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誤字報告が続々と!すみません!ありがとうございます!精進します!
過去の投稿作品も読み返して下さる方がいらっしゃり、そちらでもまた誤字が!申し訳ない!
頑張ります!
待っていたメンバーを見て、直ぐ様引き返し全力で逃げたくなったが、何とか根性で留まり、深く頭を下げる。
ここは学園内なので、平民が王族を前にしても立礼で許される。
平民から気安く声を掛けるのは駄目だけど。
相手、王族以外も居るし。
俺をここまで連れてきた先輩が、
「連れてきました。こいつがブレオ商会の息子です」
そう我が家はブレオ商会を営んでいるが、このメンバーには王家御用達の商会を営む伯爵家の令息が居るよね?何故俺が呼ばれたんだろう?
許しがないので頭を下げたまま考え事をしていると、聞き覚えのない声が。
「お前があの、令嬢達の間で流行っているブローチを売っている者か?」
頭を上げる許しも、声を出す許しも貰ってないので、無言で頭を下げたままでいると、先程質問してきたのとは別の声で、
「殿下が聞いておられるのだぞ!何故答えない?!」
怒鳴られた。
怒鳴った奴はたぶん第三王子殿下じゃないから、ここは答えても良いかな?頭は下げたままで。
「頭を上げる許しも、声を出す許しも頂いておりません」
簡潔に言えば、
「ふん!融通のきかん奴め!」
「許す、許すからさっさと先程の質問に答えろ」
雑だけど許しは得たのでゆっくりと頭を上げて、目の前の人達を改めて見る。
男爵令嬢を中心に、その肩を抱く第三王子殿下、殿下とは反対隣に膝をぴったりとくっつけて座る宰相家の令息、つまらなそうな、気に入らなそうな顔でこちらを睨む騎士団長令息。
その他にも男爵令嬢の取り巻きをしている高位貴族の令息達が、俺を案内してきた先輩を含め七人も居る。
「ご質問にお答え致します。ご令嬢方のブローチは我が商会で販売している物ではございません。似たような物は扱っておりますが、以前公爵家のご令嬢が仰っていたように、オーダー品なのでしょう。全く同じ物は我が家ではご用意出来ません」
「はん!使えない奴だな!」
「何処にでもあるようなブローチなら、我が家の商会で扱う物の方が価値も品質も高い、そう言っただろう?やはり私が用意するよ」
王家御用達商会を営む伯爵令息が、男爵令嬢の髪を一房取って口付けながら言う。
それを第三王子殿下が乱暴な仕草で払い、
「ならお前に用はない。去れ」
虫でも払うような手振りでその場を追い出された。
一度深く礼をしてから足早に去る。
姿が完全に見えなくなってからほぅと一息。
うん。嘘は言ってない。販売はしてないからな!我が家で取り扱っている魔道具は、生活に役立つ便利道具だけでそれはちょっと調べればすぐに分かること。
最近は宝飾品も扱ってるけど、それは低位貴族の令嬢が普段使い出来るような、ランクの低い物だけ。
パーティー用とかのランクの高い宝飾品は、まだ我が家の商会では扱い切れないからね。
で、今回ご令嬢方に贈った品は、我が商会の裏技的な魔道具。
何か事が起こりそうな時に、事前に情報を知ってて、対策の為に役立ちそうな魔道具を作り、お得意様に求められた時だけ配る、ってのは、後々の信用とか取り引きとかの役に立つからね。
先行投資ってやつ。
必ずしもそれで利益を得られる訳ではない、と親父は言ってたけど、今のところ損したことは無い。
兄ちゃんは1、2度やらかした事があるようだけど、そもそも俺は特定のお客様を抱えてる訳でもないし、元々は義妹用に用意してたものだし、損しそうになったら義兄に相談すれば、損にはならなかっただろうしね。
教室に帰ると、からかう気満々の友人達に囲まれ、事情を話すととても心配された。
クラスメイトの令嬢にも事情を聞かれたので答えたら、心配されて同情された。
そして次の休み時間に令嬢は何処かへと足早に行ってしまった。
放課後。またもや呼び出しを食らいました。
昼休みに事情を聞いてきたクラスメイトの令嬢に案内されて到着したのは、以前にも来たことのある談話室。
案の定そこに居たのは公爵令嬢とそのご友人方。
全員が俺が渡したブローチを身に着けてる。
「呼び出しに応じて下さってありがとう」
今回も口を開くのは公爵令嬢。
呼び出しは有無を言わせなかったけどな!
「いえ」
「昼休みに例の方々に呼び出されたのでしょう?私達に関する事ではなかった?」
「はい。皆様がお着けになっているブローチの事を聞かれました」
「貴方は何と答えられたの?」
「我が家で販売したものではない、と答えました」
「ああ、そうね。私達も買い取ってはおりませんものね。それで?あの方々はなんと?」
「王家御用達商会を営む伯爵家の令息が、我が家の商会よりも価値も品質も良いものを用意すると」
「そう。私達が散々苦言を呈しても、一切聞く耳を持たず、あの男爵令嬢に侍ってらして。もう駄目ね」
公爵令嬢の言葉で、その場に居る令嬢方の雰囲気も重くなる。
王家御用達商会の伯爵令息の婚約者様は、怒りになのか身を震わせて顔を赤くしてるし。
第三王子殿下をはじめ、他の令息方との不貞行為の証拠は、王家に直接渡してあるんだけど、まだ令嬢方には何の知らせもいってない様子。
ここで俺が証拠付きで直接王家にばらしました、とは言えないので、今後どうなるかは分からない。
ただ、令嬢方の気持ちは完全に令息方からは離れた気配。
見切りを付けられた感じ。
令嬢方は今後、溜め込んでいた不貞の証拠をご当主である父上にでも見せる事だろう。
ご当主様がどう判断するかは分からないけど、令息方の未来は暗そうだ。
そして高位貴族のご令嬢方が、こぞって婚約の破棄や無効ともなれば、貴族家同士の婚約や婚姻関係が騒がしくなるだろう。
俺には全く縁の無い話だが、友人達には少なからず影響しそう。
呼び出しから解放されて、友人達の今後を考えてみたり、騒動の渦中に居る令息方の未来を想像してみたり。
高位貴族の令嬢方の婚約関係が騒がしくなるだろう事を、爺ちゃんや親父、兄ちゃんにも知らせないとな。あと姉ちゃん達にもか。
そんな事を考えながらぼんやりと歩いていたら、前方から真っ直ぐに俺に向かって歩いてくる人物に気付くのが遅れた。
人気の無い廊下。真っ直ぐに俺に向かって歩いてきて、手を伸ばせば触れられる位置に立ち止まって、舌舐りしそうな視線を向けてくる男爵令嬢。
俺が横にずれてすれ違おうとしたら腕を掴まれた。
「何かご用ですか?」
「ふふふ、昼間見た時に思ったの。貴方の顔、すっごい好みだなぁって!ねえ、これから私に付き合わない?すっごく良いことしてあ、げ、る!」
「嫌です。お断りします。忙しいので離してください」
揚げ足を取られないようきっぱりと断る。
そしたら途端に、それまでのうっとりしたように舐めるように俺の顔を凝視していた男爵令嬢の顔が、明らかに不機嫌になった。
「は?今、私の誘いを断ったの?」
「はい。お断りします」
「あんた何様?私は王子にも好かれてるのよ?どうなっても良いの?」
「第三王子殿下に好かれているのなら余計に、今の貴女の誘いには乗れませんね」
「は?私が誘ってるんだから、言うこと聞けば、良い思い出来るのに?」
「一時的に良い思いが出来たとしても、その後、高位貴族の令息方や第三王子殿下に睨まれるのはごめんですね」
「どうせばれないんだから良いじゃない」
「嫌ですよ。見た目が気に入ったってだけの男に、誰彼構わず股を開く女なんて、どんな病気を持ってるか分かりゃしない。それなら花街のお姉さん方の方が、定期的に検査してて安全だし、ただの男好きな素人のあんたより気持ち良くしてくれるし。あんたの誘いに乗るメリットが一つもない」
はっきりきっぱり言ってやったら、男爵令嬢の目が怒りで見開かれ、顔が真っ赤になった。
「お前!私にそんな事言ってただですむと思ってるの?学園を退学になった上に、家も潰れるかもね?」
「へぇ?男爵家の正式な令嬢でもないのに、あんたにそんな権力があるんだ?」
この男爵令嬢が友人を引っ掛けた時に一応調べたところ、男爵令嬢を名乗ってはいるが、男爵家の正式な手続きをした上での令嬢ではなく、男爵家当主の愛人の娘で、男爵の推薦を受けて学園に入学してる事実を知った。
そこそこの成績でも卒業出来れば正式に男爵家に認められるらしいが、この女は男遊びが過ぎてほとんど授業に出ていない。それで卒業出来る訳もない。
その事を理解してないのか、周囲に侍っている令息達の権力を宛にしているのか、令嬢としてのマナーも身分も関係無く高位貴族の令嬢方にも平気で喧嘩を売っている。
正式に認められてない事を、俺に知られていたとは思ってなかったのか、怒り心頭だった顔が気まずそうに変わる。
「あんたの周りに居る令息方のほとんどが、あと数ヵ月で学園から居なくなるんだけど、それも理解してないだろ?卒業後、どんな仕返しをされるんだろうな?」
「な、な、な、なによそれ?!私仕返しされるような事してないわよ!」
「してるだろ?婚約者寝取ったり、恋人を寝取ったり、虐められたと嘘を付いたり、自分より身分の高い方々に平気で無礼を働いたり」
「そ、そ、そんなの!私本当に虐められてるもん!だから皆が守ってくれてるんだもん!」
「まあ、そう思ってんならそれで良いんじゃね?俺には関係無いし」
「あんた、私の事ばらしたら、ただじゃおかないから!」
「へえ?お前こそ、俺の家に何かしたら、ただですむと思うなよ?」
脅すように言えば、目を逸らしてあわあわする男爵令嬢。
たぶんこれで俺や家に手を出すことは無いだろう。
男爵令嬢に侍ってる高位貴族の令息達は、元々選民意識の高い人達なので、貴族と平民を明確に差別して、貴族としては最低位とは言え男爵家の令嬢だからこそ相手をしているのだろう。
肉欲に、身分違いの真実の愛という設定に、酔ってはいるもののこの女がもし平民として近付いていたなら、相手にもしなかっただろう。
その辺はこの女も理解してるのか、俺に身分をばらされないよう、あわあわしてる。
一応、俺や家に何もしなければ、こちらからは手も口も出さない、と取り引きらしいことを言ってみたが、こいつが理解出来たかは怪しいところ。