第25話 第二次スライム大戦
「サーチ」
アイリスがそう唱えると、草原に『色』が増えた。
黄色い煙と緑色の輝く粒子。
柱の安全地帯から少し離れて、まずは近くの緑色の輝く粒子が出ている地面に近づく。
「お、もしかして薬草か?」
「はい、マスター」
アイリスに確認を取ると、やはり他の草と毛色が違うこの草は薬草らしい。
ためしに取ろうと手でつかんで引っ張ると――ポンと言う音と共に、カード化した。
「『薬草のカード。無属性。ランクD』か……モンスターのカードと違うのは、lvが書いていないところくらいか」
試しに解体したい所だが、マイルームまで我慢すべきだろう。
なにせ、今のところのアイテムの所持数は装備を抜かして20しか無い。スタックは八個まで出来るのだが、ランクが違えば別アイテムとして扱われるので、下手に薬草ランクE、D、Cとか出たら三つもアイテム欄を埋めてしまうことになる。
逆にカード状態ならば……
「アイリス、頼む」
「はい」
俺の手に持ったカードが光の粒子になって俺の頭上……アイリスに吸収された。
そう、精霊AIはカード状態のアイテムならば50枚まで所有できる。
だから、カード状態で持っていた方が良いと思われるが……ここで、デスペナルティーについて話しておくか。
ロボオンの世界で死ぬと強制的に行ったことがあり、死んだポイントから一番近くの町(始まりの遺跡含む)で復活する。そして一定時間経つまで各ステータスにマイナス補正がつき……その時に持っていたカードからランダムで所持していた枚数の半分が失われるのだ。
つまり、レアカードはすぐさま解体してアイテム化しておいた方が良いと思うだろうが……解体にもスキルレベルがあるから、ランクの低いカードを解体してレベルを上げてからレアカードを解体した方が良いアイテムは出やすいのだ。ここら辺は確実さを取るか夢を取るかはジレンマだなー。
ともかく、採取は完了だな。ロボを造る上で一番大事な鍛冶を上げるためには鉱石系のアイテムが欲しいけど、ありそうな岩はセーフティポイントである柱からちょっと遠いな……まあ、戦闘でどのくらい苦戦するかで行くか行かないか決めるか。
「キラキラ粒子がアイテムなら……煙はモンスターってことでいいのかな?」
「はい。緑が楽に勝てる相手。黄色が同ランクの相手。赤が苦戦する相手。赤黒いのがどう足掻いても勝てない相手……となります」
最期の言葉を聞いて、勢いよく辺りを見回す。煙は……黄色だけだな。良かった……
やはり最初は小型系のモンスターしか出ないようだな。まあ、いきなりハイ・ゴーレムでしか太刀打ちできない様な巨大モンスターが現れたらたまったもんじゃないけど。
じゃあ、次はモンスターか。一番近くの五十メートルくらい先の相手に狙いをつけて……と、その前に。
「行きますよー。コラムダさん」
「……乙女の顔を破壊しておいてどの口が言うんですか!?」
人聞きの悪い。あんな罠に引っかかった罰に、掴む所を口のあたりにして、変顔させただけじゃないですか。アイリスが俺の頭の上から転げ落ちて、身体を震わせて笑いをこらえていたのは、まあご愁傷さまと思うしかないわけですが。
しかも、ノリノリに「謀ったな、謀ったなセイチ!」とか言ってきたので「君は良い友人だったが、君のお父上が悪いのだよ」と返したら、変顔のまま嬉しそうにしていたくせに。
コラムダさんはほっぺたを膨らませながら、いじけて座って汚れたお尻をパンパン叩いてこちらに近寄ってくる。
「それで次は何をなさるんです? コラムダさんを褒め称えるとか、コラムダさんを撫で撫でするとかですか?」
「あ、すいません。死んだご先祖様がそれだけはするなって」
「なんてピンポイントな遺言残してるんですか!?」
「きっと初陣でコクピットだけを貫けるタイプの人間だったんでしょうね」
「その人は何色の悪魔なんですか……」
とりあえずコラムダさんのほっぺたのふくらみが戻ったので、モンスターの元へ向かうことにする。
草原全体に生えている草は俺の膝もとまであるので、小型のモンスターの姿は良く見えないので、足音をあまり立てずにゆっくり近寄って視認できる範囲まで行く。
「……緑色のスライムだな」
感想はそれだけだった。
草が保護色になっていて近寄らなければ見つけ辛いが、一度近寄れば半透明の緑の液体の中心に色の濃い緑色のコアがよく見える。チュートリアルクエストで見たレッド・スライムの緑版なだけである。
――だが、油断はしない。コラムダさん曰く、チュートリアルクエストで出したスライムは攻撃も反撃もしてこない練習用らしいからな。
「スライムは目も耳もありませんから、敵対行動しない限りは襲ってきませんよ」
「え……」
いや、ゲームではよくあることだし、この世界はゲームだけども……専守防衛の相手に攻撃するって……日本人なら誰でも躊躇するんじゃないかなー……
だが、そこを乗り越えなければいけないんだっ! ……俺はスライムを攻撃するのになぜに悲壮な決意を抱いているんだろう?
「アイリス、武器を」
「了解です」
邪魔になるので、初心者の剣を外していたのをアイリスに頼んで改めて装備する。別にメニュー画面を開いて装備することもできるのだが、アイリスに頼んだ方が早い。
精霊AIはプレイヤーの命令で、アイテムや装備などをメニュー画面を開かずとも一瞬で使うことができる。今は無いが、回復アイテムをピンチになったら遠慮なく使えと頼んでおけば、わざわざピンチの時に声をかけなくても使ってくれる。
空中に現れた剣を掴んで、スライムに斬りかかろうと……
「――敵対行動って、一回攻撃するってことですか?」
気になったので、振り向かずにコラムダさんに聞く。
「いいえ? 攻撃しようとすれば、それはもはや敵対行動とみなされます」
その言葉に反射的に横にステップする。視界にうつったスライムは、まるで力を溜めるかのように縮んだからだ。
予測通りに、俺の身体があった場所に緑色の液体が打ち出された。人の頭くらいの水の玉。数メートル飛んで、地面に落ちた。ジュ……と言う音とともに、その場所から煙が上がる。と、溶けちゃうタイプの液体かなー……はっはっはっは……
「……こ、攻撃ー!」
俺は二人にそう宣言すると、一歩で距離を詰めてコアを狙って剣を振り下ろす。かすかな抵抗、確かな手ごたえ……だが一撃で消滅しない! さすがにチュートリアルクエストのスライムとは違う!
頭の上から重みが消失。次に起こることが容易に想像がついたので、邪魔にならないように背後に跳ぶ。
スライムの頭上で人型サイズに戻ったアイリスが、黄色の盾と白銀の剣を装備し、剣の切っ先を下に向けて重力に従い突撃した。ドスッ――剣は確かにコアを貫いたが……どうやら……まだか!
アイリスがその場から跳ぶのと同時に、アイリスにスライムの緑色の水の玉を飛ばす攻撃が――
「させませんよっ!」
にやりと笑ったコラムダさんが竹ぼうきをフルスイングして、アイリス目掛けて飛んでいた水の玉を叩きつぶす。今、初めてあなたを褒めたくなりました!
攻撃が効いたのか、それとも自分の体の一部である水の玉を出した影響か、スライムのコアの周りの液体は大分少なくなっていた。
俺はもう一度踏み込んで、コアを両断する――そして、スライムは……光の粒子となって消えた。残ったのは宙に浮かぶカード。
「ふぅー……最初の戦闘にしては、うまく行ったんじゃないか?」
戦闘の興奮か、ただ単にビビっただけか……内心のドキドキを隠すように、二人に冷静に戦闘の評価を聞くと、
「ご無事で何よりです、マスター」
「どうです、セイチ様! アイリスちゃんには指一本触れさせませんよー!」
こちらを気遣うアイリスと、自分の戦果に満面の笑顔を浮かべるコラムダさん。やっぱり、現実世界も仮想世界も女子は強いなーと思った。
初めて小説を投稿してから一ヶ月が経ちました。この一ヶ月に色々ありました。
お気に入り登録数に一人入っていた時の感動のことは忘れられません。感想、評価の時もそうですね。みなさん、どうもありがとうございます!
一人でも見てくれる人がいる限り、完結まで頑張りたいと思います! お付き合いくださるとうれしい限りです。




