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第90話 十年前。妹編

「うわー、ショミンーすごーい!」

「うんー、そうだねー」


 何故にこうなった?

 起きた女の子は当たり前のように俺の膝上に座り、「ごほんーよんでー」との催促。

 部屋の本棚に置いてあった絵本でも持ってこようと思ったのだが、てこでも動かない幼児。


 しょうがないので『お婆ちゃんの黄金知恵袋』を読んでいたりする。黄金と付いてはいるが、いわゆる普通のおばあちゃんの知恵袋の内容(一部例外を除く)なので幼児にはちっとも面白くないと思ったのだが……意外に大うけである。


 しかし、どの家の子も幼児の体温は高いなー……足と腹があっつい。

 そんな微妙な拷問? に耐えながら、黄金知恵袋を何と読破してしまった。知識が生き字引、伝達力が言霊使い、寛容さがオカン級になった――わけがない。


「もっとごほんーよんでー」


 ?が無いのは最早、命令だからであろう。断った瞬間に泣かれるのは目に見えているので、俺はリュックからまともな本をチョイスする――って、あとはもうマンガしか残って無いじゃないですかー、やだーもー。


 マンガを読み聞かせるっていうのは最早拷問ですよ。恥ずかしいセリフ、熱いセリフ、冷静なセリフ――それを誰かに聞かせるんですよ? それにドカッとかドドドドドドドドドとか、ズッキュウーン! とか、ざわ、ざわ、ざわとか、擬音を口にしなければいけないと言う……


 だが、退路は無い。戦わなければ生き残れないとはつい最近聞いたお言葉。

 リュックに入っている漫画は、熱血バカが主人公のロボットものと、異世界のお姫様が日本のごく一般家庭の家に転移して文化や庶民の暮らしの違いに四苦八苦しながらも明るく毎日を過ごす話しか無い。両方とも全十巻である。


 ――ここはロボ好きを増やすために……という悪魔の俺がささやきかけるが、天使の俺がロボ好きを増やせとささやき――ちょっと、天使さん仕事してよ。

 しょうがないので良心をメインフェイズに召喚して、天使と悪魔をダブルノックアウトし、お姫様が主人公の話を手に取る。


 声変わりする前で良かった―……と言う慰めにもならない慰めを心の中で垂れ流しつつ、俺は迫真の演技で女主人公とその他のキャラを熱演していったのだった……





 人は恥ずかしさに慣れる生き物である。ゆえに慣れる前に止めておけ。

 そんなわけで一巻を読破する頃には、「くっ……俺の演技力はこんなものか!? いやまだだ! たかがメインカメラを――」とか熱くなってしまっていた。


 名演技だったかどうかは知らないけど、それでも最後の巻まで読み終えた後――あれほど興奮していた幼女は、首をカクンカクンさせていた。もうおねむの時間の様である。


 こちらが抱える前に、自分で横に動いて、俺の膝を枕に眠ろうとする幼女。俺はこの子のお世話がかかりにいつ転職したんだろうか? 小学生は働けないはずだから、きっとここは異世界なんだろう――なわけはないか。


「ねーおにいちゃん? にいさまはー?」

「兄様?」


 そう言えば、この子の兄弟は……そっか、お兄ちゃんだったのか。


「うんー……にいさまはーおいえをつがなくちゃいけないからー……わたしとあそべるのはー……えっとー……」

「たまに?」

「そー! たまにー!」


 俺は花の様に笑う女の子の頭を撫でながら、話を聞いて上げた。


「きょうはーあえるひだったのにー……こないのー……にいさま、わたしのこときらいになっちゃったのかなー……」

「……そんなことはないよ」

「そっかなー……」


 その言葉を最後に、また安らかな寝息を立てて彼女は眠ってしまった。その胸にしっかりと、お婆ちゃんの黄金知恵袋とマンガの一巻を握り締めて。

 俺は苦笑しながら、口に出して熱演したから内容を覚えてしまったマンガと知恵袋を諦めることにした。


 彼女をそっと元眠っていた場所に運んで、クッションを頭の下に敷き、その横に残りのお姫様の漫画を置いておく。


「おにいちゃん……か。ずいぶん胸が痛くなる言葉だなー……」


 ずいぶん軽くなったリュックを背負って、俺は部屋を出た。


「あ、お客様、どちらに?」


 ちょうど飲み物をお盆に載せて運んできたスーツ姿のお姉さんとはち合わせた。


「えーと……ちょっとヒーローをしに……と言うか、ヒーローに頼りにと言うか」

「???」


 部屋で眠ってるお姫様の代わりに大量の?マークを出してくれた人に、そろそろ帰らないといけないと言うと、既に調査は終わって安全は確保されたとみていいが、まだお礼も何もしていないから出来たらもう少し残ってほしいとのことだったが……俺は断った。


 お盆に乗ったジュースだけをいただくと、俺はエレベーターに乗った。




 ロビーを出てビルの外に出ると……


「ようやく出てきたか」


 ――と。ビル風に長い黒髪をたなびかせている、ジーパンに白いシャツ、そして茶のベストをビシッと着こなした姉一号がそこにいた。高校生とは思えない風格である。

 ……一号?


「あれ? 何で姉さんに俺の居場所がわかんのさ?」


 異常な嗅覚をもつのは姉二号だけのはずなのだが……まさか!?


「気……を察知したの?」

「フッ……」


 ええええええええええええ!? マジで!? ファンタジーに半身突っ込んでいるとは思ってたけど、もう全身突っ込んでるの!?

 俺が驚愕していると、姉はスマートフォンを取り出し、


「もしもの時のために、お前の体内にはGPSのチップを――」

「いやぁあああああああああああああああああああああ!?」


 ファンタジーじゃなくサイエンスフィクションの方だったでござる!?

 体内じゃなく、ズボンに仕込まれていたと言う種明かしを聞くまで、俺は体内に埋め込まれていたチップを必死に探しまわるのだった……くそぅ。







 またもや本編と関係ない話で恐縮なのですが、桜子は幼いころにいつの間にか手に入れていた本の影響で、いわゆる庶民の生活をしてみたいという強迫観念染みたものにかられてしまったのです……まったく、誰のせいなんでしょうね?


 お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。またお待ちしております。


 それでは次回で。

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