第27話 メイドの戦い
「薬草カード、ゲットだぜー!」
それはカードマスター(自称)が薬草を取る度に叫んでいた事から始まった。
俺にも問題はあったのかもしれない。アイリスが「姉さま、あの……」と止めようとしていたのに「シッ! 見るんじゃありません!」とアイリスの教育を優先してしまったばっかりに……
カードマスター――コラムダさんも突っ込み待ちだったのかもしれない。だが、俺はここで甘やかしちゃならんと、アイリスと魔法について話し合っていた。
どうやらロボオンのスタッフは、現実の説明書=必要最低限、仮想世界の説明書=まともな説明書……そしてそれより優秀な説明書=精霊AIと言う塩梅にしたようだ。
これなら話ベタな奴でも、精霊AIとの会話のタネがいくつかできるわけである。その過程で仲良くなってくれれば……と言うことなのだろう。俺も普通ならその好意に甘える所なのだが、アイリスは無表情だがスキンシップ好きだし、俺は無表情を読み取るのは得意なので上手くかみ合っていた。
そんなわけで、あまり攻略情報関係の話は行き当たりばったりになってしまっていたのだが、魔法については色々事前情報が知りたかったので、コラムダさんを無視するついでにアイリスに説明してもらっていたのだ。
――が。俺とアイリスの仲睦まじい説明会はコラムダさんの涙の三度目の叫びと共に中断された。
「マスター! 敵です!」
「!?」
手のひらに乗せていたアイリスが、俺たちが向かっている先の斜め前方を指さした。そう、確かに黄色い煙が凄い勢いで近づいてきている……! しかも……
「二つ!?」
「あは、あははは……」
俺の叫びと、コラムダさんの乾いた笑い声。俺とアイリスは、近づく敵の反応から目をそらして、コラムダさんを睨む。
「せ、セイチ様……」
「何でしょうか?」
「そのですね……普通の会話程度なら、このロボオンはウイスパー……ささやき声として、極一部の敵以外には聞き取れない声と判断されますが……」
「されますが?」
「大声、怒鳴り声などはウイスパーが解除されて、普通にモンスターにも聞こえるようになりまして……」
「な・り・ま・し・て?」
「野良ウルフちゃんなんかは、音や声に反応するタイプのモンスターなので……襲ってきます」
「それは、それは……良い事を聞きました」
「いえいえ、どういたしまして」
俺の満面の笑みと、コラムダさんの引きつった笑み。
俺は普段なら絶対出来ない行為――女の子の胸倉を遠慮なく掴んで……
「絶対領域にして心の壁――AIフィールドォオオオオオオオ!!!」
「一文字違いますぅううううううううううう!!!」
仮想世界の腕力を活かして、向かってくる黄色の煙の一つの前にブン投げた!
「きゃあああああああああああああ! ワンちゃんが、ワンちゃんが! 私を食べた所でホニャララ機関とか取り込めませんよぉおおおおおお!?」
「アイリス! お前の姉ちゃんの捨て身の好意を無駄にせずに、俺たちはもう一つの反応に先制攻撃を仕掛けるぞ!」
「はい! 姉さまの仇は私が!」
「死んでません! 死んでませんよぉおおおおおおおお!!」
ゾンビが何かを言っているが気にしない方向で。
アイリスが手のひらサイズから、幼女サイズになり、俺と同じ方向に――こちらに向かってくるもう一つの反応に手をかざす。
熱い何かが手のひらに集まって行く感覚。指先に力を込めるように、その感覚を強くして、
「「アース・ブリッド!!」」
俺とアイリスの呪文が重なり、手の熱い感覚が外へ飛び出すと、指先に現れたのは拳大の岩の弾丸達。
それが一斉に煙の発生元に突撃する!!
「ギャウン!?」
そんな叫び声と、ドガガガガガッ!! という岩が肉と地面を撃つ音が連続して響いた。
そして宙に現れるカード……一撃で……やった?
そんな静かな興奮が胸を襲ったが、コラムダさんが死闘を繰り広げている割とどうでも良い光景が目に入ったので仕方なくそちらに意識を向ける。
「もう一度、今の撃てそう?」
「いえ……七割近くマスターのMPは消費されています。私の方も、戦闘時間は一分持てば良い方です……」
そう、アイリスの説明を聞いている時に一番重要なポイントがまさにこのことだった。俺たちプレイヤーには無理だが、精霊AIには俺たちのHPやMPの状況が大体なら分かるようなのだ。
そのアイリスが、俺のMPが七割消費されたと言うのなら、今の一撃はこの戦闘中には無理だろう。
俺とアイリスは、ワンワンと戯れているメイドの女の子――風に見えて、実は狼に食われかけているコラムダさんを救いに行ったのだった……やる気が半減していたのはしょうがないと言えよう。
精霊AIが本来ならプレイヤーが持っている能力を持っているのは、このロボオンをゲームとして割り切ってプレイするプレイヤー対策だったりします。
ロボオンスタッフ達にとってもAI達は子供みたいなものなので、最低限大事にされるような措置が取られているのです。
プロローグ含めて三十話になりました。ここまで続けてこられたのも見てくれる皆様がいてくれたおかげです。ロボット? なにそれ、おいしいの? な人に大感謝! ロボット待っている人には大土下座! もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。




