第11話 金髪エルフだと思った? 残念! 黒髪美少女でした!
俺以外はいないはずのワールドに人がいる。
だが、それだけならば別段おかしなことでは無い。俺と同時期にチュートリアルをクリアーした奴がいた可能性もあるからだ。ありえないこと――と言ったのはそれ相応の理由がある。
俺の装備――着ている物を見ればわかる通り、初心者の最初の装備はジャージにサンダルである。オシャレ丸眼鏡をかけてはいるが、顔ばれ防止の何の効果も無いアクセサリーである。
だが、彼女は違う。白い上着と、青のスカート……しかも上着は、振袖の袖の部分とブレザーが融合している……正月にアイドルが着ている様な衣裳だった。こう――もうちょっと俺の身長が低くなるか、低くなるようなポーズをとればスカートの中身も確認できるだろうが……「やりなさいよ」とガイアがささやくが……ダメだガッツが足りない! 必殺シュートの乱発は控えていたつもりだったのに……!
……いや、話がそれたな。つまりは彼女の装備はおかしいと言うことだ。どう考えても初期装備じゃないし、何やら神々しさまではなっているその服はサービス開始からの最速プレーでも手に入れられはしないだろう。
つまりはそれがありえないと言う理由。
ならば……プレイヤーでは無いと言うことか? NPC……AI……にしても、体育座りで膝の中に顔をうずめている様な行動を取るか? と言う話ではある。
初心者クエストの開始キャラ? 声をかけた途端にクエスト開始とか。もしくは……コラムダさん並のAIが思わず恥ずかしくなる自爆をした直後だったとかか?
でも、人間っぽいんだよなぁ……さすがにコラムダさん並のAIならば、見分けをつけられる自信は無いけど……
――ん~……声をかけて見るか? 昨今、女の子にに声をかけただけで通報される時代だが、まさか仮想世界でそんなことはあるまい。いざとなればラムダさんが会話のログでも見てくれれば誤解は解けるだろうし。
「あのー……大丈夫ですか?」
いきなりその装備どうしたんですか? 何て事を聞ける心臓は持ち合わせていない。こんな所で体育座りをしていることを聞いてみるべきだろう。
彼女は膝で隠していた顔をゆっくりと上げた。
思わず――息をのんだ。かなりの美少女だった。サラサラの黒髪。整った顔立ち。綺麗な黒い瞳。見事な和風美少女がいた。
美少女でも姉のどちらかに似ていればまだ良かったのだが……上は鷹の様な美女で、下は狼の様な美女だからな。目の前の少女とはタイプが違う。あ、ちなみに姉神達のは自称ですのであしからず。
顔をこちらに向けた少女は、そのうつろ気な瞳に徐々に意思の光が入っていき……いきなりガバッと立ち上がった。
「も、もしかしてプレイヤーの人!?」
「いや、まあ、見ればわかると思うけど?」
「あ……だよね。見事にジャージ姿だし……それって精霊AIの卵?」
「ああ、うん。そう」
珍しそうに俺の卵に顔を近づける少女。外見は和風の美少女だが、中身はいかにも普通の女の子みたいだ。
「へえー……これが、そうなんだ?」
「? ……君だって貰ったんじゃないの?」
「え? ……あ! うん。そりゃあ、もちろんもらったよ!」
「…………」
見事に怪しい。もう怪しさしかない。初心者なら誰もがもらえるはずの卵。しかも俺がチュートリアルクリアーまでの道のりがグタグダなのを差し引いても、一番最初に卵を手に入れたプレイヤーとの時間にそんなに差は無いはず。
だと言うのに、少女は見たことがないように俺の卵を見ていた。いや、そもそも彼女の卵はどこだ? もう孵ったのか? 少なくとも俺の眼に見える範囲に、彼女の精霊AIの姿は無い。
俺が半眼でジーッと彼女の顔を怪しげに見つめると、彼女は半歩ほど下がり手をワタワタと降った。
「や、やだなぁ……いくら、私が『金髪巨乳エルフ』のアバターを使用してるからって、そんなに食い入るように見ちゃダメだよ」
「……は?」
とりあえず目をこすって彼女の体を上から下まで見て見る。腰まで伸ばした髪は艶やかな『黒髪』である。胸は確かにあるが巨がつくほどではない。耳も確認して見るが、綺麗な形をした至って普通の耳である。
「いや、綺麗な黒髪と……そのふ、普通の胸だと思いますけど? 耳も尖って無いし」
俺は素直に告げることにした。もしかしたら、俺の視覚がバグっている可能性もあるからだ。まあ、そこまでのズレが発生するとは思えないが。
彼女は俺の発言に、一気に顔を青くすると、ダッシュで草原が見えるガラスの近くまでかけ寄った。
そこのガラスを鏡代わりにし、自分の姿を確認しながらペタペタ髪やら顔やら胸やらを丹念に触り……崩れ落ちた。
「や――やっちゃったぁああああああああああああああああああああああああ!!」
驚くほどの声量で絶叫した彼女の声は、人がまったくいない建物の中に響き渡ったのだった……
ヒロイン登場? いいえ、この小説にはボケかツッコミしか存在しません(笑)
次回、伏線回収。え? ロボオンに伏線など存在しない? ですよねー。
この小説はギャグテイストなラノベ風を目指しており、複雑な設定や描写などは極力減らし、キャラの会話や行動で少しでも笑っていただける小説を目指しております。その中で、みなさまにお気に入りのキャラクターが一人でもできればいいなぁと願っています。
なので、あからさまな伏線などは存在しませんし、作者にそんな腕はありませんので気にしなくても全然OKです。
それでも、リアルタイムでこの小説に目を通していただき、テメエの言う伏線が気になるぜ! という奇特な方に感謝をこめてヒントらしきものを。
『VRMMO初心者の主人公が感動するような仮想世界を創ったり、高性能AIを造れるロボオンスタッフは、本当にくだらない理由で情報を小出しにするバカなのか?』
『バカでないのなら、初日にいきなり九つのワールドを一斉にサービス開始にしたのはなぜなのか?』
『ラムダさん発言その一。サーバー、ワールドによる違いは現在のところはありません……と言う言い回しなのはなぜなのか? 単なる保険ではないとしたら?』
『ラムダさん発言その二。一週間以内なら、サーバー、ワールドを変更できるのはなぜなのか?』
『あらすじと少女の驚く『声量』で彼女の職業には気付くと思いますが、そんな彼女が今回いろいろやらかしていた理由は何なのか?』
……うん。これだけで作者が次回どんな話を書くのか分かった人がいたら、その人は新世界の神か、黒の騎士団長ですね。申し訳ない!
答え合わせとかは別にしませんけど、暇な人は想像していただけるとうれしい限りであります。それでは次回で。