第8話 AIさえあればお金は関係ないよねとは言えない現実
AI――人工知能。目の前のコラムダさんのように人間並みの感情を持つものもいれば、感情の波がほとんどないロボットに近いAIもいる。
前者は感情に割かれるその膨大なデータから仮想世界などでしか活動できず、感情がほとんどないAIはそのデータの少なさからアンドロイドの身体に使われることもある。
彼、または彼女らに人権を認めるかどうかは国ごとによって違っており、我が日本国では『オマイラ同盟』と言うオタク集団の活躍によって、最低限ではあるが人権を認められている。
お国柄のせいか、そんな法律がなくともほとんどの日本人がAIに対して友好的である。まあ、中には例外もいることは確かだが。
どちらにしろ、一般人とはほとんど関係ないのがAIの実情なのである。それは感情がほとんど無いタイプでも何百万の世界だからである。最低限の人権を守るための措置が無ければここまで高騰はしなかったらしいが、そこらへんの経緯は俺が生まれる前の話な上に、大学で学んでいないので良くは知らない。
「精霊AIと言うのは、簡単に言うならプレーヤー一人一人に配られるパートナーのことです。生身の戦闘では共に剣を取って闘い、ハイ・ゴーレムに乗れば学習コンピューターの代わりとして、ロボットを操縦するパートナーの補助をしてくれます」
目の前で、精霊AIの説明をしてくれている感情豊かなコラムダさんは、いったいお幾らなんだろう――と考えそうになって、俺はそれは失礼だとその考えを中断する。
こんな思考形態こそが日本人なんだろうなー……
「むろん精霊『AI』の名を冠している通り、AIなのでちゃんと面倒を見てくださいね?」
「……チョットマテ?」
「はい?」
「それは設定的なことではなく、マジでAIなのですか?」
「その通りです。まあ、私と違って基本的な知識しか与えられていない子たちなので、ちゃんと愛情を持って面倒を見てくださいね?」
最低でも何百万のものを、犬や猫の様に配らないでいただきたい!
俺の心の叫びを感じ取ったのか、コラムダさんは笑い、
「大丈夫ですよ。プレーヤーのみなさんに差し上げるわけじゃありませんから。このゲームのプレイをやめた時には、我が社が引き取ります……が、泣くでしょうねぇ……なにせ、精霊AIからして見れば育ての親みたいな人に捨てられるわけですからねー……あ、もちろん買い取りも出来ますから」
ニッコリ笑うコラムダさんが、悪魔に見えたのは俺の気のせいじゃないはずだ……俺には彼女が「一生プレイしてくださいね? それか、何百万のお金を用意してくださいね?」と言っている気がしてならなかった……
「さあ、セイチ様! さっさとハイ・ゴーレムの操縦を済ませて、私の可愛い弟か妹を手に入れましょうね!」
「は、ははっ……そうで、すね……」
あれ? とっても楽しい操縦の時間のはずなのに……俺はいつの間にか莫大な借金を背負わされていたギャンブラーの様な気持ちで『デュラハン』へと向かうのだった。
ざわ……ざわ……と、草と風がが不気味な音を立てていた……気がする。
コラムダさんが『デュラハン』に手をかざすと、デュラハンは片膝をつく体制になるとガラス張りのハッチが上へと開き、その巨大な左手を地面とコクピットのちょうど中間地点へと差し込んだ。
なるほど。精霊AIがハイ・ゴーレムのコンピューターを担当すると言うことは、こう言うことなんだな。
俺はその左手に乗り、コクピットへ乗り込んだ。シートに座り、クロス型のシートベルトをすると、ハッチが閉じた。
椅子の肘かけの先に操縦桿があり、足元には右と左にべダルがある。
「ふう……はあ……」
痛い。胸が痛い。
幼いころの妄想が実現すると、こんな気分になるのか。意味もなく笑いだしそうになるし、胃の中がものすごい熱い気がするし、そして何より胸が痛い。
「それでは起動しますよ? 初めての操縦なので、思考操作はほぼカット。ボイスコマンドを中心に置きます」
「おまかせします」
初めて聞く単語があったが、そこらへんの説明は操縦しながら聞くべきだろう。
……いや、まて、おかしい。このコクピットはどう考えても一人用だ。ひざの上に座らせることもできるが、そもそも隠れる様な所は無い。ならば、コラムダさんは一体どこから俺に声をかけていると言うのか?
「コラムダさん? どこにいるんですか?」
「ここですよ?」
「……うわ!」
声のする方を見て見ると、コラムダさんならぬ、チビラムダさんがいた。手のひらサイズのデフォルメデザインになっていた。小さな子どもと大きいお友達に人気の出そうなデザインである。
「精霊AIの基本サイズになってみました!」
「……てっきり、ラムダさんに罰として小さくされたのかと思いましたよ……」
「あはは! セイチ様も言いますね~」
表情は笑っているが、こっちのほっぺたにグリグリパンチをねじりこんできていることから、内心はちっとも笑っていないらしい。
「ともかく! 起動しますね! はい、起動!」
その言葉と共に背後から光があふれ……何だ? シートの裏側に何かライト的なものが置いてあるのか?
「ああ、セイチ様がさっさとシートベルトしちゃったので説明できなかったんですけど、そのシートの裏側にはコアが設置されてます」
「コアが?」
「ええ。搭乗者の魔力を吸収、増幅して、魔力供給液で全身に魔力をいきわたらせて搭乗者の思うがままに操れる……と言う設定ですから」
設定言うな。
横を見て見ると、ガラスを挟んで存在する腕の管に入っている魔力供給液も先ほどの淡い光の時よりは力強い光を放っている気がする。
「立ち上がらせますよー」
「お……っと」
ちょっとした振動と共に、第0世代型『デュラハン』が立ち上がる。
……うわ、高い。全長5メートル……俺の視線的には4メートルの高さだが、それでもほぼ全面ガラス張りなため、高さをより実感する。姉神二号のように、これ以上の高さから落ちても平気な人間には何て事の無い高さ何だろうが、一般人にはちょっときつい。
まあ、現実じゃないんだし……現実より丈夫な肉体だし、何より死んでも死なないんだから大丈夫……と言う理論武装を身体と心に浸透させるには、もう少し時間が欲しい所だ。
なるべく下を向かないように前を向くと、
「うおお……すごい、良い景色ですね」
風で一斉にたなびく草原の草が、まるで静かな海岸の穏やかな波を見ているようで、さっきまでの恐怖が穏やかに消えて行く。
「思考操作をカットしているのでおおざっぱな動きしか出来ませんけど、ペダルを片方だけ踏むとそちら側に旋回、両方同じだけ踏み込むと前進、片方を強く片方を弱く踏むと斜め前方に進みます。ジャンプ、ステップなどはボイスコマンドとして入力してください」
言われるままに、まず右ペダルを踏み込む。ガシャン、ガシャンとその場で右に旋回をしていく。次は左……そして、両足を踏み込む。
「おお……」
ガシャン、ガシャン、と前に動く。コクピットのランクが高いのか、音と比べて振動はそれほどではないし、視線も上下にあまりぶれることは無い。
誰もいない草原。なので、一気にペダルを踏み込む!
バン、バン、バン、バン! やわらかい土質の大地を蹴り上げる音が耳に響き、景色は流れるように加速していく。
た、楽しい! これで風景がどこまで行っても変わらない草原じゃ無ければ、もう少し風景の流れる感覚とかで、どれほどの速度が出るのか実感できて楽しかったのだろうが……
「ジャンプ!」
「かしこまりました!」
バァン! 勢いよく大地を蹴る音。
そこまで高くは飛べないようだが、滞空時間は数秒ほどもあったと思う。着地の衝撃はさすがに凄かった。歯を食いしばり、ペダルから足を放しておく。
「す、すごいっすね」
「ええ、まあ『ロボゲー・オンライン』ですから。ここら辺がしっかりしてなければ発売日はまだ先になっていた事でしょう」
妖精の様に俺の前をひらひらと飛ぶコラムダさんはえっへんと胸をそらした。
うん、確かにこれはクセになる。
――だが、同時に残念にも思う。こいつは、俺のモノでは無い。どれだけ感動しようとも、すぐさま手放さなければならないのだから。
それでも俺は、コラムダさんに言われる通りにチュートリアルクエストを楽しみながらこなした。いつかこれと同じくらいのハイ・ゴーレムを造ってやる……いや、これ以上のものをと誓いながら……
一週間と少し前に初めて投稿した時は誰にも見むきをされないことを覚悟しての投稿だったわけで、お気に入り登録、感想、そして評価までいただけることは想像していませんでした。みなさん、どうもありがとうございます!
これからもお気軽に、お気に入り登録、感想、そして評価ポイントを入れてください。泣いて喜ぶか、泣いて悲しむかしますので……あれ、お気軽感が無くなっていく……?(笑)