第7話 セイチ、ロボットに出会う
「……コアっていうと、シューティングゲームのラストステージで主人公にフルぼっこにされるアレですか?」
「そうです。ファンタジーロボットものだと、弱点のはずなのに主人公機の胸や頭などの目立つ所に何故かある、あれです」
俺は最弱設定のスライムのレアカードから出た赤い水晶を、まるで生まれたばかりの子供を太陽にかざすかのように持ち上げて、自分でもわけのわからないテンションになっていた。
「ちなみに、そのレッドスライムの体液もハイ・ゴーレムに使えますよ」
「……何だかそのロボット、身体はスライムで出来ている……なんてことにはなりませんか?」
「まあまあ。とりあえず、それしまっておきますね」
コラムダさんが、ポンと手を叩くと、手にあったしっかりとした重みがフッと消えていた。地面に置いてあったレッドスライムの体液らしいものが入っているペットボトルも。
その後、コラムダさんはその場でくるくる回って……少ししてから立ち止まると同時にバッと両腕を広げると……って、ずいぶん芝居がかってるな。
「それではお待ちかねの……ハイ・ゴーレムの説明アーンド操縦です!」
「キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
待ちに待ったぞコノヤロー! 気分的には一年半も発売延期をしやがったとある有名ゲームを待ちに待ったゲーマーの様な気分だ!
「それでは転送!」
「っ!」
浮遊感――自転車で高めの段差にぶつかって空を飛んだ時のあの感覚――と共に、俺は見知らぬ空間――
「って、草原ですね」
メカニックな世界を一瞬期待した俺は、オイル臭さの欠片もない泥と草の匂いが支配するさっきとほとんど変わらない場所に瞬間移動していた。
「ええ。先ほどの場所から距離的には百キロほど離れていても草原なのです……元々、制作者がアバターやロボットのデータでは計れない使い心地等を確かめるため世界ですから。広さだけはバカみたいにあるんですけど、風景は単調なのですよ。他にも溶岩ワールド、砂漠ワールド、海底ワールドなどの試験世界があるんですけど、チュートリアルでそんなワールドを使うわけにもいかないですし」
彼女はため息をついて、このチュートリアルクエストの世界ができた理由を説明する。こ、これが試験用って……風とか草の匂いとか無駄にリアルなんですけど?
「いえ、このエリアは実際のロボオンの世界よりは結構手を抜いているんですよ? モンスターの配置をしていないことはもちろんですけど、天気もずっと晴れですし、何より時間が昼間のままで固定されちゃってますし」
リアルで時間に縛られるごく普通の一般人として見れば、ゲームの世界くらいずっと晴れの青空でも良い気がするが……こっちが住む世界であるAIの彼女からして見れば我慢できないことらしい。
コラムダさんは変わることのない青空をムーっと唸りながら睨むと、はあとため息をつきこちらに向き直る。
「この世界から脱出するためにも、お仕事しませんと」
「そうですね。がんばってください!」
「だから、ユーザーアンケートで私のことをほめちぎってくださいね。もう完璧な案内と、プレイヤーへの献身的な態度と分かりやすい説明をしてくれた高性能AIが、チュートリアルクエストで終わらせるのはもったいないって」
「…………」
「あれれー? 何で顔をそらすんですかセイチ様? ここまでの旅で私たちの仲はもう、お前が死ぬ時が俺の死ぬ時レベルのはずなのに」
桃園の誓いをした覚えのない俺は、執拗にこちらの顔を覗き込もうとしてくるコラムダさんの追及をかわすように顔をそらし続けるしかなかった……
嘘でもかけないことってありますよね? まあ、面白かったとくらいは書いて上げようと思う俺だった……
「……それでは、ハイ・ゴーレムの説明に入らせていただきます」
ぷすぷす……と、体中から黒い煙を上げながら息も絶え絶えな様子でコラムダさんはようやく本題に入ってくれた。
……何が起こったのかって? ……うん。まあ、いきなり服を脱ぎ始めたコラムダさんが俺に色仕掛けを仕掛けようとした所に、青空なのに天からすさまじい雷がコラムダさんを襲ったわけだ。
空中にはコラムダさんより少し年上で、髪の色が青色のお方が巨大な映像として映っていた。その人が俺に母性がにじみ出ている優しい笑顔で手を振っていたので、俺は手を振り返す……なんて無礼はせずに敬礼を返していた。世の中には怒らせちゃいけない人間――いや、AIがいるのだ。
空の彼女がすっと消えたのを確認すると、俺は生まれたての小鹿のように膝をぷるぷる震わせているコラムダさんに声をかけることにする。
「あのー……大丈夫ですか? コラムダさん」
「ふ、ふふ。だ、大丈夫ですよ……と、ところでセイチさん……どこにいらっしゃるんですか?」
ダメだ―! 目が見えてらっしゃらない―っ! もう手を握って遺言を聞いてあげなければいけないレベルだった―!
俺が介抱しようと近づくと……お空からゴロゴロ……と言う低い稲光の音が。
「さて……冗談はそれくらいにして、さっさと話しを進めましょう」
本当に冗談なのかは、今も震えが止まっていない膝を見れば一目瞭然だが、気付かないことにした。ユーザーアンケートには少しいいことを書いて上げよう……
「まあ、あまり期待はしないでほしいんですけど……これからお出しするハイ・ゴーレムは第0世代型……試作の中の試作機ですから」
まあ、そうだろう。試作機は高性能……と言うのは、ロボもののお決まり事みたいなものだが、それには主人公機かライバル機などの条件が入る。そもそも連邦の白い悪魔だって、敵の技術を盗みに盗みまくった末の機体だからな。
「私としてはマニア心をくすぐるいいデザインだとは思うんですけどねー……それでは登場していただきましょう! 第0世代型ハイ・ゴーレム『デュラハン』!」
中二くせぇええええええ……だけど嫌いじゃないぜ!
そんな失礼な感想を抱いていると、コラムダさんの背後の風景が歪み……そこには、
「おお……ロボだ」
そこには五メートルほどの全長のロボットがいた。
デュラハン……首なし騎士。なるほど的を得ている名前だ。
いや、首と言うか、頭部がないんですよ。ラストシューティングか。
「少なくとも子供受けするデザインじゃないんですよねー……ファンタジーロボットと言えども設定が通って無ければ瓦解する、とロボオタなスタッフたちが決めちゃって。あ、ちなみに説明をしやすくするために装甲は必要最低限しかつけてません」
腹部のコクピットは中のシートが見えるほどのガラス張り。イメージ的には戦闘ヘリの前面部分の感じだ。その胴体部分から腕と足が伸びる。
重心を安定させるためなのか、足は短足で太めだ。腕はその足に比べてほそい。
装甲が付いていないため中は丸見えだ。腕や足を見ていると、フレームに筋肉(?)がついている、人間の構造を模しているようだ。フレームと筋肉に守られるように、細い管が指先まで通っており、その中には白くそして淡く発光する液体が通っているようだ。
「いい……いいですよ、これ! 現実でも頑張って開発すればできそうな感じがなお良下げな感じを引き立たせてます! 首なんて飾りです! 偉い人にはそれがわからないんですよ!」
「ですよね! セイチ様ならそう言っていただけると思ってました! それでは説明に入らせていただきますね!」
嬉しそうに微笑みながら、嬉々として説明を始めるコラムダさん。うむ、いいぞ、もっとやれ!
「生産者のセイチ様には生産する立場から説明させていただきますと、ハイ・ゴーレムは全部で、フレーム、人工筋肉、魔力供給液、コクピット、コア、装甲、関節の七つのパーツに分かれているんです。この七つを自分で作るか、いくつかのパーツを他人に譲ってもらうかして、ハイ・ゴーレムをつくってもらうことになります」
おおー……新情報が目白押しである。フレーム、人工筋肉、コクピット、関節は見ればわかるし、装甲は今は取り外しているとのことなので後わからないのはコアと魔力供給液とやらだけである。まあ、魔力供給液は何となくあの淡く発行する液体だなと当たりは付けているが。
「ハイ・ゴーレムの基本パラメーターは全部で九つ! すなわち――」
『筋力』――パワー全般。接近戦の攻撃力や持ってる重さにもかかわる。人工筋肉の影響が大。
『耐久』――防御全般。これが高いと俊敏が低くなりがち。装甲の影響が大。
『瞬発力』――パワーとスピードに関わる。一瞬の爆発力。これが高ければ、人工筋肉や俊敏が低くても、多少は補える。人工筋肉、コアなど多数のパーツが影響する。
『俊敏』――スピードに関わる。身軽に動ける。これが高いと耐久が低くなりがち。フレーム、人工筋肉、装甲が関わる。基本、パーツが重ければ重いほど低下する。
『反応』――パイロットの操縦に対する反応速度。パイロットスキルが高くなるほど重要になる。コクピット、関節が関わる。
『器用さ』――関節が器用に動くかどうか。これが高いと、敵の弱点を的確に攻撃することができたり、小さいものを器用につかんだりできる。関節が深く関わる。
『居住性』――コクピット内部の快適さ。あまりにも低いとコクピットの中がちょっと歩くだけでシェイク状態になる。コクピットが深く関わる。
『魔力』――ハイ・ゴーレムを動かすエネルギー。起動時間や、装備できる武器にかかわる。コアが深く関わる。
『消費魔力』――魔力の消費を減らす力。高ければ高いほど、低い魔力で行動できる。魔力供給液が深く関わる。
なるほど――俺はこの中で、コアを持っているわけだから……『魔力』、ハイゴーレムの動かせる時間や装備に関わる重要なパーツをすでに手に入れたわけか。うん……あのカードは間違いなくチュートリアルで手に入る代物じゃないと今わかった。
「これらのパラメーターは隠しステータスじゃないので、自分の作った機体、もしくは手に入れた機体ならメニュー画面から確認できます。モンスターカードと同じで、F~SSまでのランクがありますが、さらに+と++がつきます。ちなみに、一世代上に行くことにハイゴーレムのパラメーターは同じランクでも三段階の差がつきます」
つまり、第〇世代型のパラメーターが全てAでも第一世代型のDランクと互角ってことか。
「まあ、戦闘力で言えば一概に互角とも言えないんですけど。装備にも違いが出るわけですし」
「なるほど……」
「それではそろそろコクピットの方へどうぞ。コアの設置場所はシートの後ろ側になっているので、それの確認と……いよいよ操縦ですね」
「っ! っしゃあ!」
にやりと笑うコラムダさんに素直に喜びを表す俺。
「今回は私が『精霊AI』の代わりを務めさせていただきますので、快適に操縦できると思いますよ?」
「……精霊AI?」
そう言えば俺の指輪にそれの経験値アップがついていたような……
「はい。それがロボオンの目玉の一つで、ロボットの操縦はおろか生身での戦闘や生産にまで深く関わる要素なのです」
そう言う彼女の顔は、まるで愛しい家族を自慢するかのように優しい顔をしていたのだった……
コアのやり取りがわりあっさりしてしまいました。いや、でもラ〇ォス・コアにだまされた話とかは話がそれすぎな気がしまして。今さらですか……