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第17話 精霊AI誕生!―デュエットヴァージョン―

 あれ、これ投げたほうが良いんじゃね?

 熱くなる、光り輝く、微妙に振動し始めた=ば・く・だ・ん? ボン○ーマンになりたいと思ったことはあるが、自分がボンバーされたくはない。


 いやいや、中に入っているのが精霊『AI』なら、人権を認められた――いや、人権なんか無くても人間みたいなもので、さすがに投げ飛ばすのはまずいだろうと、恐怖を噛み殺して手を離さなかった。


 ――勇気あっての行動と言うわけでは無い。仮想世界と言うことを視野に入れての行動だ。殺されても死なない世界でなら、勇気なんか無くてもこのくらいはできる。

 いや、正直、逃げ出したくてたまらないけど。



 熱さ、光り、振動……その全てが強まり、ちょっと持つのが困難になったレベルで……卵の殻が割れ、光に消えて行き……残ったのは。

 

「――……幼児?」


 卵より大きいが、重さは変わらない……小さな女の子だった。

 金髪……いや、黄色か? 落ち着いた色合いの黄色の髪を肩のあたりで切りそろえている。碧眼は意志の強そうな光をたたえている。やや釣り目な事もあって生真面目そうな感じが伝わってくる。


 肌の色は白。それを隠している服は黄色のドレスで、白銀のブレストアーマーと籠手を装着している。見た感じは本物だが、この小ささだと幼稚園児のお遊戯会の先生が頑張って作った衣装に見えてしまう。


 さて、無事生まれてくれたことは嬉しいのだが……じーっと。そりゃあもう、瞬きすることも無く、じーっとこちらの顔を見てくる。意志の強そうな瞳がこちらを射抜こうかとしているようだ。


 さて。このロリコンなら一発で恋に落ちてしまいそうな、可愛らしいAIをどうすればいいんだろうか? 

 一、自己紹介。二、視線を交わし続ける。三、抱きしめる。四、ロリコンを発病する。五、何となくログアウト。六、お母さんであろうラムダさんに連絡をする。


 ……正解は……五……か? おっと、いかんいかん。こんな時に笑いを取ろうとしに行っちゃいけない。むしろ、笑えない事態になりそうだしな。

 無難に一を選ぼうと……したんだが。


 少女は両手を広げてきた。まるで、子供が抱っこを求めるように。顔は無表情なので本当にそれを望んでいるかどうかはわからないが。

 俺は膝の上に乗せるように少女を置いた後、抱きしめてやった。


 正解だったのか、少女はグッと力強く、俺の胸辺りのジャージをつかんできた。

 ……いや、どうなの、これ? 犯罪くさい匂いしてないよね? 世界初のAIの幼児を無許可で抱きしめた変態として捕まりたくないんだけど……


 顔を胸にこすりつけてくる小動物的な少女を離すと言うのも良心的にどうなの?

 抱きしめ続けるのも、離すのも両方間違いなら、彼女の好きなようにさせてやろうと思った。彼女こそが、この世界での俺のパートナーであることに間違いはないのだから。




 数分程度で、少女は俺のたいしてぶ厚くもない胸板に顔をうずめるのをやめて、こちらを見上げてきた。生まれた時と変わらない無表情だが、若干、嬉しそう――いや、安心したような雰囲気が感じられる。本当にかすかだけど。


「マスター?」


 その声は幼いながらもはっきりした声だった。


「ますたー……ああ、俺のことね。うん、俺の名前はセイチ。現実の名前は草壁 千一だ。覚えておいて」


 わざわざ現実の名前を教えたのは、これから一緒にやって行く仲間に最低限の礼儀と言うか、信頼と言うか。必要では無かったかもしれないが、今の所、俺が彼女に与えられるものはそれくらいしか無かったのだから、仕方がない。


 この子がただのゲームキャラなら、今までのゲーム知識を生かして、好感度の上がる選択肢を模索し実行しただろうが、人間と変わらない知性に個性を持つAIの子供に、そんな真似はしたくなかった。


「くさかべ せんいち……セイチ様。登録しました。それでは私の名前を決めてください」

「いっ!?」


 ま、まさか……ただの一般プレイヤーにAIの名前を決めさせるだと……? そんなの生まれた子供の名前を、道を歩いているただの他人に決めてもらうのと大差ないレベルだろう……! キ○ガイプレイヤーがいたらどうする気だ! 普通に下ネタに走ったりするぞ!


 はやく、はやく……なんてことは言わないし、期待に満ちた顔はしていないが、目は爛々と輝いて如実に期待を表している。目は口ほどに物を言う……この子の名前はエセポーカーフェイス……でいいわけあるかっ!?


 検索だ! 二十年生きてきた脳みそをフル稼働させるんだ! さすがに一回ログアウトして、ググるなんて真似は出来ない……むしろ、検索エンジンで探した名前をつけられるってなんか嫌じゃね? 辞書はOKで、ググるのがダメと言うのも……いや、そんなのはどうでもいい!


 集中しろ……マタンゴ食べて、ど根性だ!

 精霊AI……愛、アイ……


「アイリス……でどうだ?」

「アイリス……」


 俺のオタク方面の知識に引っかからない名前をあえて選んだ。これから彼女とアニメやロボットの話をする時に「へえ、そこから私の名前を取ったんですね……」なんてことになったら、恥ずかしさと申し訳なさで旅に出たくなってしまう。


 俺がそっち方面の話を振らなかったとしても、奴なら……あ奴なら、一発で気づいてしまいかねない。

 だったら、AIをアイと呼んで、アイリスにしたと言うわけだ。アイリス……花の名前でもあるし、確か花言葉は良いこと尽くしだったはずだ。「あなたを大切にします」とか「私は燃えている」とか……燃えているは良いことだよな?


 少女は、「アイリス、アイリス、アイリス……」と何度もつぶやいていた。 


「その、気に入らなかった? だったら、別のに……」

「!! いいえ、マスター! 私の名前はアイリスです!」


 いきなりテンションあがったな、おい。

 俺が驚いていると、さすがに恥ずかしかったのか、見上げていた顔を下ろす少女――いや、アイリス。


「そっか。それじゃあ、よろしくな。アイリス」

「はい、マスター。末永くよろしくお願いします」


 その言葉に微笑めれば完璧だったのだが……コラムダさんが言っていたAIを買い取るための値段のことを思い出して、苦虫をかみつぶしたような顔になってしまった俺は、やはり主人公の器ではないのだろう。


 俺は本物の子供のように、俺より若干体温が高い彼女を抱きしめながら、マジで情が移って買い取る決意をした時……その時のために、金を稼いでおくべきだろうか? なんてことを思ったりしたのだった……







 マタンゴ、ど根性に反応した人はスーファミ世代。本来なら、超能力がなければ動かせないロボットを動かした漢のことは、どれだけ年月が経とうとも刻まれていたりします。


 今回で、プロローグを含めて20話目となりました。驚くほどに話が進んでいません……まあ、ほのぼののタグを最初に付けた時から、こうなる予想はしていたのですが。


 こんな話で良ければ、お付き合いくださるとうれしい限りです。

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