第9話 さよならコラムダさん
あれからデュラハンで、モノを拾ったり動かない標的を殴ったりして、俺のハイ・ゴーレムのチュートリアルはすべて終了した。
そう――残るはただ一つ。それを終えれば……
湧き上がる思いを抑えながら、俺はデュラハンから降りると、手のひらサイズから人間大に戻ったコラムダさんに向き直った。
彼女は人の頭くらいの大きさの卵を胸に抱えて、こちらをまっすぐ見ている。
「――それでは、セイチ様。この精霊AIの卵を受け取ったら、チュートリアルクエストはすべて終了となります」
「…………」
やっとか……と言う思いと。
もう終わりか……と言う思い。
両方の想いが胸中に渦巻いているのは、しょうがないことだろう。
感情が豊かで、よく話が脱線するコラムダさんに振り回されたのは確かに長く感じたが、その分だけ……お別れには寂しさを感じてしまう。
もう、これで、彼女に会うことは無いのだと思うと……
「あれ? なんかセイチ様の中で、私がこのチュートリアルエリアからどんなに頑張っても出られない的な烙印を押された気がしますよ?」
「気のせいですよ」
「あー! ちょっと涙ぐんでますね!? ちょ、待ってください! 私的には一週間後にはGMになっている予定なんですから……ちょっ! 今生の別れみたいな雰囲気をださないでくださーいっ!」
彼女の戯言は聞かなかったことにして(外道)俺は、涙を隠すように顔を下に向けて万感の思いを込めて別れの言葉を紡ぐ。
「コラムダさん、君がいなくなったら世界はがらんとしちゃうと思う。でも、直ぐになれると思う……だから……心配しないで、コラムダさん」
「やりやがりました! これでも無いくらいの別れの言葉を言いやがりましたぁあああああああ!!」
膝を抱えて言わなかった分だけ、良心的ではなかろうか? 結局、次巻で帰ってくるわけだし。
「もう、怒りましたよ! 絶対セイチ様のサーバーのワールドのGMになってさしあげますからね!」
「勘弁してください」
「土下座!?」
その後もギャーギャー騒がしく別れの時を俺たちらしく過ごし、とうとう最後の時がやってきた……お空から稲光の音がしたとも言う。
「――こほん。それでは、セイチ様。私の家族を託します。大事に育ててあげてくださいね」
「はい。必ず」
さすがにここだけは茶化さず本心から答えておく。
俺はその大きな卵の割に軽いそれを大事に抱える。色は綺麗な黄色。この中に、俺のロボオンでのパートナーが眠っているわけか。
「その子が孵るまでの間はフィールドに出たりせず、マイルームでこの世界のことを調べたりして過ごしてくださいね。それと、ログアウトしている間に勝手に生まれたりはしないので安心してください」
「わかりました……それじゃあ、コラムダさん」
「はい」
俺たちは近寄って握手をして、別れを告げる。
「アデュー!」
「ちょっ! セイチ様! それはネタですよね? あるファンタジーロボの主人公の名前ってことですよね! 永遠にさよならって意味じゃ――」
俺は彼女の言葉を最後まで聞くこと無く光に包まれた。
俺がまた彼女と出会えるかどうかはそれこそ神のみぞ知る……ってとこだろう。ロボオンスタッフやラムダさんと言う名の神たちの。
すいません、今までで一番短いお話です。大した設定も考えてあげていないのに、ここまで主人公と漫才(?)をしてくれた彼女のお別れのシーンに余計なものを混ぜたくなかったのです。
……またでるかなぁ、コラムダさん。