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終わりで~す!
読んで下さってありがとうございました!
翌朝渋るカラカルに荷物を片付けさせて、手続きの済んだ書類を貰って国境の検問へ。
その前に少しだけ食料の買い足しをしていると、
「あら、見たことのある顔ね?」
と声を掛けられた。
振り返ってみると、犯罪奴隷として囚われた筈の女がそこに。
首輪も足輪も無く着ているものも一般人と同じ程度の服。
「何故あんただけここに居る?犯罪奴隷だろう?」
「私はあいつらと違ってごねたりせずに、情状酌量を受けられたもの」
そう言って二の腕にある入れ墨を見せられる。
それは刑期を終えた犯罪奴隷の証。
前科があることは生涯消えないが、罰は受けた、と言う証。
「元凶であるあんたが、どうして他の奴等より刑期が短いんだ?」
「保護観察処分になったからよ」
「保護観察処分?」
「私の罪は、貴族令嬢への侮辱罪だけよ?そんなに重い罪にはならないわ。それに私はあの男達をたった一人で養ってやっていたのよ?それが、反省の気持ちとか情状酌量に繋がって、刑は軽くなったし、あの男達とは一緒に居させられないって判断で、身元引受人に預けられる事になったのよ。まあ、今後また犯罪とか犯せば一発で終身刑らしいけど。そんな馬鹿な事はしないわよ」
「本当か~?何の罪の意識も持たずに、高位貴族の令嬢達を次々に敵に回してたのに~?」
「あの時、学園であんたに言われた時に気が付いてれば、私は今頃こんな所に居なかったでしょうね」
「ああ、自分の行動を省みろ、とか言ったっけね?」
「今思い出すと、あの時の私って浮かれてたのよ」
「確かに」
「皆が憧れる高位貴族のご令息達が、競うように私に高価なプレゼントをくれるし、甘い言葉を掛けてくれるし、高位貴族の令嬢と比べて、私の方が可愛いとか綺麗とか好きだとか、そんなことを毎日のように言われ続けて、自分こそが世界で一番可愛くて尊い存在なんだと錯覚してたのよ。思い出すと本当に恥ずかしいし馬鹿だなって分かるけど、当時は本気でそう思ってた。王妃にだってなれるんだ、って」
「ふ~ん?」
「断罪されて、結婚させられて、平民の家に押し込められても、それでも王子様が一緒に居てくれるなら、私は幸せになれるんだと思ってたんだけどね。王子様は沢山の人に傅かれて、お世話されて持ち上げられてるから王子様なんだって思い知ったのよ。王子様が平民になったら、魔法が解けたみたいに、何一つ、それこそ自分の身支度一つ出来ない子供より手の掛かる我が儘放題な迷惑な男しか残らなかった。意地になって仕事して世話して、って頑張ったけど、他の男達まで押し掛けてきて、その全員が私一人に何もかも押し付けて我が儘ばっかり文句ばっかり言うから、疲れちゃった。あいつ等が問題起こして奴隷落ちして、私まで奴隷になっちゃったけど、正直ほっとしたの。もうあいつ等の世話をしなくても良いんだって。そしたらこれまでの生活を鑑みて、私は保護観察処分になるって言われて、身元引受人に預けられて、他の元奴隷だった人達と生活してる内に、昔の自分がどれだけ馬鹿だったか思い知ったのよ」
「ふ~ん。遅くはなったけど、反省出来て良かったね?」
「それは嫌味?結局前科付いちゃったのよ?今後はろくな結婚も出来やしないわ」
「自業自得でしょ。でもまぁ、高望みしなければ、普通に平民としての幸せは掴めるんじゃないの?まあ、それもあんたの気持ち次第だけど」
「高望み、気持ち次第………」
「昨日偶然あいつ等に会っちゃったんだけど、一切反省した素振りさえ無かったし、たぶん自分達は不幸のどん底に居ると思ってるんだろうね。反省した今のあんたはどうよ?」
「…………意地悪な言い方ね?うん、そうね。平民の服も質素な食事も、何の装飾品も持ってない自分にも、少しだけ不満があったんだけど、今の私にはそれが精一杯なのよね。身の程を知れって言われたものね。高望み、気持ち次第。忘れないようにするわ。ありがとう。ここで貴方に会えて良かったのかも私」
何かが吹っ切れたような顔で笑う彼女は、これまで見てきた中で一番綺麗に見えた。
贅沢な生活を送り着飾って宝飾品で飾られるより、それは尊いことのように思えるんだけどね。
それが少しでも理解出来ると良いね。
反省出来た彼女が、本当の意味で苦しむことになるのはこれからかもしれないし。
カラカルの元へ戻り、馬車を走らせる。
国境を越えて王都を目指す。
起伏の激しい道なので、流石のカラカルも魔道具は弄れない。
他愛ない話をしながらゆっくりと馬車を走らせる。
「さっきまた女に絡まれてたな?誘われたのか?」
「いや、昨日会った連中の1人だったんだけど、なんか思うところがあったのか、反省してたよ。ただ、大変なのはこれからだろうけど」
「助けろとか金寄越せとかは言われなかったのか」
「うん。まだ平民としての生活には不満そうだったけど、今のところは真面目に働いてるみたい」
「贅沢ってのは1度覚えちまうと中々抜け出せねぇらしいからな」
「曾祖父母見てると、まさにそんな感じだったよ。過去の栄光を取り戻そうと躍起になって、ひ孫まで利用して返り咲こうとしてたね。ひ孫の意思なんてお構いなしに。だからこそ身の破滅まっしぐらになったんだし。彼女も本当に反省したなら、苦しむのはこれからだよね。人の幸せをぶち壊していい気になってた自分を思い出して、今ある幸せを受け入れられるようになるのかね?」
カラカルに頭をグシャグシャと撫でられる。
「まあ、普通の神経なら仕返しに怯えたり、自責の念に落ち込んだりもするだろうが、もう関係の無い赤の他人の事だろ!そんな奴等の行く末なんか気にする事はねーさ。完全には乗り越えられなくても、前に進もうとしてるお前はスゲェ奴だよ!」
「うん!あんな奴等に何時までも煩わされて引き籠ってらんないからね!」
「そうだな!お貴族様なんて、決まりごとやマナーで雁字搦めで窮屈なもんに、何でなりてーのか全然わかんねーよな!」
「そうだそうだ!何処へだって行けて、誰に会うのも自由で、何をするのも自分次第!平民最高じゃん!」
「そうだな!成功も失敗も自分次第でどうとでも出来る!」
「この自由さこそが、平民の醍醐味なのに、お貴族様には分からないんだろうな~!」
ゆっくりと進む馬車は、晴れた空の下、何処まででも行ける気がした。
誤字報告、評価、感想を沢山頂いてありがとうございました!
相変わらず誤字が多くて申し訳ありませんでした!




