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第23話 歩くのは健康にいい

「朝だな」

「朝です」

「朝ですね」


 ……ゲートまで歩いたら朝になりました。

 いや、コラムダさんにこう言うモンスターが現れない場所で歩いても歩行スキルは上がるの? と聞いたら、上がりますとの返答をいただいたので。


 遺跡に乱立している柱は移動ポータルらしく、近づけば他の柱に一瞬で移動できるのをあえて無視して歩きました。いや、遠い。遺跡中心近くとはいえから歩いて三十分以上って。


 おかげで『歩行』スキルが五から七に上がりました……ログアウト勧告出るまで遺跡をぐるぐる回ろうかなと思ったのは二人には内緒だ。

 ……いや、だって歩くだけでレベルが上がるんだよ? しかも人がいない今なら、「あいつ何やってんの?」的な視線を向けられること無く延々と円形のこの遺跡の外縁部に沿って歩き続けることが……


「セイチ様~? 歩くのはフィールドにしましょうね~?」


 まさか、コラムダさんに釘を刺されるとは……明日の天気はブタでも降るかなー……

 ともかく東側ゲート、風の草原の入口に辿り着いた俺たちは巨人も通れそうなもんの横にある巨大なクエスト提示版を見上げる。


「三つしか無いですね」

「と言うより、セイチ様の能力じゃあ、三つしか見えないと言った方が正しいですね。まあ、元々繰り返し系クエストの数は多くありませんけれど」

「ファイトです、マスター!」


 アイリスの力強い励ましに苦笑しながら、受けるクエストを吟味す……うん、三つじゃ吟味もクソも無いか。


『グリーン・スライム退治。十体討伐で依頼完了。500ラムス』

『野良ウルフ退治。十体討伐で依頼完了。1000ラムス』

『薬草採取。十本納品で依頼完了。300ラムス+回復薬(ランクE)』


 ラムス……この世界の通貨である。歩いている途中で調べたが、プレイヤーが最初から持っているお金は3000ラムスの様だ。

 さて受ける依頼は……少なくとも薬草は受けるべきじゃないな。わざわざ回復薬を作製する回数を減らすことは無い。


 後はグリーン・スライムと、野良ウルフ……値段的に野良ウルフはグリーン・スライムの二倍くらい強いってことか?

 ――まあ、依頼は五つまで受けられるみたいだし、このクエストは繰り返し受けられるだけに特に時間制限もないようだ。二つ受けるか。


 メニュー画面を開くと、提示版の前でだけ出る項目、『依頼』をダブルクリックして二つの討伐系の依頼を受けた。無論、無理にでも今回のフィールド探索でクリアーすることは無い……と自分に言い聞かせる。


 嫌なことは早く済ませる主義……だが、今回はダメだ。アイリスはなるべく危険な目にはあわせたくない。いざという時は、コラムダバリアーをうまく使うことにしよう……いや、もちろん冗談ですよ?


 ゲート。巨人も通れそうな巨大なゲートから見える景色は、まるで揺れる水面の様に揺らいでいる。

 片手を突きだすようにその中に入れると、ゲートが輝き――


 俺たちは風の草原に立っていた。柔らかで心地のいい風が頬を撫でて行く。

 背後には『始まりの遺跡』にあった柱と同じ……つまり移動ポータルだ。つまり、始まりの遺跡からここにワープしてきたってことか。そしてこの柱の近くなら、始まりの遺跡に一瞬で戻れるのだろう。


 辺りの風景を確認する。チュートリアルクエストの起伏があまり無かった草原と違って、小高い丘があったり、大きな岩があったり、木々が生えていたりして、似たような風景がずっと続くと言うこともなさそうだ。


 とりあえずの目標は、


『何度か戦闘を経験する』

『ほぼ全ての生産系のスキルを上げなければいけないので、手当たりしだい素材を採取しておく』

『運が良ければ風属性のコアが欲しい』


 くらいかな。あまりガツガツしないでのんびり楽しく行こう。戦闘と素材採取の二つを経験しておけば、次回にはそれらの対策も立てられる。兎にも角にも、手探り状態のこの状況から抜け出すことが目標だ。


「二人とも――」


 そろそろ行こうか……と声をかけようとして、二人が辺りの光景に目をキラキラ輝かせているのに気づく。

 そっか、アイリスにとっては初めての外か。ここは仮想世界だから……云々はこの際横に置いといて。


 だが、コラムダさん。あなたは違うでしょうよ。そう聞くと――


「ふっふっふっふ。ここはチュートリアルエリアと違って、様々なものに満ち溢れているんですよ。セイチ様とアイリスちゃんじゃ、まだ感じ取れない数多くの物が」


 とのこと。意味深な発言である。


「アイリスも、そろそろいいか?」

「あ、はい。すみません、マスター」


 謝るアイリスの頭を撫でて、俺たちは風の草原の冒険を開始したのだった。






 PV50000アクセス、ユニーク10000人突破ありがとうございます! こんな作品でも読んでくれる人がいる限り、頑張って続けようと思っています。


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