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第86話 十年前。姉二号編

「おーい! セイチ、起きてー」

「……ん? 姉ちゃ――!?」


 バシッ! バシッ! とほぺったを何度も叩かれて、強制的に文字通り叩き起こされた俺は、視界に映るのが姉二号だとようやく脳みそが理解した瞬間――


「痛っってぇええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 全身が裂かれる様な痛みに絶叫を上げていた。

 死ぬ!? マジで死ぬ!? 痛い、痛い、いや痛いなんて言葉は生温いってこれはもう痛みの玉手箱とかそういう次元の話とかそもそも俺と言う存在は何でここに存在しているのかいやいやそう言う哲学的なことはどうでも良いのであっててててててつまりはマジでいたいいたいいたいいたいマ・ジ・でいたい(マ○ムマイムのリズムで)もうほんといっそ殺せと言いたいけど目の前のバカは本気にしかねないから心の中で叫ぶしかないっていうのがまた腹立たしいけど痛みでそんなことはどうでもよくなっていくってぇええええええええええええ!!!!!


「もう、男の子が何泣いてんの? しかも全身から変な汁出して」


 脂汗だよバカ野郎!! 呼吸はおろか心臓すらショックで止まりそうな痛みにもう突っ込みすら出来ねえよ!!

 霞む。視界が霞む! このまま霞み続けて何も見えなくなるとそのまま死にかねないと言う何の根拠もないが、生存本能が身体の底から訴えているので何とか意識をつなぎ止めながら、これ以上痛覚を刺激しないように転げまわるのを止める。


 呼吸だ。呼吸を整えるんだ。あまり吸うと意識がはっきりして痛みまでもがはっきりしてしまうので、ちょっと酸素が足りないくらいに整えるんだ。

 ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー……


 ああ……なんか落ち着いてきた。


「……ぞれで、ごごはどごだよ?」


 絶叫、咳、のどの渇きを無視した呼吸を経て、自分でも驚きのしゃがれた声で姉に問いかける。ちなみに落ち着く体勢が土下座に近い体勢なのは、姉にひれ伏しているわけじゃなく、単純に痛みでのたうち回った挙句、一番落ち着くポーズがこれだったと言うだけであるのであしからず。べ、別に姉二号に完全服従したわけじゃないぞ?


「おお、これが男子にのみあると言う声変わり? お姉ちゃんは弟の成長に喜びを禁じえないわ。ちなみにそれ以上身長が伸びたら殺意を覚えるけども」


 無茶苦茶を言うな。小学生の俺がこれ以上伸びないはずが無いだろう。

 近い将来殺されるんだなー……と小学生にして諦めの境地に辿り着きつつも、姉の次の言葉を静かに待つ。


「ここはねー……東京の高速道路の下よ」




 三十分以上――呼吸に意識を集中しつつ、身体はともかくとして、まともな思考回路を取り戻した俺は高速道路を支える巨大な柱に背を付けて座りながら、あたりの様子をうかがった。


 周りはフェンスに囲まれていて、どうやら侵入禁止エリアらしい。フェンスの上には侵入を防ぐトゲトゲがあったが、姉の身体能力の前では無駄無駄無駄無駄だったらしい。フェンスを上ったのではない。飛び越えたのだ。


 ちなみに、俺の様子から真剣にヤバいことにようやく気付いたのか「ジュース買ってきてあげる!」と言って、ピョンと助走もなく俺の目の前で飛び越えたのだから、俺の妄想と言うわけではない。 


 一言言いたいのは、ファ○コンのゲームキャラじゃあるまいし、ジュースで身体が治ってたまるか!? なのだが……正直、反省してくれて俺におごろうとしているだけでも奇跡が展開されている状態なので、もう許してしまいそうな自分が憎い。


 しかし何で東京? 昨日の記憶を探ってみても、普通に自分の布団で眠った所までしか覚えていない。つまり眠っている俺を東京まで運んだと言うことだろうか? ここから見える空の色は青色で、朝か昼か……


 あ―さっぱり分からない。いや、姉たちの思考はエキセントリックなのでじいちゃん秘蔵のコレクションのラノベや漫画を読みつくした俺でもどのキャラにもあてはめることが出来ないので、予想がつかないのは今に始まったことじゃないのだが。


 あーコンクリートが熱い。夏の日差しを吸収しているだけはある。脂汗をかいた俺の身体は死にかけたせいもあって冷たかったのでちょうど良かった。むしろ冬場だったらあのまま死んでいたかもしれない。


 そんな人生で生まれて初めてコンクリートに感謝しながら姉の帰還を待っていた俺は、自分の身長の倍はありそうなフェンスを軽々飛び越えてきた姉を見つけた。


「ほーい。オレンジで良かったー?」

「……姉ちゃん。牛乳で胸と身長が成長するのは最早迷信だと――」

「おーとーうーとー? ここで全力で暴れるとあんたの命だけじゃなく、高速道路がぶっ壊れるから我慢してあげるけど、お姉ちゃんにも我慢の限界ってもんがあるんだからね?」


 危うく大惨事の片棒を担いでしまう所だった……いや、俺も被害者側だとは思うのだけれども。

 一回だけ、「貧乳はステータスだ!」とふっ切った様な事を言ったことがあるのだが、その後目から落涙してたからな……まだ諦められないらしい。


 そんなわけで。姉がついでに買ってきたコンビニおにぎりをもしゃもしゃと食べながら、オレンジジュースでのどを潤す。

 身体の調子は大分良くなっていた。幼いころからイジ――しごかれてきたせいか、回復力だけは俺も草壁家の人間だと言えるレベルになった……気がしないでも無い。いや、俺以外が怪我した所なんて見たことないし。比べようがないんだよなー。


 空腹も喉の渇きも満たした俺は、隣で最早芸術レベルで鮮やかにコンビニおにぎりの透明なカバーを一瞬で外して口に放り込むと言う食事をしている姉に問いかける。


「それで、何で東京? そして、俺は何でここにいるの?」

「もぐもぐ……ごっくん! そりゃあ、来たかったからよ。そんで、セイチ置いて行っちゃ可哀そうだと思ったから」


 何と言う簡潔な答え。そしてなんて余計なお世話。俺ほど、母親の子宮から出てこなければよかったと思った小学生はいないと思う。


「……んじゃ、一番重要なことなんだけどさ……何で俺の身体はボロボロだったんだよ?」

「え? あは、あはははは……いやあ、それは……」


 姉二号は明後日の方向を見ながら、語り出した。



 どうも、姉一号と姉二号の二人が東京に行きたかったらしい。

 そして眠っている俺を手早く着替えさせて、でかいリュックに俺をつめて運び出したらしい。


 ここら辺は語りはしないが、勝手に東京に行ったという親の怒りを緩和させるために俺を連れて来たというのが真相なんだろうな。一号も二号も弟を便利な弾除けくらいにしか思っていない節があるし。


 出発は夜中だったらしい。問題は移動手段である。

 何と……徒歩である。走りである。バカじゃないの? うちの田舎から東京まで一体何県挟んでいると思ってるの?


 ……と言う様な常識は捨ててもらいたい。音速の壁すら無視して音速で移動しようともこの姉たちならあり得るかもしれないと本気で俺は思っている。シスター・ファンタジーと言う奴である。黄道十二星座の加護を得ていたとしても不思議ではない。


 移動は順調だったらしい。問題は途中で、リニアモーターカーと競走したことらしい……競走? そこまで聞いた俺は全てを悟った。

 Gと言うものがある。いきなり加速したりすると、身体に襲いかかってくる例の奴である。


 勘違いしてしまいそうなのだが、別に凄い速度=凄いGと言うわけではないことである。それだと電車とかに乗っていてもGを感じることになってしまう。

 急加速、急カーブ、急ブレーキなどの速度を急に変えたり、速度を出している方向を急に変えたりする時にGは襲いかかってくる。


 俺の全身がボロボロな理由がようやくわかった。居住性も減ったくれもないリュックの中で、リニアモーターカーを見つけたから競走して見ようなどと思って、急加速したのだろうこの姉は。


「いやあ、直ぐ、姉さんに止められたんだけどさ。逆にすぐ止まっちゃったからリュックの中でカエルが潰れたような音がした時は血の気が少し引いたわ、あっはっはっは」

「カエルが潰れたような音を出したのは俺ってことですよね!?」

「大丈夫よ! 目から赤い何かとか、鼻から赤い何かとか、口から赤い何かとか、ちょっとくらいしか出てなかったから!」


 アウトじゃねえか!? と叫ばずに俺は怖くなって視力が低下していないかちょっと遠くを見て確認した。

 Gは長くかかると危険だが、突発的なものならそう人体に被害は無い――ジェットコースターも瞬間的ならスペースシャトル以上のGがかかるものが結構ある――とはいえ、あの身体の激痛である。この姉二号が背負っているリュックの中身を気にしていたとは思えないので、時折ジャンプしたり、急に曲がったりして、俺の身体に何度も何度もGと言う名の負荷をかけたのだろう。


 視界にとりあえずの異常は感じられないため、一応胸をなでおろしつつ、もう嫌だこんな生活と涙ぐんだ俺を誰が責められるだろうか?


「ちなみに、姉さんは脈があれば大丈夫って、あんたを放ってとっとと古本屋めぐりに行っちゃったわよ?」

「クールッ!! 高校生になって落ち着いたと思ったけど、嫌な方向に落ち着きやがったなあの長女は!!」

「そうよね! 昔は目があったら殺す的なこと言ってたのに、今は人を合法的に斬り裂きたいから医者になるって意味がわからないわよね!? 合法的に人を斬って何が楽しいっていうのよ?」

「いやぁああああああああああああああ!! 病院逃げて―!!」 


 無機物に逃亡を促すほど事態は切迫していたんだ! むしろ変形合体して、病院ロボになって逃げてもらいたい。勝てなんて無茶は言わないから!




 こんな激痛と非常識から始まったんだ。今日という日は。 





 デュラハンが生まれてから番外編などを抜いて30話……そろそろいいんじゃないかなと思っての過去話だったのですが、もし今回からの過去話をロボットが出ないと不快に感じられる方が多数いたら、読み飛ばしてもらっても構わないようにしたいと思います。


 そして、感想の意見にあったのですが、VRMMOのタグが詐欺だと思われる方がいらっしゃったら、寂しいですがその時点で読むのをやめていただきたいと思います。詐欺だと思って読む方も、詐欺だと思われて読まれる方もつらいだけですので。


 今回の過去話の内容を公開して言い訳するのは『コラムダさん以外のネタバレは極力しない』と言うルールに抵触するのでしません。


 普通に楽しんで読んでもらっている方には不快な内容の後書きになってしまったことに深くお詫びします。

 そして詐欺だと思われた方も。こちらにそのつもりがなくても、読んでいただいている方にはそんなことは関係ないですから。


 それでは次回で。

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