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感想、誤字の指摘、良いね等、ありがとうございます!
誤字とちょっとした修正を入れました。
内容はほとんど変わってないので読み返さなくても大丈夫です。
万が一呼び出された時用に予め用意していた小冊子は、念のため多目に持ってきたけどちょっと足りなかった様子。
二人で一冊、公爵家のご令嬢だけは一人一冊を持って読み耽っている。
それほど分厚い冊子でもないので、内容をさらっと読んだ公爵家のご令嬢は、次に俺が用意しておいた魔道具に目を向ける。
録画用の魔道具は一般にも普及して街中でもたまに見かけるが、俺が用意しておいた魔道具は従来の録画用魔道具よりもだいぶ小さい。
カラカルは魔道具の開発はそれほど得意ではないが、改良はとても得意で、特に小型化するのは得意中の得意。
令嬢が胸に飾る大きめのブローチ型に作ってもらったので、大型の魔道具よりは録画時間は短いし、画像も粗いけど、人物の顔かたちや普通の音量で話す声も録画録音出来る優れもの。
そんな魔道具の説明をし終えると、
「………………随分と用意が良いのですね?」
何故か公爵家のご令嬢に疑いの目を向けられた。
「これは義妹であるキャリー嬢に万が一の事が起こる前にと、姉のアドバイスを受けて製作したものです。魔道具についても夏休み前に依頼を出しておりました。ですがキャリー嬢やそのご友人のご令嬢方には夏休み前に必要が無くなってしまったので、作ったは良いものの、どうしようかと思っておりましたが、皆様のお役に立つかもと思い持参致しました」
「まるでわたくし達の相談内容を知っていたかのようね?」
「万が一を考えて予め備えるのは商人として当然でございます。例え今回無駄に終わろうとも、商品は無くならないのですから、別の機会に販売なりすれば良いかと考えました」
「……………そう。貴方のその慎重な用意周到さが、どれだけわたくし達の助けになるかはまだ分からないけれど、是非使わせて頂くわ。ありがとう。今回もし失敗したとしても、決して貴方に損な取引にはしないわ」
公爵家のご令嬢以外は小冊子を食い入るように読んでいるけど、許しが出たので部屋を出る。
暫く歩いて幾つか角を曲がり、人気が無いのを確認してから、その場にへたりこんだ。
「やっっっばっ!緊張した~~~!やっぱ高位貴族のご令嬢って違うよな~」
大きな独り言を言ってしまったけど、こんな話は他の人にはとてもじゃないけど話せない。
高位貴族のご令嬢が、異性のしかも平民に相談ってだけで体面に関わるのに、その上俺が相談の内容を予想してた、とか、下手をするとご令嬢の方が家での立場を問われかねない。家にばれれば少なくとも品位を疑われる。
ま、俺も冊子と魔道具を出すまではそんなこと考えてもいなかったけど!公爵家のご令嬢に疑うような目を向けられて初めて姉ちゃんの言葉を思い出したくらいだし。
姉ちゃん曰く、
「い~い、生まれながらの高位貴族のご令嬢ってのは、プライドがドレス着て歩いてるようなものなんだから、例え自分の方が詳しく知ってたとしても、何度も繰り返し聞かれない限り、先回りしたり間違いを訂正したり、詳しく説明したりは絶っっっ対にしちゃ駄目よ!下手したら家ごと潰されるからね!」
だそうだ。
自分よりも身分の低い者に間違いを正されたり、指摘されるのは屈辱なんだとか。その場合も微笑みながら報復を考えるそうだけど。
今回の俺の失敗は、求められる前に小冊子や魔道具を差し出してしまったこと。
まあ義妹用に用意してて、使わなかった物を別の人に差し出すのも大概失礼だけど、金品は要求しなかったし、義妹用って事で大目に見てもらえた感じかな?ギリギリお目こぼし頂いたって感じだったけど!今後ご令嬢方にとって役に立てば、それなりの見返りも期待できそうだし、何とか切り抜けられたようで良かった良かった!
教室に戻れば、何の呼び出しかを聞かれたけど、口が裂けても言えません!
誤魔化したら告白だろう?ってからかわれたけど、そんな生易しいものじゃないからな!と言いたかったのを必死に我慢した。
家に帰って母さんに愚痴ったら、大笑いされて、兄ちゃんと父ちゃんには育毛剤と胃薬を貰った。
胃薬はとても役に立ちました。
◆◇◆
「そのブローチは何処で作った物だ?」
休み時間、移動教室のため廊下を歩いていたらそんな声が聞こえて、何気なく見てみれば、男爵令嬢を腕にぶら下げた第三王子殿下が公爵令嬢に問い掛けている場面だった。
「可愛いですよね~そのブローチ!他の令嬢もつけてましたし流行りですかぁ?」
挨拶も遠慮も敬語も無く男爵令嬢が公爵令嬢に話しかけてる?!
その場に居る良識ある生徒が一様にぎょっとして男爵令嬢を凝視してる。
だが皆の驚愕の表情を物ともせず公爵令嬢は淡々と微笑みながら、
「このブローチは、仲良しのお友達とお揃いであつらえましたの。特注ですので既製品ではありませんわ」
「へぇぇ~、いいなぁ~。わたしも仲良しになったら貰えるってことですかぁ?」
「いいえ。貰うとか譲るとかのお話ではなく、皆様それぞれに自分の分を支払って作った物ですわ」
「ええぇ~、それってぇ、貧乏なわたしへの当て付けですかぁ?お前じゃ払えないだろうってぇ?ひどくないですかぁ?」
「そうだぞ!自分の家がいくら金持ちだからといって、これ見よがしに高価な品を見せびらかすなど!品性を疑うな!」
「確かに我が家は男爵家に比べれば裕福でしょうけれど、このブローチは土台となる金属は一般的な物ですし、家格に合った宝石を各々選んで付けております。男爵令嬢だからといって買えない程高価ではないですよ?現に今貴女の着けてらっしゃるネックレスよりもずっとずっと低価格で買えるものですもの」
「ええぇ~?!公爵令嬢なのにそんな安物をつけて恥ずかしくないんですかぁ?」
「値段など関係ありません。このブローチはお友達との友情の証ですもの」
ふふふ、と声に出して笑う公爵令嬢は普段の取り澄ました顔とは比べ物にならない程可愛らしい。
だがよくよく見ると、目が全く笑っていない。
そもそもあのブローチは俺が渡した魔道具なので、宝石ではなく魔石が嵌め込まれてるし!男爵令嬢じゃ見分けが付かないんだろうけど、第三王子殿下なら分かりそうなものなのに、そこは疑問に思わないんだろうか?
しかも!公爵令嬢はにこやかに微笑みながら、
『お前にはお揃いを望む同性の友人など居ないだろう?』
『その豪華なネックレスは誰から貢がれたんだ?』
『値段でしか判断出来ないなんて欲望丸出しだな?』
と言った俺でもわかる嫌味が満載に籠められている。怖い!
第三王子殿下はその嫌味を正確に受け止めたのか、気まずそうとかちょっと怒っているような複雑そうな顔をしてる。
「もうよろしいかしら?わたくし次の授業がありますの」
「あ、ああ」
「ええぇ~、結局何処で買ったのか教えてもらってないんですけどぉ?」
嫌味もピリついた空気もまるで感じていないらしい男爵令嬢はまだごねていたけど、第三王子殿下に宥められて何処かへ行った。
教室ではない方向へ向かったんだけど授業は良いのかね?
そんな事があってから、学園内の勢力図が明らかに変わってきた。
これまでは一応王族である第三王子殿下が学園内での一番の権力者と見做されてたけど、そもそもこの第三王子殿下、卒業後は公爵家に婿入り予定で公爵令嬢と婚約してるんだよね。
その婿入り予定である公爵家の令嬢と明らかに敵対姿勢を見せている、ってどうよ?
どれだけ男爵令嬢にのめり込んでいるのか知らないけど、自分の将来棒に振ってるよね?
平民の俺に聞こえてくる王族の噂なんてたかが知れてるけど、学園入学前の噂では、王子は3人とも非常に優秀、とか聞いたんだけどな~?先輩に聞いたら、あの男爵令嬢と絡む前は、優秀だったぞ?って微妙な表現で教えてもらったんだけどな?
まあ、俺には関係のない所での話だし別に良いけど!




