿に戻ったアイリスは俺を見上げて力強く言った。
「私はマスターがいればいつでも楽しいです」
「い、妹の答えの方が女子力が高い……だと? い、いや! 姉より優れた妹がいるなんて、ミトメタクナイ、ミトメタクナーイ!?」
今さらそんな事実に気づいて錯乱するコラムダさん。俺はため息一つ付いて、彼女の肩をたたく。
涙を目に溜めたコラムダさんに、
「悲しいけどこれって現実なのよね」
「グフゥ!?」
トドメを刺しておいた。
ビクン、ビクンと地面で痙攣しているコラムダさんはさておき、俺とアイリスはインストールを開始する。
アイリスの周りに浮かぶ無数のカード……きっと頼んだ四十枚のカードだろう。それが一斉に光の粒子となりアイリスに吸収されていく。
アイリスは目をつぶり、その粒子を受け入れて行く。そしてアイリスの身体が一瞬光って……収まった。
――ザザザ……一瞬視界に入るノイズ。そして、
「おおお……」
モンスターたち――黄色い煙の横にふきだしが出て、そこにモンスターの絵が映し出されてる! スライム、野良ウルフはこれで動きを観察せずともどこにいるのかがよくわかるようになった。
一枚でわかるようになったのは、元々識別がしやすい火属性のサーチがあったからだろう。風属性のサーチだと一体何枚必要になるんだろうか? まあ、初期のモンスターだから一枚で済んだと言うこともあるんだろうけど。
そして、一番の目当ての大岩の方は――
「さすが三十三枚……黄色がある!」
さすがに赤は見える所にないが、白の粒子だけだった岩肌には白の四分の一ほどだが黄色い粒子が増えていた。
モンスターの危険度が、白、黄色、赤、赤黒で危険度が増していくので、白よりはレア度が高いとみていいだろう。
「――と。大丈夫かアイリス?」
「はい、問題ありません」
インストールには別に何かしらの消費は無いのかな?
本当に大丈夫そうなので、次は解体だな……とりあえず俺のアイテムBOXからアイリスのカードアルバムに全てのカードを移し、コラムダさんのアイテムBOXからも……って、まだ死んでるんかい。
俺のアイテムBOXがいっぱいになるまで放っておこう……俺たちはコラムダさんから少し離れた所に座って解体を始めた。
……あ、ゴロゴロ転がって野良ウルフにぶつかった。おーおー、食われてる食われてる。がんばれー……え、どっちを応援してるかって? それは秘密です。
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