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プロローグ3

 さて。とうとうロボゲー・オンラインの発売日である。

 いや、ちょっと待って。コホン。ロボオンの発売日である。病室が一緒だった少年が言っていたように、公式も認める略称はロボオンなのだそうだ。ふう、流行に乗り遅れるところだったぜぇ。


 俺もあの後調べてみたのだが、やはり様子見の人は結構いるらしい。ネットのショップでもいまだに予約を受けつているところをみると、かなりの数が余っているようで、本当にこのVRMMO大丈夫か? いや、問題ない……と言いたいところである。


 まあ、そもそもパーティープレイがしたいとか、有名ギルドに入りたい、創りたいとかいう目的や目標はないので別段かまわなかった。MMOなのに一人ですることをソロプレイと言うらしいが、基本的に俺はそのソロプレイで行こうと思っている。


 時計の針が九時を指し示したところで俺はVRシステム(椅子)から立ち上がる。ロボオンのソフトを買うために近くの電器屋へ向かうことにする。ちょい早いが……ほしい物の発売日ってみんなこんなもんだよね?


 はやる気持ちを抑えつけながら、スポーツサンダルを履いて外に出た。そこには――


「私、参上!」

「き、貴様は……姉二号!」


 そこにはライダースーツを着ているところはいいとしても、ヘルメットをかぶったままマンションの通路で変身ポーズを決めているちょっと頭のおかしい我が姉がいた。


「おお! 行くぞ本郷!」

「ああ! 一文字ぃ!」

「……二人してボケると話が進まないんだけど」

「それは俺のせいなんだろうか?」


 ともかく、近所の人に警察に通報される前に姉を家に入れる。

 相変わらずものすごい小さい。何が、と言われれば全部と答えます。背も、胸も、尻も、手も、足も何もかもが小さいのが我が姉二号である。ちなみに姉一号はその逆である。


 技の一号。力の二号とはよく言ったもので、姉神様は手先も器用で頭もよく今は外科の先生になっており、姉二号は小さいながらもパワフルで空手と柔道で何度も全国大会に出場していて今は空手の道場の師範代をしている。


 その小さな姉のほうは、ヘルメットを外し長い髪をうっとうしそうに頭を振って背中に流すといきなり部屋を物色し始めた。止めても無駄なので放置していると、


「あの女の匂いがする」


 とヤンデレみたいな発言をし始めた。いや、あの女ってあんたの姉でもあるんですけど?


「そしてこれがあの女が貢いだプレゼント……てわけね」


 リビングから俺の部屋にこれまた無断で進行する姉。俺の愛しのVRシステムを舌打ちとともににらむと、なぜか腰だめに構えて……?


「ラ〇ダーパン――」

「まてぇえええええええええええええええええええええええええ!!」


 俺はその小さい体を押し倒すように横からタックルするが、マジでびくともしねえよこの姉!


「弟! そこどいて! そいつ壊せない!」

「やめんかああああああああああ!!」

「悲しいけど、これって戦争なのよ……」

「いや戦争じゃねえから! なに、変な薬でも使ってんの!?」


 俺が必死でパンチを出させまいと体を張ると、小さいほうの姉は子供みたいに大粒の涙を目じりにためて、


「だって! あの姉ってば、久しぶりに会いに来たかと思ったらドヤ顔で弟に高額のプレゼントをしてやったなんて自慢するんだもの! 同じ姉として私のプライドは痛く傷ついた! あの胸と尻と頭の中身と金回りがすごいだけの姉がぁあああああああああ!!」

「それってだけってレベルじゃないけど、ちょっと待とうぜお姉ちゃん!」


 マジギレする姉をなだめるのにかかった時間は……一時間だった。電気屋ェ……




「――というわけで、私も久々に弟を甘やかしたくなったので来ました!」

「あんたがやったことは、弟の寿命を縮めるだけだったけどな……」


 子供のようにきれいに挙手して言う姉に、俺はあと少し動いたら死ぬくらいの土気色の顔色で言ってやった。


「大丈夫よ! 私が三年前にドラゴ〇ボールで家族を不老不死にしといてくれって頼んでおいたから」

「うん……姉ちゃんの強さはサ〇ヤ人だからと言われても、俺は驚かねえよ」


 何とか俺の部屋からリビングに戻ってきた俺たちはテーブルをはさんで座ると、落ち着いて話をし始めた。


「まあ、そんなわけで、私も二十歳のお祝いにこれを手に入れてきました」


 どうやって入れていたのか……放り出していたヘルメットをたたくと、箱状のものがポロッとテーブルの上に転がった……ってこれは!


「ロボゲー・オンライン!!!」

「ふふん!」


 ドヤ顔を決める姉を視界の端に入れつつ、類似品という可能性を捨てきれない俺はパッケージの後ろなどもちゃんと確認し、これがまぎれもなくロボオンのソフトだと理解する。


「ど、どうやって……」

「実は下ぼ――じゃなくって、舎て――でもなくって……えーと知り合いにパソコンショップで働いている奴がいて、店が開く前にもらっ――じゃなくって、売ってもらったの!」

「つまり、下僕であり舎弟でもある人がパソコンショップで働いているから、ちょっと脅しをかけてゼロ円と言う低価格で譲ってもらったわけですね。ええ、わかります」

「ち、違うし! 向こうが半額でいいって言うから半額だけど払ったよ!」


 いや、半額って……二万五千円もよく値下げしたなその人も。


「う~……なによ、うれしくないの?」

「めちゃくちゃうれしいっす! ありがとう! 姉神二号様!」

「うん、よろしい!」


 そう、子供のような満面の笑みでうなずくと、早々と立ち去ろうとする姉神二号。


「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

「私もやりたいソフトがあるのに、長居するほどKYじゃないって」


 そう言うと、マンションの三階から当たり前のようにジャンプして歩道までショートカットすると、置いてあったバイクにまたがり、颯爽と去っていく姉神二号。


 うん……まあ、ソフトをいくら早く手に入れようと、サーバーの開始時間が午後一時だから別に朝一で手に入れられてもそこまでありがたくないとか……そんな無粋なことを言わない俺は、いい弟だと思う。

ようやくプロローグが終わります。

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