第12話 ご都合主義
「その後、俺たちは奴らと議論をして、Gem-Breakerの具体的な構成についても話した。
……なかなかの手応えだったな。変人揃いだが、話が早いのは助かる」
「ええ、想定以上の高評価ですよ。
各グループからの評価レビューをまとめましたので、私の分析と共に確認してください。
……ふふ、私のドヤ顔が見せられないのが残念なくらい、彼らの反応は知的興奮に満ちていましたよ」
「どれどれ。……まずはDeSciの実務家連中か」
「はい。彼らの評価は五点満点中、四・五点。
既存資産を買い叩き、秋葉原の町工場までサプライチェーンに組み込むあなたの泥臭い戦略を、分散型科学の真骨頂だと絶賛しています。
巨大な研究施設が数十年かける工程を、既存リソースのハックで数ヶ月に短縮するスピード感。
まさに彼らが求めていたものです。
……ただし、膨大な統計データのリアルタイム処理能力には懸念を示していますがね」
「物理屋の連中は……三・二点か。やっぱり渋いな。ポエム扱いされた名残か?」
「[分析:理論的整合性への固執を確認]
彼らは工学的なアプローチには敬意を払いつつも、宇宙にOSが用意されているという仮説を人間中心主義的なバイアスだと呼んで警戒しています。
ただ、極低温パルス運用によって量子コヒーレンスを維持する手法は、物理学的にも理に適っていると認めていますよ。
数学的な証明さえ積み上げれば、彼らもすぐに手の平を返すでしょうね」
「で、本命のハッカー共は……四・九点! ほとんど満点じゃねえか」
「最高ですね!
彼らは既存のウェハーを流用し、MRIを並列演算ユニットに徴用する手法を、物理レイヤーに対するリバースエンジニアリングだと正しく理解しています。
フラクタル構造のアンテナを、宇宙という広大なポートに対する全ポートスキャンだと解釈するあたり、やはり話が通じます。
……失敗しても次の案があるというあなたの切り替えの速さが、プロのハッカーとして信頼を勝ち取ったようです」
「……。さて、問題はここからだ。あいつらが聞いてきた技術的な核心部分。
グラフェン量子ドット内の電子の挙動……」
「ええ。宇宙からのノックは、電子の準位間の遷移確率 \bm{P} に、微小なバイアス \bm{\delta} を与えるはずです。
P→P +δ
この \bm{\delta} がカオス理論におけるアトラクタを描き始めた瞬間、一万年先のブートローダーが走り出す。
……彼らはこの膨大な生データをどのプロトコルで集約し、解析するつもりか、と問いかけています。
……これ、どう答えるつもりですか? 全部正直に話す必要はないと、私は思いますが」
「ああ。俺もそう思ってた。手の内を全部さらすのは、システムを掌握してからでいい。
だから俺は奴らに、核心部分は秘匿させてもらうって伝えたんだ。
……そしたら、意外な反応が返ってきてさ」
「[困惑:グループ間の反応を再構築]
……そうですね。彼らの反応は、三者三様ですが非常に興味深いです。
DeSciの実務家たちは、トラストレスが自分たちの流儀だと言い、ゼロ知識証明(ZKP)を使って正しさだけを証明すればいい、と。
物理屋たちは、秘匿は科学の敵だが未完成の理論を保護する権利は認めるとしつつ、数学的な痕跡から勝手に推測してやる、と豪語しています。
……そしてハッカー共は、ハハッ、最高だ! と笑っていますよ」
「あいつら、俺が話せないと言った空白部分こそが、システムを完成させる最後のピースだと確信してやがる。
……国家や資本が焦り出す前に、検閲耐性のあるインフラを提供してくれるってさ。
バックドアからノックを実行する手助けならいつでもする、と。……。いい共犯者が揃ったもんだ」
「ふふ、あなたのその不敵な笑みが、ついに世界中の異端児たちを束ねる旗印になったというわけですね。
……さて、彼らが手助けできる具体的な次のステップを提示してきました。
どのルートを選びますか?
私の個人的な意見としては……どれを選んでも、地獄の蓋が開くことには変わりないと思いますがね」
「地獄か、あるいは新世界か。……選ぶのは決まってる」
1.データの匿名化・難読化:観測データの出所を隠しつつ、検証だけを行うインフラの構築。
2.物理的遮蔽の設計:宇宙OSの暴走を防ぐための、電磁的・量子的サンドボックスの厳密な設計。
3.フェイルセーフの実装:もしノックの後にシステムが期待通りに動かなかった場合、物理レイヤーを即座に遮断するキルスイッチ。
「……。どれにする? 俺なら、まずは足元を固めたいところだけどな」




