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第12話 人生のイベントボスからは逃げられない

 燃え尽きてしまったかのように、崩れ落ちたまま動かぬ彼女。

 ……さて。マイルームにでも行くか。俺に出来ることはもはやない……みなさん、お忘れだろうか? 俺が友人曰く、コミュ力五のゴミだと言うことを。


 いや、むしろどれだけのコミュニケーション能力があれば、いきなり自分のことを金髪巨乳エルフと言い、見えている姿を指摘されて、自分でその姿を確認したら大声を上げる黒髪美少女の相手ができると言うのだ?


 うん。言っては何だが、ちょっとした恐怖すら感じてます。俺は相手が美少女なら、どんな困難も乗り越える主人公気質ではない。逃げられることなら逃げる……逃げられないなら戦うが……今回は逃げても良いと思う。


 そう言えば朝から、ラスボス、イベントボス、と見事に逃げられない相手ばかりだったなぁ……この言い方からすると、ラムダさんは隠しボスだろうか?

 そんな本人達に聞かれたらミンチにされかねないことを思い浮かべながら、俺はマイルームへの入口らしい柱に向かい……


 ――ガシッ……と何者かに肩を掴まれた。

 俺は恐る恐る後ろに顔を向ける。

 そこには……俺の人生のイベントボスの一人だったらしい……泣きそうな顔でこちらを見上げる黒髪の少女がいたりしたのだった。逃げられる最後の機会は、彼女に声をかける前だったらしい……ハァ。




「フレンドになりましょう」


 ――俺を逃がさないことだけが彼女の目的だったらしく、俺を捕まえた後、また深く押し黙り、何事かを考えていた。俺は暇だったので、何となく卵を撫でて時を過ごした。元気な子が生まれるように祈りながら。


 そんな数分だが、体感的には数十分くらいに感じた重苦しい雰囲気を打ち破ったのは、大人になるにつれて言えなくなっていく言葉ベストテンに、見事ランクインしそうなお言葉だった。


 まあ、この場合意味合いは現実の友達になりましょうとはちょっと違う。その証拠と言うわけではないが、彼女のその言葉に反応し、立体映像のメニュー画面が目の前に開き、そこには『フレンド登録』とあった。


 ……さて。どうしたものか。VRMMOのフレンド登録は、一緒に遊びたい者同士が交わすことで、離れていても連絡が取れたりする便利機能の一つである。登録して困るものでも無い。


 だが……それが目の前の少女からのものなら、意味合いは全く違う物なのだろう。俺とフレンド登録したい理由が、一緒に遊びたいからなんて、彼女の奇行の後に思える奴がいたら会ってみたいものである。


 何の目的があって……と訝しげに登録ボタンに手を触れることをためらっていると……なぜか、恥ずかしそうに顔を赤らめ指先や身体をもじもじし始めた。え、なに?


「わ、わかった……私も女よ! 覚悟を決めたわ!」

「?」


 彼女の前にもメニュー画面が現れ、俺には見えないが指先で色々操作しているようだ。なるほど、他人のメニュー画面の詳細は見れないのか。プライバシー万歳である。

 彼女のメニュー画面にタッチする指が止まった。指先の震えから躊躇っているように見えるが……


「えいっ!」


 可愛らしい掛け声とともに、押した。

 俺の目の前に会ったフレンド登録の確認画面が消えて、そのかわりに現れたのは――


「そう言うことじゃねえよっ!」


 現れたのは――『彼女のプロポーズを受け入れますか?』と言う、結婚確認画面だったりした……ああ……泣きたい。




「あはは……そっか、そっか。てっきり、私は言うことを聞いてほしいんなら身も心もささげろと言われているのかと」

「俺はどんな外道だ……そして、VRMMO内の結婚で、そんな相手を束縛するシステムはどう考えてもないだろ」


 コラムダさんとはまた違うベクトルで疲れる相手だ……

 あの後――兎にも角にも誤解を解くために、俺がフレンド登録を渋った理由を正直に話した。


 それを聞いた彼女は、ようやく、自分が色々順序をぶっ飛ばすと言うか、ぶっ壊している事に気付いたのか、理由を話してくれた。

 その理由とは、色々事情を話すために自分のマイルームへ俺を呼びたいが、フレンド登録をした相手じゃないと呼べないため、とりあえずフレンド登録してくれ……と言うことだったらしい。


 そう言うことなら……と、俺は彼女とフレンドになった。可愛い娘とフレンド登録したと言うのに、心躍るどころか、テンションが緩やかに下降しているのはなぜなんだろう……? 泣いても良いですか? 


 そんなわけで、マイルームへ移動するための柱に二人で近づき、彼女のボイスコマンドで俺たちは彼女のマイルームへ移動した。うん、自分のマイルームへ行く前に女の子のマイルームへ誘われたのに、ちっとも嬉しくないのは……以下略で。


「うおお……すごいな」 


 これが、ロボゲー・オンラインのマイルームか! 何と言うか、仮想世界ならではの豪華さと言うべきか。

 白い部屋には調理場、、鍛冶場の様なもの、錬金術に使いそうなフラスコやビーカーそして巨大な鍋、裁縫する場所……いろんな施設があるようだ。つまり、そんな施設が次々に置かれても平気なくらい広い。部屋の中心にはクリスタルっぽいテーブルや、ふかふかそうな赤いソファー……そして壁は、


「水族館かよ……」


 壁一面にイルカやら魚やらが優雅に泳いでいる水槽が壁となって置かれていた。

 何て言うか、金持ちならこんな部屋と言う見本みたいなマイルームであった。


「まあ、どうぞ、座って」


 彼女に言われるがままに部屋の中心まで歩き、ソファーに座った。部屋の広さに圧倒されて、不信感などが少し薄れてしまったためだろう。


 彼女は向かいのソファーに座ると、メニュー画面を操作していた――ポン、とテーブルにカップに入ったお茶が出たことから、アイテム欄の操作をしていたのだろう。

 毒か……などと一瞬思ったが、まあ、マイルームでそんな攻撃的な行動を取れるとは思えないので一口いただく。うん、紅茶だな。紅茶なんて普段飲まないから味の良し悪しはわからないが、現実のものと比べてもそん色のない味覚だ。恐るべきはロボオンスタッフか……!


 彼女も一口飲み、ため息、天井を仰ぎ見る、首をブンブン振る、よしっと身体全体で気合を入れるポーズをとる……と言う分かりやすい動きを見せて、話し始めた。


「私の名前は香坂 朱音。こう見えて、新人声優やってたり」

「へえ、それは凄いですね……っと、俺はセイチと言います。現実じゃあ、暇な大学生やってます」

「うわ、年上だった! すいません、タメ口で……」

「いいですよ、別に……ッて言うか、ゲームの世界くらい誰が相手でもタメ口なくらいでちょうどいいんじゃないですか?」


 日本の法律で、今の自分とかけ離れたアバターを使うことは出来なくなったが、身長や体格に体型の極端な変更、後は性別を偽らなければある程度自由に変えることができるので、しわを増やしたり、逆にしわを消したり、現実の自分との年齢をある程度離すことはできるのである。


 そんなVRMMOで年上も年下もないものである。そりゃあ、明らかに年下に生意気なことを言われたら気分は悪いが、そこら辺を飲み込めないとVRMMOで遊ぶことなど出来ない。そんなルールは決められていないのだから。


「? じゃあ、なんでセイチさ――セイチは敬語使ってるの?」

「ん~……クセ、かな。いや、普通、知らない相手には基本敬語じゃない? 明らかに年下でも敬語なのは……二番目の姉が、俺より小さくて子供っぽいせいかな。人間、外見じゃあ、年齢はわからないっていう見本みたいのがいたからね」


 ちなみに、知らない人が姉神二号を見たら、小学校高学年くらいに見えることだろう。本人は偉く気にして、身長が伸びそうなスポーツ……バスケやら、バレーやらに手を出していたのだが、あのアホみたいな身体能力が遺伝子に『別に身長伸ばさなくてもOK』と指令を出したらしく、成果は全く出なかった。 


 そんな姉のほほえましいエピソードを思い返していると、目の前の少女――香坂さんは唇を尖らせていた。


「それだと、セイチが敬語を話す相手はそんなに仲良くないってことにならない?」

「え? まあ、そう言うことなんだろうなぁ……」


 いや、普通のことだろう、そんなこと。仲が良い相手ならタメ口。そうでないなら敬語。範囲や大小の違いはあれど、みんなそんな所だろう。無論、親しき仲にも礼儀ありってことで目上の中の良い人間にまでタメ口というわけじゃないんだが。


「そうやって壁作ってると友達増えないよ?」

「げほっ! がほっ!」


 ……いきなり痛い所を突いてくるねこの娘は。

 だが、俺のコミュ力は五……親しげな感じと、なれなれしい感じの調整が出来ないのだ。それができないと単なる『痛い奴』になってしまう。


 そもそも誰にも好意的に受け取られる親しげな奴と言うのは、ある種の才能が必要だと思う。ひまわりの様な笑顔が似合うとか、単純に美人とか、雰囲気から空気を読み取って適切な話題を提供できるとか……


「あ、図星? 図星でしょう?」

「……うっさい」

「うん! セイチのタメ口ゲット! そんな感じで、私にはタメ口でお願いします。あんな話聞いた後に敬語でしゃべられると、なんかものすごく悲しいし」

「はあー……わかったよ。とりあえず、事情を話してくれ。さすがにこいつが孵ったら、こいつの面倒を優先させてもらうからな」

「りょーかい!」


 ビシッと敬礼ポーズをとった彼女は事情を話し始めた。


「それは昔、昔のことじゃった……」

「声優なのはわかったから、いちいち声を変えんで良い……」

「えー! そんなこと言ってるとモテないよ、おにいちゃん!」

「今度はキャラまで変えてきやがった……だと?」

「あのぉ……もしもし? その言い方だと、最初のお婆ちゃんキャラが私の素みたいと思われているみたいなんだけど……」


 話が進まないので放っておくことにする。


「わかったよ……じゃあ、私がどうやって異世界からこっちの世界へ来たのかは置いといて……」


 え、なにそれ!? めっちゃ気になるんですけど!


「そーだなー……このロボゲー・オンラインって不審な点ない? 主に広報活動的な意味合いで」

「うん、まあ、それは……」


 情報の小出し。いくらVRMMOは実際に体感して見ないとわからない部分が多いとはいえ、それは無料の体験版を出すとかとかベータテストをすればよかっただけの話である。


「それはあるサプライズイベントのためなの……明後日に発表されるんだけど」

「明後日……日曜日か」

「そう……各ワールドごとに、声優がイベントプレイヤーキャラとして参戦するって言うサプライズが」

「あー……」


 ……それは人が集まりそうだ。

 この仮想世界に置いて、現実の肉体の声帯を震わせて会話させているわけではない。これもきちんとデータを取って現実と変わらない音声を再現しているに過ぎない。


 ……つまりは、データさえ集まればどんな声音、声色だろうと造ることができる。

 これで困ったのが声優さん達――と言うわけでは無かった。いくら声をそっくりに真似られても、彼らは声の演技のプロ。一般人が自分と同じ声を使った所で、声優という職業の彼らを完全再現することなど出来なかったのである。まあ、今ではよほど特殊な事情がない限り、パーソナルデータに入っている自分の声を使うことになっているが。


 そんなわけで、声優さん達の人気はいまだ衰えることは無い。とくにアイドル声優と呼ばれる見た目も声も美しい人たちの人気はいたく高い。


「そう……第一ワールドなんて、あのモガミナさんよ!」

「へえ……いや、知らないけど」

「う……セイチって、こんなゲームやっている割に、声優にそんなに興味がないタイプ?」

「バカを言うな! 俺の知っている声優さんは……」


 俺はすらすらと名前を言っていった。五十人くらいの名前を言った所で、


「それって、百年くらい前の大先輩の名前ばっかりじゃない!」


 香坂さ――香坂の怒鳴り声。いや、例え百年前だろうと今は亡き人達だろうと声優さんは声優さんだろう。

 コラムダさん辺りとなら、滅茶苦茶話ははずんだろうが彼女はそうでも無かったようで。


「ツンデレ神の名前が出なかったら、私もわからなかったよ……」

「良い声と言うのは時代を超えるものなんだよ」


 うんうん、二人で頷いて……香坂は、いや違う違うと話を元に戻し始めた。


「そんなわけで、それぞれのサーバーに別々の『歌姫』が登場するってわけなの。この第九ワールドには……まあ、私なんだけど」

「なるほど。声優のファンがプレイヤーとして参戦するから、別にそこまで広告を出さなくても良かったっていうことか」


 その発表は二日後。つまり、今プレイしている奴もその情報を知った後、自分の好きな声優がいるワールドに移動できるように『一週間以内ならサーバー、ワールドの変更が可能』なのか。


「どちらかと言うと、私達の会社側がそうしてほしいって頼んだんだけど。ベータテストとかやって、サプライズイベントの前にワールドの一つでも埋まってたら、そのファンから非難轟々だろうから」


 うーん……本末転倒だと思うけどなぁ……そもそもVRMMOはゲームであることだし、ゲームの面白さとして売れなきゃ意味ないと思うんだけど。


「まあ、ロボオンスタッフもそこはちゃんと考えて、発表を発売日の二日後の夜にしたんだと思う。今日と明日のプレイの感想をプレイヤーたちが提示版にでも書けば、様子見の人達が発表前にはゲーム開始すると思うから」

「なるほどねぇ」


 悪くは無い手だと思う。それに新規のユーザーを取り込むと言うのも会社の考えとしては間違っていない。

 ――まあ、出来ればそんな舞台の裏側は知りたくなかったと言うのが本音だ。そう言うのはゲームを一通り楽しんだ後、設定資料集などの開発者インタビューで知れればいいことだ。


 だから、彼女たち「歌姫」がどういう感じでゲームに関わってくるとかは聞こうとはしなかった。ネタバレをそこまで気にするタイプではないが、これはプレイヤー達の手によるネタバレとかそう言う領域の話じゃない。


 ――て言うか、知って良い情報じゃないよな、これ。


「あのさ。なんで、そんなこと教えてくれたんだ?」


 そう、問題はそこだ。俺が彼女の姿を見たことが起因するんだろうが……


「ああ、うん……このアバターは現実とほとんど変わんない見た目だから、イベントや声優『香坂 朱音』として活動する時しか使用できないの」

「……そっか。声優がイベントキャラとしてプレイすると言うのは公式発表もまだだから、その姿をさらしちゃいけなかったってことか」

「そう。そんで、歌姫専用のタレントの一つとして渡されたのがこの変身能力……」


 そう言った彼女の体が光り輝き――

 なるほど。サラサラの金髪にエルフ耳……そしてさっきまでの彼女とは比べ物にならないくらいの大きさの胸が印象的な……俺と同じジャージ姿の金髪巨乳エルフになっていた。


「うん、その姿の方が良いな」

「……イラッ」


 パァン! と脳内にまで響き渡る会心の一撃っぽいビンタを喰らった。なぜだ……?







 作者の構成力、文章力不足により長い説明会になってしまいました。

 GW中は更新ペースが不定期かつ落ちてしまうと思います。申し訳ない。

 GW……ガ〇ダムウ〇ングと読んでしまったことがあるのは自分だけじゃないと信じたい。

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