第20話 マイルームの中心で愛を教えるセイチ
メールは運営――ラムダさんからだった。
『――精霊AIを無事に手に入れられたようで。おめでとうございます。本来ならばチュートリアルクエスト中に渡す筈だった武器を、こちらの――あのバカ娘のせいで手に入れられなかったこと深くお詫び申し上げます。つきましては、初心者用の武器一式をアイテム倉庫に送らせていただきます。セイチ様、蛇足になってしまいますが、私の可愛い娘のこともよろしくお願いします』
……だってさ。
俺はその立体映像を掴んでアイリスの前に置いてやる。アイリスは視線で「見てもよろしいのですか?」 と聞いてきたので笑いながら頷いてやる。
良いもんだな、家族って言うのは……と臭い事を思いつつ、俺はアイリスに背を向けてアイテム倉庫の中身を確認する。
そこには初心者の短剣、初心者の剣、初心者の槍、初心者の斧、初心者の弓、初心者の矢×50、初心者の杖があった。
――さて。チョイスの時間だな。
スキル制じゃないアクションRPGなら相手によって武器を使い分ければいいが、スキル制のゲームなら、一つの武器を使い続けてスキルレベルを極めたほうが総じていい結果が出やすい……はずである。ロボオンにそれが当てはまるかどうかは、攻略組のみなさんに頑張ってほしいかなー……と言う人任せスキルを発動させていただこう。
まあ、剣……かな? 疑問形なのは、どの程度の大きさかわからないからだ。アイテムの詳しい説明――『初心者の剣。lv0。ランクA。保有能力なし』『初心者の剣。スキルレベルが0でも軽く使える』とのこと。
威力とかは書いてないんだな。lvは……装備できるスキルレベルを指すのか? ランクはその武器の性能か。
「アイテムBOX」
ボイスコマンドを口にして、アイテムメニューをアイテム倉庫の横に開く。指先で、アイテム倉庫の『初心者の剣』の名前を押しながら横にサッとずらすと、思った通りアイテムBOXに移動することができた。
指輪が二つ。ジャージの上と下。サンダル。そして剣。アイテムBOXの積載量は、今は20分の1とある……と言うことは、装備している物はアイテムBOXの積載量には入らないと言うことかな。
指先で操作して剣を装備する。空中に現れた剣を右手で掴むと、アイテムBOXの積載量は20分の0となっていた。計算通り……にやり。
ブンブン初心者の剣を振り回す。見た目は鉄の片手剣だが、さすが仮想世界、軽く振りまわせる材質でできている――のか、装備スキルlvを満たすと他の武器でもこんな感じになるのかは今はわからないな。
取り回ししやすい剣。いちおう、じいちゃんに色々な武術の基礎は学んだが……欠片も覚えちゃいないぜ! 姉二人が優秀だった分、俺はじいちゃんとアニメ見てばっかりだったしなー……うん、実は俺TUEEEEなんてことは欠片もない。
取りまわしやすいと言うのは良いことだ。普通のゲームと違って、生身とほぼ同じ体を使うゲーム……蹴りや、拳、投げ、体当たりなど、体術を組み合わせながら斬ると言うことができる。現実と同じ血なまぐさい戦いだ。
それに格闘術スキルもあるんだから、モンスターを殴ったり蹴ったりするのは間違いじゃないと言うわけだ。
よしっ。それじゃあ、この「始まりの遺跡」から出て戦ってみよう。いや、その前にクエストを受けてからの方が良いかな? 薬草採取とかなら、モンスターと戦わずに報酬を得られるかもしれないし。
「アイリスー?」
「……ああ、はい? なんでしょうか、マスター」
ずっと手紙を見ていたアイリスはこちらの呼びかけに生返事を返した後、首を振って、いつも通りに聞き返してきた。
「そろそろ、外に出て見ようかと思うんだけど……」
「了解しました、マスター」
「……所で、手紙はどうだった?」
母親であるラムダさんが直々に自分のマスターに、自分のことをよろしくお願いしますと書いた手紙。嬉しくないはずが無いのだが……
アイリスは首をかしげて、
「姉さまの事が書かれているのは分かったのですが、『可愛い』娘とは誰のことでしょうか?」
「…………」
あっちゃー……コラムダさん。あんた妹にまでバカな娘扱いされてますがな。
いやいや、そっちじゃないよね? 問題なのは、この娘が自分のことを可愛いと思っていないこととか、読解力とか推察力とか圧倒的に足りていないことだよな。
わかる。言わなくちゃいけないのはわかる。例え、俺がコミュ力五のゴミでも。年下の高校生に気を使われるバカ者でも。年下の子供――それもAIの子供の相手をしたことが無くても。
教育番組で、子供に話を聞かせる時、同じ目線にすると良いと言っていたので、片膝をついて、なるべくアイリスの身長に合わせる。俺の子供への知識何てそんなもんだ。
アイリスの眼を見て、恥ずかしいのを飲み込んで言葉を紡ぐ。
「あのな、アイリス」
「はい」
「その可愛い娘って言うのは、お前のことだ」
「え……」
「親って言うのは、子供は可愛いもんなんだよ。バカな娘でもな」
俺はそう言うと、気恥ずかしさのために微妙な笑顔のまま、アイリスの頭を一撫でしてやった。
……俺は大人の対応が、出来ただろうか? それはきっと誰にもわからない。
今は……まだ。それは色々経験した大人のアイリスが決めてくれることだろう。
「さて、それじゃあ行こうか!」
「はい、マスター!」
それは幻だったのか。満面の笑顔に見えた顔はやはりいつもの無表情だったが、それでも彼女が喜んでいるのはわかる。
俺たちはマイルームを飛び出した。
完! いや、もちろん違います。何となく、二人が走り出す一枚絵に、俺たちの戦いはこれからだ的な何かが脳裏をかすめていったもので(笑)
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