王都から追い出されたので勇者たちと合流しようと思います
優しくしてくれた司祭だったお爺ちゃんが亡くなった。
「アルシュリア!! 魔力もないのに今まで聖女第二席として崇められていたが、お前を聖女だと偽りを述べたヒュドラム司祭も亡くなった!! 偽聖女はさっさと出て行け!!」
ヒュドラムお爺ちゃんを目の上のたん瘤扱いしていた次の司祭が第三席の聖女である貴族出身の女性を連れて来ていて、女性はこちらを馬鹿にするように、
「魔力もなく、身分もない偽者が今まで聖女と名乗っていたのが間違いなのよ」
と無詠唱で光魔法を行う。
「おお。これこそが聖女の光」
「なんてすばらしい!!」
と興奮している信者の方々を見て、確かになんで私が聖女だったのかしかも聖女の中で第二席――聖女の中で二番目にえらいのが分からなかったのでそれも仕方ないかと納得してしまう。
それでも、
「あ、あの……筆頭聖女のアナスタシアさまから頼まれていた仕事の引き継ぎを……」
「いらないわ」
一刀両断。
「所詮魔力なしの貴方が出来た仕事なんだもの。そんなのわたくしの手に掛かればすぐに出来るわよ」
「そうだな。お飾りのお前でも出来たんだしな」
「と言うことだからさっさと出て行ってくださる」
冷笑とともに告げられて確かに魔力なしの私が出来たことなのだからやすやすと出来ることかもしれないと納得してしまう。
「…………」
反論も出来ずにこの場を後にするとその様が面白かったのか大勢の人が笑う声が背後から聞こえた。
聖女を辞めることになると今まで私の身の回りのことを手伝ってくれた人たちが私の持っている物を置いていきなさいと自室に荷物を取りに行く暇もなく告げてきて、今現在私の持っている物を見せろと言われて、見せたらなんか拍子抜けしたような顔になっていた。
なんか高価な物でも持っていると思われたみたいだけど、私の持っているのは数枚のハンカチと木彫りの綺麗なカフスボタンぐらいで、それだけ持って今まで生活していた神殿を後にした。
「そんなしょぼいものしか持っていないなんてなんておかわいそうなのかしら」
とまで言われたのが気になったが。
「さて、これからどこに行きましょうか……。私は王都にいた方がいいと言われたから王都に残っていたけど、筆頭聖女の元にでも行った方が……」
筆頭聖女であるアナスタシアさまは現在勇者一行として魔王討伐に向かっている。当初は私もその一行に加わる予定だったのだが、魔王率いる魔族軍によって被害が酷かったのでそちらのフォローに専念することにしたのだ。
ただ、一緒に旅に出れると思っていた勇者の嘆きは酷かった。
『シュリアと別れるのは嫌だぁぁぁぁ!!』
『はいはい我儘はいけませんよ勇者さま』
『まあ、アレイストが使い物にならなくなるかもしれないし、何かあった時に助けを求めると思うから常に連絡を取れるようにしていてね』
旅に出たくないと喚くアレイストの首根っこを掴んで身体能力向上の魔法を使って引き摺って行く魔法使いに、そんな勇者を全く見向きもしないで別れを惜しむように抱きしめてくれる筆頭聖女。
そんな三人をヒュドラムお爺ちゃんと見送りをした時にはまさかヒュドラムお爺ちゃんとお爺ちゃんの孫が今生の別れになるとは思わなかった。
「ああ、そうだ。アレイストにお爺ちゃんが亡くなったと報告しないと」
魔王を倒す旅の途中に知らせるのは本当はよくないかもしれないけど、帰ってきて知ったらきっと嘆くだろう。
木彫りのカフスボタンを取り出して、すぅぅぅと大きく息を吸う。
『シュリア!! 何かあったかぁぁぁぁ!!』
「きゃあぁぁ!!」
カフスボタンから慌てたようなアレイストの声がしてビビった。実は通信魔道具だったカフスボタンで通信を繋ごうと思ったら先にあっちから通信が繋がって驚いたのだ。
『どうしたっ!! 何者かに襲われたかすぐに行く!!』
『ちょっと落ち着きなさい!!』
アレイストの声とアナスタシアさまの声がしたと思ったら。
「シュリア。無事かっ!!」
「ごめんなさいアルシュリア。止めれなかったわ」
「他に人が居なくてよかった………」
アレイストと共にアナスタシアさまと魔法使いのオルフェンスさまが転移魔法で現れる。
魔族の戦闘の後に都合を聞かれて転移魔法で呼ばれることはあったが、向こうから来られるのは珍しい。
「来て大丈夫なんですかっ!! 今どこまで進んで……」
ここで転移魔法を使ったら元の場所に戻れるのかと心配になるし、転移魔法を使用するオルフェンスさまの負担も大きいのにとついいつもの癖でせめて負担が軽減されるようにとマッサージをする。
「ああ……ありがとう……。相変わらずアルシュリアさまのマッサージは気持ちいいな」
青ざめてフラフラになってしゃがんでいたオルフェンスさまの顔色が血行の流れが良くなったのか赤みを帯びた顔色になってくる。
「助かったよ。魔王城手前でそろそろアルシュリアさまのマッサージを受けたいと思ったなと思った矢先にアレイストがアルシュリアさまに着けていた発信機が王都の外に出ているから何かあったかと半狂乱になっていてな」
「半狂乱って……大袈裟ですよ」
半狂乱になったアレイストが全く想像できないので大げさだと笑うと、
「いや、突っ込みを入れるのはそこじゃないと思う」
何故かオルフェンスさまに心配される。
「実際半狂乱よ。魔王城を守っている何万もの魔族を一瞬で焼き尽くしてしまったから」
あれにはビビったわとアナスタシアさまが告げる。
「じゃあ、アレイストもアナスタシアさまもお疲れでは……」
アナスタシアさまは最高の結界魔法の使い手だ。いくらアレイストが敵に向けた攻撃だとしても飛び火してもおかしくないので常に結界を張り続けているのは負担が大きいだろう。
「そうね。お願いできる?」
「はいっ♪」
オルフェンスさまのマッサージが終わると次はアナスタシアさま。最後に念入りにアレイストにも。
「王都に魔族の襲撃は?」
「相変わらずありますね。まあ、アナスタシアさまが張った結界を維持しているので民は全く気付いていませんが」
さすが最高の結界術で筆頭聖女に上り詰めた方だ。アナスタシアさまが魔王の討伐に出かける前に設置した国を守る結界と王都を守る結界はいまだ健在で、魔族の襲撃を防いでいる。
尤も結界を用意したのはアナスタシアさまだが、それを維持し続けたのは魔道具と第二席の私の役目だ。もっとも魔力なしの私にできるのは微々たるものだが。
「――で」
マッサージに気持ちよさげに目を細めながらアレイストが尋ねる。
「何があったんだ? シュリアが王都から出るなんて……」
「それは……」
王都から出た理由。お爺ちゃんが亡くなって、偽聖女だと言われて神殿から追い出されたことを伝える。
「そうか……爺さんが……」
アレイストは一瞬だけ目を閉じて、その死を偲ぶ。同じようにアナスタシアさまもオルフェンスさまも偲ぶように手を組んでいた。
「それにしてもそれで追いだしたとか……」
「何を考えているのよっ!!」
オルフェンスさまの青ざめた顔に怒りを顕わにしているアナスタシアさま。
「シュリアを必要としない者たちなんて死ねばいいだろう」
「「関係ない人たちの方が圧倒的に多いんだよっ!!」のよ」
アレイストの声に被せるように二人の怒ったような声。
「そんな慌てることですか? 補助道具の掃除をまめにやるだけですよね」
第二席聖女の仕事は主に魔道具の掃除だ。後は、結界周辺の警備をしている人たちの慰労も兼ねている。
「そうね……アルシュリアなら掃除だけで終わるわね」
「アルシュリアさまが居るのなら限界以上の無茶も出来るな。すぐに魔王城に向かって魔王を倒そう」
そんな話にまとまっていくが意味が分からずこの場にいる皆の顔を見渡す。
「アレイスト?」
「シュリアは確かに魔力はない。だけど、シュリアの特殊能力は桁違いなんだ。それこそ爺さんがすぐに魔王軍にばれないように隠して俺の婚約者にするくらいの」
「多分、アルシュリア。じゃなくて聖女第二席は勇者の婚約者であるという言葉が独り歩きをしての今回の騒ぎなんでしょうね。――厄介だわ」
アレイストが私を抱えて、オルフェンスさまが転移魔法を行う。
転移魔法を行った後はオルフェンスさまが青ざめてげっそりしていたのですぐさまマッサージという名前の大気中に流れている魔力を送り込む。
「シュリア。俺たち三人のサポートを頼む。もともと魔王城ではシュリアのサポートを要請しようと思っていたからな」
そのために通信魔法の込められているカフスボタンを預けて、いつでも転移魔法を起動させれるように魔法陣を刺しゅうしてあるハンカチをたくさん渡されていた私はアレイストの言葉に頷いた。
アルシュリア――シュリアは爺さんがたまたま見つけて連れてきたのだが、正直一目ぼれだった。怯えたように身体を縮こませている様がハムスターみたいでかわいいと思えて、甘えてほしいと思ったのだ。
『この子は勇者の庇護下にいないと危険なんだ』
爺さんに言われたから勇者を目指して修行を行った。だからシュリアの婚約者に――勇者に成れた時の感激はひとしおだった。
そう。シュリアは――。
王都に戻ると結界が破れかかっていた。一部の魔族は入り込んでいて、警備の騎士と戦闘真っただ中であった。
「大変!!」
疲労が激しいアナスタシアさまに張り直してもらうのは恐れ多いと思ったのですぐに魔道具の元に走っていき黒く汚れている魔道具に大気から取り込んだ魔力を流し込む。
流し込んだら魔道具は一瞬で綺麗な色になり、すぐさま侵入してきた魔族を排除して、綺麗な結界を展開する。
「流石アルシュリアね」
アナスタシアさまが褒めてくれるが、魔力なしの私には大気に溶け込んでいる魔力を集めて魔道具や人に送り込む事しか出来ない。
みんなのように魔力を自分自身で作れないのだ。
だから、結界を作ることも光魔法を放つことも治癒することも出来ない。せいぜい、魔力が枯渇した人々に大気に溶け込んでいる魔力を与えて魔力の回復を促すだけだ。
お爺ちゃん曰く、私が魔族に連れ攫われていたら魔族がこの世界を支配するだろうということで私は勇者の婚約者になる事が決まった。
それを知ったアレイストは私に限界以上の魔力を自分の中に送り込んでくれと頼んで身体が悲鳴を上げてもおかしくないほどの無茶をして強くなった。
アレイストのことを考えれば止めさせた方がいいのだが、私は止めなかった。だって、私も勇者と結婚するのが決まっているのならその勇者になるのはアレイストが良かったのだ。
私を魔力なしだから偽聖女だと言っていた人々が信じられないようにこちらを見ている。
「やっぱり引き継ぎは必要でしたね」
魔力を注ぐやり方を教えればよかったと第三席の聖女に向かって告げると、
「あんなの出来るわけないでしょう」
と言われてしまう。
どうやら、私の仕事の意味を理解していないでただのお飾りだと勘違いされていたのだと申し訳ない気分だったが、
「まあ、これでシュリアの価値を分かっただろう」
魔王を討伐したばかりのアレイストがどこか面白がっているのでまあいいかとそれ以上は何も言わなかったのだった。
無自覚チートヒロイン