第85話 宴の合間に
戦い終わって――俺達に待っていたのは村の中心で始まった歌姫のライブだった。
戦いの最中じゃじっくり聴いている暇も、見ている暇もなかったのでみんな夢中で騒ぎながらその歌と踊りに酔いしれていた。
そのライブのおかげで、歌姫の機体に乗った感想とか、ボスの強さとか、アイリスの背に生えた翼についてなどの質問攻めにあっていた俺は解放された。もう、歌姫様々である。
良い席――と言うか、単純に歌姫に近い位置は軒並み城壁を防衛していた人達に取られてしまっていたので、俺たち千花繚乱は村の家の屋根の一つに昇って、そこから会場を眺めていた。
他の三ギルドが席を取っておいてくれたと言うのだが、見るからにギュウギュウ詰めのところからあいつらの姿を見るより、のんびり落ち着いた所から眺めている方が性に合っているので断った。田舎育ちだから、正直人ごみはあまり得意じゃないんですよ。
アイリス、桜子、シロコにも聞いてみたけど、VRとはいえ働きっぱなしだった俺たちにあそこで騒げる精神力は残って無かった。と言うか、あそこで騒いでいる人達はマジ半端ない。テンション高く踊り始めたクロマツさんについては、恐怖さえ感じたね。
屋根の上に座りながら、楽しそうに踊って歌っている香坂とコラムダさんの姿を眺める。香坂はもう完全に吹っ切れたようで、コラムダさんと時折楽しそうに視線を交わしながらその綺麗な美声を村と夜空に響かせていた。
現実時間にして夜中の零時を過ぎたら、この世界は朝を迎える。そしたら、今回の戦いでの活躍などに応じた順位などの発表があり、報酬が配られることになっているらしい。
もちろん、明日の朝が早くもう寝なければならない人、もしくは強制ログアウトになってしまった人用に、明日の朝一番に順位の詳細などが書かれたメールが送られるらしい……が、ここまできたら順位発表も聞いて初めてのイベント戦を完遂したい所ではある。
明日月曜だもんなー……本来なら土曜の夜中に……とは言え、準備は朝からだったので日曜じゃないと……ここら辺は、プレイヤー全員が土日休日とは限らないので正解が無い問いであろう。
――ちょっと待てよ?
「おーい、そこの女子中学生? 明日学校は?」
俺は俺の隣に座って、シロコを抱きかかえながらライブ会場を興味深そうに眺めていた桜子に成人した大人として当然のことを聞いてみた。この少女、見た目と雰囲気と所作は俺より大人大人しているが、れっきとした十四歳の女子中学生である。
「あらあら? うふふふふ」
――いや、まあ、遅くても一時には終わるらしいから、絶対にダメと言うことは無いんだけどさ。
上品に笑いながらも、現実に帰る気のないらしい桜子は楽しそうにまた視線を香坂とコラムダさんへ戻した。
俺はため息をつきながら、本物のお嬢様の夜更かしに付き合ってしまっている事実に頭を痛めた。普通リアルとこの世界での人間関係はほぼ別物としてしまいたい所なのだが、桜子はこのロボオンに技術を提供している社長の娘さんらしいし、その気になれば「キサマか―! うちの娘を悪の道へ引き込んだのは―」と怒鳴りこんでくることも可能なわけである。
いやいや、妄想妄想、被害妄想と言う奴ですよ。まさかの歌姫が俺のお隣さんだったと言う一件で、ネガティブ思考になりつつあるなー……
そう言えば奴もれっきとした女子高生だが……歌姫としてログインしているってことは会社からなんだろうから……どうすんだろうな? 休むか遅刻か、それとも会社で寝泊まりしてそのまま学校に向かう感じか?
……何故に保護者思考なんだろうか? まともな妹を持ったお兄ちゃん的な思考なんだろうか? ふう……嫌なことを思い出した。
屋根の上では、アイリスが歌姫の踊りを完コピしようとがんばっている。どうやら翼は出し入れが可能らしく、今は無い。
そのことについてはまだ聞いていない。ライブが始まるまで眠っていたからなー……レベルが上がったってどういうことなんだろうか?
報酬の内容も気になるし……
――いや、今一番気になってるのはこれだな。
俺はつい先ほど死んだ。ゴーレム達に囲まれて、コクピットを砕かれて死んだ。
その時のショックで、忘れていたことを思い出したのだ。どうして自分でも忘れていたのか、と言うくらい濃い内容の思い出だったのに。
――つまりは、姉神達の手によってではなく、普通の人間相手に殺されそうになった時の記憶などを。
十年前――全身がバラバラに引き裂かれるような痛みとともに始まった、とある夏の日のことである。
次回から、十年前の過去編です。姉神ファンの方お待たせ――っていないですよね?
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それでは次回で。