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秒速8キロメートル

作者: 些阨社

 いつもの朝。

 人が波なみと注がれた電車の中。

 ホームに着けば電車から溢れ出る人の波に流され、掻き分け、改札まで泳ぎ切る。人の流れと言うだけあって、やはり人は水なのだろう、では、H2OのHはhumanだろうか等と頭に浮かんだとき、一つのHが目に入った。初めて目にする輝きを放つそれの眩しい光りに瞳が奪われそうになるのを食い止めようと瞬き目を開いたらそこは上空500km。

 落ち着く間もなく自由落下が始まった。少ししてノートが入ったバッグが飛び去った。そのうち目の前が赤く色づき始め断熱圧縮による高熱が身体を包み着ている服が燃え尽くされる。なんとか逃すまいと握った携帯も、バラバラに空中分解した。積乱雲は思ったほどクッションにはならなかった。幾重にも雲を突き破ったあと、減速を試みて四肢を広げたところでもう地表は目の前、受け身とか無事に済む体勢とか考えるより先に着地の衝撃が身体を突き抜ける。そんな剥き出しになった自身の目の前に、あのHがある。はっとした瞬間、自分は何事も無かったように立っていることに気付くがそんな訳はなく、成層圏で衣服と共に燃え尽きた自制心と自尊心。今まで身に付けた知識もノートと一緒に飛び去った。幾重にも広がった躊躇する気持ちもその勢いで打ち破り、周りとの繋がりもバラバラに分解され、着地の衝撃で結合が外れ只のH分子となった。そして目の前にあるHを求め声が出る。


 「好き、です」




 ……あれ、Oってなんだっけ

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