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第29話 第二次野良ウルフ大戦Z

「無能メイドバリヤー! 無能AIバリヤー!」

「痛っ!? イタタタタタタタッ!? ちょ、セイチ様!? マジで女の子を壁役にしてその胸は痛まないのですか!? と言うより、何気に言っていることが酷くありません!?」

「痛いに決まってるじゃないですか! 胸が――心が痛いっ! でも、その痛みは、俺が、俺一人が引き受ければいいんです!!」

「カッコいい事を言っているけど、やっていることは非道もいいとこですからね!?」

「無能姉さまバリヤー」

「がふぅ!? ど、どうしてくれるんですか、セイチ様!? アイリスちゃんが真似しちゃったじゃないですか!? どんな攻撃より一番効きましたよ!?」

「いいぞー、アイリスー」

「……えへへ」

「褒めろと言ったんじゃないですからね!?」


 ――はい、そんなわけで野良ウルフ二戦目中である。

 今度は一匹で、しかもこちらから仕掛けた。不意打ちだった一戦目とは違い、こちらの士気は――約一名を除き――とてつもなく高かった。


 茶色の毛並みを持つ野良ウルフは、何度もコラムダさんに向かって跳んでは噛みつこうとしたり、爪を振るったりしているが、さすがのコラムダさんも前回――何故か地面に倒れた状態だった――とは違い、回避したり竹ぼうきで防いだりして噛みつきだけは避けている。


 先ほどの戦いの時も疑問だったのだが、なぜかコラムダさん以外を狙おうとはしないのである。この疑問は大岩に近づく途中でコラムダさんが教えてくれた。

 サポートNPC――街中とかで依頼を受けたりする時に、たまにノンプレイヤーキャラたちが手助けしてくれることがあるんだそうな。それは剣士だったり、料理人だったり……そしてメイドだったり。


 そしてサポートNPCのメイドは、『アイテムを20個持ってくれる』と言う言わば動くアイテムBOX的な役割がある。主に、とてつもない納品数が必要な依頼で手助けしてくれる。


 ――だが、その特性はそれだけでは無い。マイナス効果もあるのだ。

 このメイド――モンスターに発見されたら、確実に第一目標にされてしまうのだ。最初から最後までヘイトMAXだぜー! 的な。


 しかも、もし倒れられたら、その時に預けていたアイテムは全ロストと言う世にも恐ろしい結末が待っているのである。「立て、立つんだフ○ウ・○ゥ! 君は強い女の子じゃないか!」と叱咤激励されてもなかなか立ち直れないレベルじゃなかろうか?


 そのかわり、メイドにあるまじき防御能力とHPを兼ね備えているので最序盤のこんな所じゃ中々死なないのである。誰かに敵の目の前に投げつけられたりしなければ。

 そんないい事を聞いた俺は、アイリスと二人でコソコソと話し合い、あることを決めたのだった。


 ――そうだ。本当にコラムダさんを壁にして実験しよう。

 そうだ京都に行こうレベルであっさりと決めた俺たちは、近場に居た野良ウルフに声をかけたのだった。


 襲い来る野良ウルフ……! 悲鳴を上げるメイド……! その背中を全力で押す俺たち……! 激闘の火ぶたは切って落とされたのである!


 そしてコラムダさんを前面に押し出した俺たちは急いでその場から離れて、横から攻撃出る位置取りをする。


「「ヒート・アップ!」」


 俺たちは時間制限付きの強化魔法――瞬発力をアップする火の補助魔法を二重詠唱で唱える。先ほどの戦闘ではMPの都合上使えなかったので、これを一度試したかったのだ。


 MPの消費量は後でアイリスに聞くとして、問題はこの魔法を使えばどのくらいの攻撃回数で野良ウルフを倒せるか知りたかったのである。

 正確には測れないだろう。どこに、どう当てれば、どの程度のダメージ倍率なのかもわからないのだから。それにスキルlvで効果も効果時間も変わるらしいし。


 それでもどの程度使えるのかを知っておきたかったのだ。強化魔法って言うのは、地味だが終盤まで使えるのがRPGではお約束だからな……まあ、ラスボスになるとわけのわからない波動で無効化されてしまうわけなのだが。


 熱い感覚が身体と四肢の中心に一瞬走り、そして温かい感覚が残る。

 俺と同じ感覚を味わっているであろう、隣に立っているアイリスに視線を向けると、アイリスもこちらを見ていた。俺たちは同時に頷き合うと、最初に決めていた通りにまず俺が先に走り出す。


 グンッ――と、予想外の加速。そうか――瞬発力のアップだから、普通に脚力とかもあがるのか――!

 ちょっと、慣れるまでキツイ……な。いきなり、自分の足が速くなったら誰だって戸惑うと思う。いきなりこけたりしないのは、何かしらの補正が働いているのだろうか。


 野良ウルフがコラムダさんに跳び付き、攻撃するタイミングを計り剣を振るう。思考ルーチンは序盤の敵だからなのか単純そのものなので、タイミングを取るのは難しくなかった――この慣れていない瞬発力の足で無ければ。


「こっ――のっ!」


 無理やり剣を振るって当てに行く。斬るんじゃなく、当てに行くだけになってしまったが、それでもこの突進力と魔法の力によって速く振るわれた剣は、かなりの威力となって野良ウルフの胴体に当たった。


「ギャウ!?」


 アイリスの邪魔にならないように、悲鳴を上げて吹っ飛んだ野良ウルフに追撃はせずにその近くまで走り抜ける。

 アイリスはさすがのAIの対応力なのか、俺よりスムーズに走って倒れた野良ウルフに斬りつけた。


 さすがに二回では倒せない……が、どんなに斬りつけてもコラムダさんから引きはがせなかった前回と違い、ノックバックさせることができた。これは大きな成果と言えなくもない。


 立ち上がり、コラムダさんの方向に力を溜めて駆け抜けようとした野良ウルフに、俺とアイリスは剣でたこ殴りを開始する。瞬発力が上がったため、攻撃の間隔が短くなった。すさまじい連打を浴びせる俺とアイリス――実験のことも忘れて、その両腕が速く動く感覚に夢中になった。


 ――が。それも長くは続かなかった。効果切れ――三十秒もったか、もたなかったくらい……か。

 腕が重く――いつも通りに戻ったが、そのまま勢いよく剣を振り下ろす。


「が、ガゥ……」


 倒した――カードが現れた時、感じたのは達成感よりも、


「はぁ……はぁ……す、スタミナ切れ……か?」


 呼吸の苦しさだった。

 走って、剣を振るいまくった。前回よりも動きが激しかった分、スタミナ切れになるまで力を使ってしまったらしい。前回はやる気がなかった分、動きもあまり激しくなかったしなー……てへっ。


 現実よりは軽く、けれど無視できない疲労感。

 宙に浮いている野良ウルフのカードを挟んで向こう側に居るアイリスも、手のひらサイズに戻っていた。向こうも力が尽きたらしい。

 

 確かに……瞬発力は上がっても、スタミナが上がるわけじゃないんだから、息切れも早くなるのは当然と言えば当然か……

 と、ともかく、スタミナを回復させないと……俺がその場に座り込むと、アイリスもフラフラこちらに飛んできて俺の頭に着陸して寝そべった。


 とりあえず……どのくらいの攻撃回数で倒せたのかは、呼吸を整えてからアイリスに確認するとしよう……

 壁兼おとり役を任されたコラムダさんが心配そうな顔でこちらに走り寄ってくるのを確認しながら俺は息を整えつつ、頭のアイリスをねぎらう為にその頭を指で撫でるのだった……




 戦闘回はこれにて終了です。


 お気に入り登録、感想、評価、ありがとうございます。次回、採掘……だと思います。決定でないのはコラムダさんのせいですね。

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