第32話 コラムダさん、説明する
「カードには大きく分けて二つの使い方があるんですよ。一つ目はもちろん、解体して素材などのアイテムを入手する方法。そしてもう一つが、精霊AIにデータとしてインストールする方法です」
何やら、コラムダさんにしては有益そうな話(失礼)だったので、採掘の手を休めて座りながら聞くことにした。
コラムダさんは俺に近づいて、そっと俺の頭に両手を近づけて……優しくアイリスをその手のひらに乗せた。
アイリスは予想通り眠っていた……採掘の音はかなり大きかったのに、それでも眠っていられるのは、AIだからなのか、単にアイリスが大物なのか。
さすがに姉さんなのか、アイリスを見るコラムダさんの表情は慈愛に満ちていた……が、それは気のせいだったようだ。
「ほら、見てくださいよ……綺麗な顔してるでしょ。嘘みたいだ――」
「ここにタッチ!」
「それはタッチじゃなくパンチ――あいたぁ!?」
実の妹に対して何と不謹慎な……あれ? 俺も実の姉に似たようなネタをやられたような気も……実の姉なんてそんなものか。けっ。
「ううっ……ほんとーに突っ込みに遠慮が無くなってきましたね、セイチ様……いえ、壁役にされた時点で私に遠慮が無くなったのは……はっ!? もしかして、好きな子に意地悪しちゃうタイプですか!?」
「いえ、好きな子は殺してでも奪い取るタイプです」
「あ、アイスソードが好みのタイプですか……」
――そんな騒がしい漫才の間も目を覚まさないアイリス。どうしたんだろうか?
「アイリス、普通に眠っちゃったとかとは違うんですかね?」
「ええ、まあ。精霊AIはプレイヤーが死なない限り、例え倒されちゃっても小型化してプレイヤーの近くに居ればかなりお手軽に回復しますよね?」
「まあ、確かに」
俺がアイリスに戦闘を許したのはその一点である。痛い思いをしてほしくなかったし、死ぬような――例え疑似体験だろうと、生まれたばかりの子にはさせたくなかったから最初は後方支援しかさせないつもりだった。
だが、逆に俺が死ななければアイリスは基本的に死なないので、戦闘を許可したんだけど……いざ、戦闘をして見るとコラムダさんより頼りになるし、後方支援に回すという考えはすっぱり無くなってたな―。
「でも、それって強すぎじゃありません? 基本的にプレイヤーが隠れて全て精霊AIに任せておけば、回復手段がないモンスターには時間はかかりますけど勝てちゃいますし」
「バカな! 女の子を無理矢理壁役や囮にするならともかく、一人で戦わせるなんて男の風上にも置けない行為をする奴がこの世に居るんですか!? そんな大人、修正してやる!」
「セーイーチーさーまー? 普通は女の子を無理矢理壁役や囮にした時点でアウトですからね!?」
「ただし、コラムダさんを除く」
「除かないでください!?」
なぜだろう? 世界レベルの共通認識を言っただけなのに。AIの世界も奥が深いんだなぁ(しみじみ)。
「……まあ、ともかく。私の扱いについてはいずれ話をつけるとして――」
「俺は! 例え! コラムダさんが魔王の娘だとしても! 態度を変えるつもりは無いですからね!」
「つけるとして! 精霊AIはデスペナの代わりに、小型化による回復量が短時間にある数値を超えると、こんな風に眠ってしまうんです」
なるほど。戦闘、採掘……限界を超えて強制的に手のひらサイズになったこともあったから、かなりの回復量だったろうな……
「冷静なAIなら、その『疲れ』も自分で管理できたんでしょうけど……アイリスちゃんは冷静に見えて、ご主人様大好きな隠れ熱血タイプですからねー……セイチ様のために良いカード手に入れようと張り切りすぎちゃったんですねー」
その妹を見る顔は――って、もう騙されんぞ、おい。
「萌えますよね!?」
予想通り! 当たったけど、うれしくない!
心なしか、眠っているアイリスの顔がウザそうだったので、コラムダさんの手のひらから受け取り、俺の頭の上に乗せ直しておく。うん……寝息が若干だけど穏やかになったかな。
「私の妹が、男の子に盗られた!?」
「人聞きの悪い……それはともかく、カードの話に戻りましょうよ。それで、精霊AIにデータとしてインストールすると、どうなるんです?」
「簡単に言うと、レアなランクが出やすくなったりします」
「は、早く言ええぇええええええええええええええええええ!」
お、俺の今までの苦労は何だたと言うのか!? Dランクばっかしか出ないから、ここら辺はD固定何だなと思っていたぞコノヤロー!
「お、落ち着いてください! いえ、ずいぶん簡潔に行っちゃいましたけど、そんな簡単にレアカードは出ませんから」
……おっと、あまりの興奮に野生化しかけていたようだ。
「もう少しで、愛の心で悪しき空間を断ってしまう所だった……」
「悪しき空間ってどこのことですかね?」
「……ジー」
「あ、やっぱ言わないでください」
俺の視線で全てを察したのかコラムダさんは諦めたようにうなだれた。
そこで反省しないのがコラムダさんなので、直ぐに顔を上げて説明を再開した。うん、俺としては反省してほしいんだけどしょうがない。
「モンスターカードをインストールすればそのモンスターの情報が手に入ります。具体的に言うと、そのモンスターの弱点、落とすアイテム、後はサーチに引っかかりやすい情報ですかね」
「引っかかりやすい情報?」
「例えば風のサーチだと、広範囲だけどどんなモンスターやアイテムがあるかは分かりづらいと説明しましたよね。でも、今は風のサーチを使っていませんけど似たような状態じゃないですか?」
確かに……スライムと野良ウルフを見分ける方法は、今の所、黄色い煙の移動速度で判断している。スライムはほとんど動かない、野良ウルフは縄張りがあるのかそこら辺からは大きく移動はしないが動いている。
「これはカードの質や、与えた量によっても違いますけど、十分なデータが取れれば煙だけじゃなくてふきだしでどのモンスターがいるかとかのデータが空中にちゃんとでるんですよ」
なるほど……今まではモンスターのいる場所しかわからなかった。だが、データを集めればそこにどんなモンスターがいるかわかるようになると言うことか。
「モンスターによって、鳴き声、匂い、足音、羽ばたく音……いろいろ違いがありますからね。その詳細なデータを取れれば、風属性のサーチでもどんなモンスターがいるかの判断がつく……と言うことなのですよ。もちろん、風属性のスキルlvとかにもよりますけど」
「音楽で例えると、カードによって手に入る情報が知識、属性のスキルlvが音感などの感覚の強さということですかね」
「うん、そうですね。潜水艦で言うとソナー員の能力とソナーそのものの能力ですかね? いくらソナーの性能が良くても、素人じゃどんな音を拾ってもわけがわからないのと同じ事ですね」
「それじゃあ、レアなカードが出やすくなると言うのは?」
今のところ一番重要な場所である。
「……おっと、禁則事項の様です。詳しい説明をしちゃダメみたいですね」
「ですね」
ゴロゴロ……お空に雷雲ー……
「それじゃあ、アイテムカードをインストールした場合の説明をしましょうか。こちらは単純明快で、今回の採掘で言うならレアな採掘ポイントがわかるようになる……もしくはわかりやすくなると言った所ですね」
地属性のサーチを補助する感じなのか。今の所、この大岩――カードからわかった名前は風の岩の岩肌には、白い粒子しか見えていない。しかし、カードをインストールすれば……
「他の色が見える?」
「ですね」
……なるほど、なるほど……
「それじゃあ、さっそく――」
「おっと! ダメだガッツが足りない――じゃなくって、アイリスちゃんはお休みタイムだ―!」
「ちくしょー! 寝る子は育てよ!」
仕方ないので、アイリスは寝かせたまま採掘作業に戻った。与えるカードは多ければ多いほどいいんだろうし、採掘のスキルlvも上がるし、決して無駄では無いからな。
コラムダさんとくだらない話を挟みながら、俺はアイリスが起きるまで採掘作業に明け暮れることになった。
遅くなりまして申しわけありません。
カードのインストールは、RPGで言うところのアイテム図鑑やモンスター図鑑をもうちょい便利にした感じですかね。その分、便利に扱うには多量のカードか、高ランクのカードを使わなければいけませんが……
10万PV突破! みなさんどうもありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。
説明回は……生産の時に何回か必要になってしまいますね。しかも、予定ではその時にはコラムダさんはいないので、アイリスにがんばってもらいたいところです。




