第30話 俺のつるはしは天を突くわけがない
あの後、俺は地べたと草の上に座って、アイリスは俺の頭の上で寝そべって、失ったスタミナを回復させた。かかった時間は三十秒くらい。現実じゃありえない速度だ。と言うより、座った瞬間に息苦しさは消えていた。ゲームテンポが悪くならない措置なんだろうか?
その後、最初は心配していたのに、壁役と言うか囮にされたことを思い出したコラムダさんをなだめすかしながら大岩への道を急いだ。
急ぎながら、先ほどの戦果――手に入れたカードではなく、情報と言う戦果をアイリスと確認した。
「俺が十回で」
「私が九回です」
「俺とアイリス二人合わせて、十九回……前回が二十四回だから――」
「やく80パーセントの攻撃回数で倒せたことになります」
「うーん……これで倒した相手がさっきのと同じレベルだったら良かったんだけど」
出てきた野良ウルフのカードはlv5。さっき倒した奴と比べてlvが一低い。これではlv1が低い分楽に倒せたのか、それとも火の補助魔法のおかげなのかが良くわからない。
――スキルlv制のゲームじゃよくあることだ。攻撃している間に、何かしらのスキルlvが上がれば、計算は狂う。しかもこのゲームは隠し要素が多すぎて、数々のゲームを解析してきた強者――解析班と呼ばれるゲーム内の内部数値を調べてきた人間でも、難しいだろう。
「まあ、瞬発力が上がったことで攻撃速度は上がったわけだし、殲滅スピードで言えば今回の方が速いことは確実だから、積極的に使って行こうか。魔法のスキルレベルも上げなくちゃいけないし」
「はい、マスター」
「とはいえ、今は戦闘よりも採掘しに行かないとなー……」
――俺も大いに悩んだのだ。コラムダさんと言う壁役は思った以上に、想像外に、天地がひっくりかえってもあり得ないと思っていたのに……優秀だった。本人には何故か言いたくはなかったが。
コラムダさんの休憩時間は残りはそんな多くないだろう。ラムダさんが言っていた、これから忙しくなる……と言うのは、このゲームのプレイヤーの批評などをネットで見た様子見の人間が一斉にロボオンをプレイすることを見越しての言葉だったのだろう。
しかも日曜日の発表を迎えれば、声優ファンの人間もプレイに参加するんだろうし、チュートリアルエリアを任されたコラムダさんの仕事はさらに忙しくなる。
彼女が手伝ってくれるのは、今日の午前、電気屋が開くまでがリミットだろう。それか休憩時間そのものが終わるか。
ゆえに、戦闘系のスキルを安全かつ効率的に上げて、しかも野良ウルフの素材カードを安全に手に入れられるのはこの時間をおいてほかにない。
だから悩む……が、やはりそれは違うと思ってやめておいた。
効率的なプレイも良い……が、それは相手に得るものがあればの話だ。コラムダさんはプレイヤーでは無い。モンスターを倒した所でカードは手に入らない。防御系のスキルも上がらない。
そして勤務時間でも無い。彼女は単純に俺とアイリスと遊びに来たのだ。
もちろん、彼女が壁役が楽しくて楽しくてしょうがないタイプか、ドがつくMな人なら何の問題もないのだが……
「コラムダさん、コラムダさん。壁役は楽しかったですか?」
「それはとっても。あの鋭利な牙でかまれたり、爪で裂かれたり、とっても楽しかった――んなわけあるかぁですよ!?」
笑顔から一転、雷神、風神並みのいかつい顔になったコラムダさん。ですよねー。最初の野良ウルフとの戦闘がトラウマになってしまったらしい。半分俺のせいであるが、半分コラムダさんのせいでもあるので気にしないでおこう。
そんなわけで、当初の目的通り、生産系のスキルのlvを上げておくと同時に装備を整える方針に変更は無し。俺たちは大岩へ向かったのである。
走って、スタミナが尽きたら歩いて……を繰り返し、あっという間――と言うほどではないが、当初の予定よりは早くついた。
スライムは音に反応しない。野良ウルフは音に反応するけど、コラムダさんがいれば一匹程度なら安全に――楽ではないけど――勝てる。なら、走ろうと言うことになったのだ。
目的の大岩の前。この距離まで近づくと、大岩の岩肌にいくつものきらめく粒子が立ち上る個所があった。あそこが採掘ポイントか。すでに地属性の魔法を覚えているため、かなりの数がアイリスのサーチに引っかかっているようだ。
「それで、どうやって掘るんだ?」
……あれ? もしかしてやっちゃったか?
元々、採掘は予定になかった。戦闘と採取の経験を積めればいいと。もしかして採掘にはつるはしとか、そう言うアイテムが必要だったのかなー……
「マスターこちらを」
「アイリス?」
俺の頭からふわりと浮かんだアイリスが、立体映像のメニュー画面を掴んで俺の目の前に降りてきた。そこには俺の装備画面があった。
アイリスがその画面を小さな手で横に勢いよくずらすと、装備の一覧が変化した。
「へえー……生産用装備アイテムの欄なんてあったんだ」
採掘、採取、伐採……お、つり竿もある。鍛冶、装飾、裁縫、錬金、大工。一通りの欄があり、そしてその全部が埋まっている。もちろん、初心者用装備なのだけれど。
「じゃあ、採掘にはこの初心者のつるはしを使うのかな?」
「はい。言ってくだされば私がお出しします」
「じゃあ、お願い」
剣を出す時と同じ要領らしく、アイリスに頼んだら目の前の空中につるはしが現れた。それを掴んで一振りする。うん、やはりあまり重さは感じない。
「なんで、ドリルじゃないんでしょうかねー……墓穴掘っても掘りぬけられるのはドリルくらいなもんなんですよー」
天元突破しそうなコラムダさんは放っておいて、俺――と俺より小さいつるはしを持った幼女化したアイリスは、それぞれきらめく粒子を放っている岩肌へと向かった。
ドリルは男のロマンであり、AIのロマンでもあったようです。いや、コラムダさん限定でしょうけど。
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