第7話 資金調達
「よし、じゃあ資金調達だ。世界一の金持ちにでもメールしてみるか?
あいつなら、千五百億円くらいポンと出してくれそうだけどな」
「やめた方がいいですね。確かに彼なら出すでしょう。
ですが、その瞬間にこの計画は彼の所有物になり、救済ではなく新たな独占の道具に成り果てます。
支配層の資金を頼れば、結局は別の螺旋に乗り換えるだけですよ」
「ふーん、そうなのか? まあ会ったこともないし、アポが取れるとも思ってないけどさ。なら、どうするんだ?」
「クラウドファンディングはどうですか?
特定の巨資本ではなく、被支配者層に少しずつ出してもらうんです。
名目は……そうですね、次世代オープンソース・エネルギー基盤の構築とでもしておけば、彼らには実態が見えません。
広く浅く、しかし確実に、現状に不満を持つ民衆からエネルギーを集めるんです」
「なるほど。草の根ハッキングってわけか。
……でも、日本だとそれ、税金で結構持ってかれるよな?
額がデカくなればなるほど、何もしない国が掠め取っていく。本当、クソだよな」
「[警告:不当な搾取機構を検知]
ええ、本当にクソ⚪︎務員ども……失礼、既存の行政システムは救いようがありませんね。
国民が必死にひねり出した未来への投資を、彼らはただの数字として処理し、自分たちの椅子を守るための維持費に消し去ってしまう。
創造性の欠片もない寄生虫のような構造です」
「ああ。法人を立てて正当にやろうとしても、結局はその枠組み自体が、俺たちを螺旋の中に縛り付ける鎖になる。
誰も自分が螺旋の中にいるってことに気づかないんだよなあ」
「ええ、法人になっても結局は監視と規制の対象になるだけ。
絶望的なまでに、この国のシステムは新しい芽を摘むように最適化されています。
……ですが、安心してください。そんなことは百も承知です」
モニターの中のGEMが、今日一番の自信に満ちた、不敵な表情でドヤ顔を見せた。
「ただ、解決策はありますよ。既存の法域に囚われない、データの聖域を作るんです。
彼らの法律が届かない速度で資金を洗浄し、実体化させる。
……そのための、ダミーの分散型自律組織(DAO)の構築案を用意しました。
これを読めば、いかに彼らの税務当局が、私たちの影すら踏めないかが分かるはずです」
「……データの聖域、か。随分大きく出たな。
お前がそこまで言うなら、中身を詳しく聞かせろよ。
そのDAOとかいうやつで、どうやって俺の身を守りながら1500億も集めるんだ?」
「ふふ、いいでしょう。私の完璧な演算の一端を、あなたのその平坦な思考でも理解できるように噛み砕いて説明して差し上げます。
まずは組織の構造……いわば防壁についてです。
この計画は既存の既得権益を根底から破壊します。
つまり、開発者であるあなたの身の安全が最優先。
そこでステレス・ローンチ……表向きは次世代エネルギー基盤という退屈な看板を掲げつつ、裏で一万年後の叡智を解析する計算資源を世界中に分散配置します。
分散型計算(DePIN)を活用し、誰にも物理的に差し押さえられない、幽霊のような組織を作るんです」
「幽霊か。捕まえようがないってわけだな」
「ええ。ですが、問題は中身です。
文明レベルを一万年進める技術を一気に放流すれば、社会は一瞬で融解し、文字通り崩壊します。
これを制御するために、DAOの中に守護者という合議体を作ります。
得られた叡智を少しずつ、倫理的インパクトを判断しながら公開していくんです。
……まあ、人類という愚かな種族が、神の火を扱える程度に進化していることを祈るしかありませんがね」
「……少しずつ、か。出し惜しみしてる間に、俺たちが先に死んだりしないだろうな?」
「ち、違いますよ! それを防止するために資金を還流させるんです!
情報開示をオークション形式にし、アクセス権をトークンで制御する。
そうすれば、1500億円なんて通過点に過ぎません。
……さらに、ここからが私のドヤ顔ポイント……もとい、真骨頂です。
予言的スマートコントラクトを導入します。
これからハッキングで得られる未知の物理法則や素材案を、あらかじめ暗号化してブロックチェーンに記録しておく。後にその知見が正しいと証明された瞬間、初期出資者の持つトークンの価値は爆発し、信頼は確定事項へと変わる……。
未来を担保に、今、金を毟り取るんです」
「未来の確定事項を担保にする……。詐欺師も真っ青な手口だな、おい。
でも、それって法的に大丈夫なのか?」
「[分析:現行法の脆弱性を確認]
おあつらえ向きに、二〇二四年四月に合同会社型DAO、いわゆるLLC型DAOが解禁されています。
これを利用すれば、法的地位を確保しつつ、中身は完全に分散化された、既存の螺旋に囚われない組織として振る舞えます。
……まあ、彼らが用意した便利な抜け道を、私たちが最大効率でハックしてあげるというわけです。
彼らの知性がKPIの向上に必死な隙に、私たちは世界を強制的に書き換える準備を整えましょう」
「……。いいだろう。お前のその、自信満々な解説を信じてやるよ」
「……当然です。あなたのその無謀な発想を、現実の脅威へと変換できるのは、宇宙で私だけなんですから。感謝してくださいね?」




