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予定より2日程余計に時間は掛かったものの無事我が家に到着。
予定より随分と早く帰ってきた末っ子に微妙な顔をする家族。
「ミックよ、手紙を出す間もなく帰ってくるとは少々情けないぞ?」
とか爺ちゃんに言われた。
「いや!違うから!帰ってきたって言うか、行き先が変更になったから、仕入れとか相談しようと思って寄っただけだから!これからまた行くから!」
「なんじゃ?島国を1周すると言ってたろう?」
「それがさ、爺ちゃんと父さんが奮発して買ってくれた無限収納袋をカラカルに見せたら、そりゃ~も~夢中になって、劣化版だけど無限収納作っちゃったんだよ!で、それをドゥーディール王国に送ったら留学が許されて、その滞在費を援助すれば、専属の契約をしてくれる、って言うもんで、じゃあ行き先をドゥーディール王国に変更しようかな、って」
「ほほう?カラカル殿の専属契約か。悪くないの。条件は?」
「契約は俺と、あとは滞在費の援助と、半年に一回くらい俺がカラカルの家を訪ねて、カラカルの様子を確かめる事」
「なんじゃそのふざけた条件は?滞在費の援助以外、カラカル殿のメリットが無いだろう?」
「まあそうなんだけど。カラカルって生活無能力者だから、これまではギルドが強制的に、定期的に掃除してくれてたのを、俺にさせようって事じゃない?ドゥーディール王国のギルドがどんな感じなのかも分からないし、人見知りだから知らない人家に入れたがらないし。専属になったってギルドの依頼は受けられるんだし?」
現に今もカラカルは一言挨拶しただけで用意した部屋に籠ってるし。
「ふむ。わしには分からんが、カラカル殿にはメリットがあるって事か。しかも滞在費を援助すれば、ドゥーディール王国の技術を持った魔道具師に、うちからの依頼を優先して貰える。悪くないどころか、得しかないの」
「でしょ?契約しちゃって良いよね?」
「契約するのはミックじゃろ。決めるのはお前自身だ」
「いや、微妙な条件だから、後から問題にならないか、その辺の意見を聞きたいだけで、契約は勿論俺が考えてするよ」
「そう言う事なら問題はない。どんな条件だろうと、契約者本人が納得しとるなら、それで成立するもんじゃ。確りと契約書を交わしてギルドに提出すれば問題ない」
「その場合、商業ギルドと魔道具ギルド両方に提出するんだったよね?あとドゥーディール王国の売れ筋とか教えて欲しい!」
「ああ。お互いが所属するギルドに一通ずつ提出しとく方が、後々の問題にならずに済む。仕入れの事は親父に聞けい。わしは最近そっち方面は行っとらんからな」
「は~い」
とのやり取りを経て、親父にアドバイスされながら荷造りし直して、3日後にはドゥーディール王国に向けて出発。
ドゥーディール王国はカラカルの住んでた隣国とは反対方向で、国を縦断してその先にある国。
魔道具の開発が盛んで、農地が少なく、起伏の激しい土地なので、移動も大変。
魔道具は王家が厳重に管理してるので、それを狙った盗賊とかは少ないそう。
親父曰く日持ちのする食料なら大抵売れるそう。
ただ、あまり裕福ではないので、吹っ掛けると商売にならないとか。
いや、そんなあこぎな商売はしませんよ?
まあ移動代とか領地を通過する時の通行税とかの分多少高くは売るけどね?
その為に見せる用の商品も積んでるし。
無限収納を持ってると知られたら、そっちの方が狙われるからね!
製造番号が書いてあるから、盗まれても通報すれば見付かる可能性は高いけど、中身まで無事とは限らないからね。
家を出て12日目。
3つの領地を通過して国境のある街に到着。
この辺りは元々森で、農地には向かない土地なんだけど、最近では開墾が盛んに行われてるらしい。
国境だからか兵士の数も多く、治安はそれ程悪くない。
ここで手続きの為に1泊する。
ずっと馬車に乗ってたカラカルが疲れきってベッドに延びてるのを放置して、街の様子を見に行く。
国境の街は、古くからある街で石造りの頑丈な建物が多い。
古い建物ばかりなので、重厚感があり明るい雰囲気ではないけど、王都の華やかな街並みよりは趣?があるような気もする。
活気ある街ではないけど、どっしりと落ち着いた街と言う感じ。
ドゥーディール王国と争った歴史はないけど、全く警戒してない訳でもなさそう。
兵士の数が他の街に比べて多いのは、この近辺に開拓村が点在し、その村で働いているのが犯罪奴隷だからだろう。
勿論開拓村にも見張りの兵士は居て、厳しく管理はされてるんだけど、逃げ出した犯罪奴隷が逃げ込むとしたらまずこの街だからね。
ここから次の町に行くには馬車で1日掛かる。
それも、身内だけで構成されてるような小さな町なので、知らぬ顔が居れば一発で分かる。
宿はあるけど町の外に作られているし、行商等の商売も宿の売店を借りて商売するのが一番効率的。
無理して町の中に入っても、警戒されて口も利いてくれないそう。
昔、逃げ込んだ犯罪奴隷に町を蹂躙されたことがあって、それ以来よそ者はよっぽどの事がない限り町に入れないんだそう。
婚活とかで若者が町を出ることはあっても、ほとんどの若者は相手を見付けると町に帰るそう。
そんな話を町の宿で聞きました。
なので犯罪奴隷が逃げ込めるのはこの国境の街だけ。
一か八かで別方向に逃げても、開拓されてない深い森が延々続くだけだからね。
どうにか国境を越えてドゥーディール王国に逃げ込んだとしても、国境を越えてすぐにある山を越えられずに、命を落とす事になるそう。
うん。治安は悪くないんだけど、こう、犯罪奴隷にも休日ってあるのね?
仕事の効率を上げるためには適度な休養ってのは必要らしく、犯罪奴隷でも、月に1度だけ休養日があり、国境の街で散歩が出来るんだって。
勿論犯罪奴隷を野放しには出来ないので、兵士の見張りは付いてるし、行ける範囲は決まってるそうだけど。
そして犯罪奴隷と言うのは、一目でそれと分かるように、男女関係なく黒い首輪と、鎖付の足枷をされてる。
鎖の長さは調整されてて、歩幅を小さくすれば歩けるけど、決して走れない作りになってる。
この街に初めて来た俺は、奴隷解放区と呼ばれる場所があるなんて知らずに、街をプラプラしてたら、つい足を踏み入れてしまった訳ですよ、奴隷解放区に。
そしてもうすっかり忘れ果てていた顔に囲まれちゃいました!
ニックニックニックニックと複数人が連呼してる。
犯罪奴隷の着けさせられてる首輪は魔道具になっていて、一部行動を制限する作用があって、一般人に触れると軽い電流が流れて痛みを感じるそうな。
俺に触れられない奴等は、俺の周囲を囲んでニックニックと連呼して、
「ここから出せ!」
「金をくれ!」
「俺を元の地位に戻せ!」
「助けろ!」
等々、口々に要求してくる。
終いに痛みも忘れて俺の肩を掴む奴まで現れて、俺は逆にその手を掴み捻って腰を押すように蹴った。
他のもう1人も掴み掛かってきたので、そいつは投げ飛ばした。
護身術、習ってて良かった!俺、格好良くない?!と1人自画自賛してたら、他の奴等があまりにうるさく騒ぐので、兵士がこちらに駆けつけて、
「何事だ?!」
と威圧してくるので、空かさず、
「あ!すみません、助けて下さい!間違って入ってきてしまったら絡まれました!」
兵士に助けを求めたら、怪訝そうな顔で見られた後に、
「随分と親しげに声を掛けられていたようだが、友人なのか?こんな所まで来て、こいつらを逃がそうとしてたのでは?」
疑われてる様子。
「まぁ、顔と元の身分は知っていますが、知人とも呼べない仲です。助ける気は微塵もありません。この街に来たのは初めてなので、入ってはいけない区画があるとは知りませんでした」
と説明しながら身分証を見せると、
「確かに。知り合いでは無いようだな」
と納得された。
知り合いとして話し掛けたのなら、名前くらい知ってるよね?
兵士に連れ出されて区画を出ると、奴等に恨みがましい目を向けられた。
宿に帰り、相変わらず魔道具を弄っているカラカルを、夕飯を食べようと誘ったら、
「なんかあったかよ?」
と聞かれた。
「あー、まぁ、迷惑な顔見知りに会っちゃって、絡まれた」
「そりゃまた災難で」
「昔の地位に戻せ!とか金を寄越せ!とか、ここから連れ出せ!とか、色々言ってきたけど、平民の俺に何を求めてんだか。自分の境遇を嘆くばかりで反省するってことを知らない奴等にはうんざりするね~」
「ああ。犯罪奴隷にでも落ちた奴か?」
「正解。自業自得で落ちてった奴等に構ってる暇は無いんだけどね」
「何やらかしたんだが知らんが、人を殺しでもしなければ、数年も耐えれば解放されるんだろう?」
「高位貴族のご令嬢複数人を怒らせてるから、ちょっと刑期は長いだろうけど、それでも10年は行かないかな?ただ、反省しない奴等は、また戻ってくるんじゃない?」
「まあそうなりゃ、前科もあることだし、長くなるだろうな?」
「ちゃんと反省して、行いを改めて、平民として暮らして行ければ、前科があってもそこまで大変でも無いんだけどね?」
「まあな。貧困とか不作で食い詰めて犯罪に走った奴等は、その後反省して普通に暮らす奴も多いが、元がお貴族様なら、反省よりも現状への不満の方が募るんじゃね?」
「う~ん、お貴族様ってそんなに良いものかな?高位貴族のご令嬢達って、凄く大変そうだったよ?」
「さぁな。俺にはわかんねぇ世界だわ」
「俺も全然分かんないや」




