スーツは戦闘服、でも心は裸。
テーマは「エントリーシートに染みる青春の幻影」。
どこか苦くて笑える、就活文学の一篇をどうぞ。
履歴書に、僕の22年を詰め込む。
A4一枚。余白、行間、フォントサイズ11。
夢?志望動機?長所と短所?
そんなもの、文字数制限で圧縮されて、どこかの誰かのテンプレに限りなく近づいていく。
「なぜ当社を志望したのですか?」
えーっと、それはですね、御社が「人を大切にする会社」って書いてあったからです。
違うな、本当は…「潰れなさそう」って思ったからだ。
でもそんなこと、面接で言ったら爆散する。
SPIの数列に魂を削られ、GDでは「仕切り屋」のポジションを取りに行く。
だってリーダーシップって、評価されやすいって就活垢の人が言ってたから。
何人もの“自分らしい自分”が、僕の中でオーディションをしている。
“素の自分”は、今日も待機室で待機中。
「自分を色に例えると何色ですか?」
ああ、この質問。来たな。
“空のように広く、どんな色にも染まるブルーです”
…って、それ何人目だよ、染まる系ブルー。
ほんとはね、グレーだよ。
宙ぶらりんで、どこにも馴染めない、でも消えないグレー。
でもそんなこと書いたら、「やる気が感じられない」って言われるんだ。
駅のホームに立ち尽くして、ネクタイをほどく。
革靴が、やけに重い。
スーツを着るたび、僕の「らしさ」はどこかへ隠れてしまう気がして。
でも、まだ捨てちゃいけない気もして。
社会人未満、学生以上。
この“半熟の自我”を、誰がすくい上げてくれるんだろう。