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翌日。
無駄なものが無くガランと広い部屋など初めて見たので掃除してみた。
物がないだけで汚れてはいるし、変なシミもあるので、中々に大変だったけど、ピカピカの床や壁、風呂場のカビもスッキリピカピカの家は新築とまではいかないけど、今すぐ売りに出せそう。
掃除の出来に満足してると、これまた滅多に来ない客が来た。
「カラカルーお客さーん!」
呼んでみると、作業部屋で無限収納を弄っていたカラカルがモソモソ出てきて2、3言話すと客は帰って行った。
「客じゃねー」
と言って手紙の封を開けるカラカル。
どうやら相手は魔道具ギルドのお使いのようで、依頼なのか手紙を持ってきたらしい。
さして時間をかけずに手紙を読み終えたカラカルは、
「ミック、お前ドゥーディール王国行くよな?」
「そうだね、カラカルが猛プッシュするから興味出てきたし」
「良し!なら俺も行く!」
「ん?何で?」
「お前に見せてもらった無限収納を改良した、ってかあれの劣化版をドゥーディール王国の魔道具研究所に送ったんだよ。んで返事が来て一時留学を受け付けるってよ!」
「え~っと、それって凄いこと?」
「外国人を研究所に受け入れるのは、数年に一人か二人居ないくらいだな?」
「へ~」
「興味ねーなら聞くなよ」
「いや、凄さが分かんないだけで、興味がない、訳でもない?」
「まあそれはいい。さてミック」
「え、何?改まって」
「俺と契約する気はあるか?」
「契約?魔道具師として?今までずっと、どんな大手商会からの提案も断ってたのに?」
「まあな。ドゥーディール王国の魔道具師の契約がどうなってんのかはまだわかんねーが、個人で受ける依頼に関しては制約は無かった筈だ。で、その専属の契約をしてやっても良い」
「…………条件は?」
「条件は3つ。1つ、契約相手はミックお前だ。商会でも家族の誰かでもねー。2つ、ドゥーディール王国での滞在費を出す事。ドゥーディール王国でどれだけ過ごすかにもよるが、少なくとも俺がドゥーディール王国で魔道具師として資格を取るか、諦めて国に帰るかするまでの滞在費。金の出所は商会に頼っても構わない。3つ、半年に1度は俺の様子を確認に来ること。以上だ」
「………えーと、最後の3つ目はなんなの?様子を見に来るって意味分かんないんだけど?」
「これまでは3ヶ月に1度くらい魔道具ギルドが強制的に家を掃除しに来てたんだよ。ドゥーディール王国ではギルドじゃなく国の管轄に入るから、強制的な掃除が来ねぇ。放っておかれたらおれ、死ぬだろう?」
「いやいやいや!そんな他人任せにしないで自分で頑張りなよ!」
「俺に家事は向いてねぇ」
「薬草煎じたり、薬品の調合まで出来るのに、何で簡単な料理の1つも出来ないのさ?それに山程積み上がった中から目的のものを探せるんだから、実は片付けも出来るだろう?」
「出来なくはねぇ。だが面倒臭い上に不味い物しか作れねぇ」
「一応チャレンジしたことはあるんだ?そんな状態で半年放置して大丈夫?」
「もっと頻繁に来られるならそれはそれで良いし、半年くらいなら死なねぇ」
「それも経験済みなんだ?」
「半年以上放置されると、埋もれるか飢えるか品質が低下するか」
「駄目人間じゃん!」
「だから条件の1つにしたんだろう!」
「誰か有能なお手伝いさんとか雇えば良いのに」
「それで散々トラブルになったから、今の俺があるんだろう?」
「う~ん。悪くない条件なんだけど、最後のひとつがな~?」
「半年あれば、海だって渡って帰れるだろう?」
「何事も予想外と言うのは起こるでしょ?怪我して治療してたとか、荷物全て奪われて一文無しになるとか、それで遅れてカラカルの家に行ったら、餓死しました、とか笑えないよね?条件3に、半年以上俺から何の連絡もなければ、うちの誰かを様子見に向かわせても良いなら、受けても良いよ?」
「……………女じゃなければ、いいだろう」
「良し!じゃあ契約しよう!」
「一応家に確認しなくても良いのか?」
「うちの買い付け担当は基本男ばっかりだし、カラカルと契約できるなら、多少の無茶は許されるよ」
「そうかよ」
カラカルが照れてる。
「出発は何時にする?ドゥーディール王国には何時までに到着すれば良いの?」
「この手紙が俺に届いてから3ヶ月以内にドゥーディール王国の王城に到着すれば良いらしい」
「3ヶ月か~。住む所も探さなきゃだし、早めに出るに越したことはないね!ギルドの方は大丈夫なの?」
「手紙を出すときにギルド長には言ってある。ドゥーディール王国で学べるのは多くの魔道具師の目標だから、文句は言われない」
「受けてた依頼は全部終わってるんだ?」
「当然だろ」
「そっか。なら明日にでも出発しちゃう?荷物はまとまってるんでしょ?」
「ああ。お陰で無限収納の中に全部詰められた」
「カラカル一人くらいなら、俺の馬車でそのまま行けるしね。一旦家に寄って、それからドゥーディール王国だね」
「ああ。ルートは任せる」
と言うことで、カラカルを連れてドゥーディール王国に行くことになりました。
普段引き籠りのカラカルを馬車に乗せて旅すると、半日で船酔いする俺より酷いことになる。
カラカルの住んでいた家から我が家までは一週間くらいの距離なんだけど、カラカルは二時間くらい馬車に乗っただけで酔う。
1頭しかいない馬を、ずっと走らせ続ける訳にはいかないので、度々休憩を入れるんだけど、カラカルはその度々の休憩では足りないくらい酔って休んでる。
全然進まない。
あまりに酔って酷いので、一日目の宿場町で休んでる時に、町の商店であるだけのクッションを買って馬車に敷いてやった。
これで多少は症状が軽減すれば良いけど。
馬車酔いで夕飯も食べられなかったカラカルは、朝食をモリモリ食べて、馬車に敷き詰められたクッションにボソボソとお礼を言って、クッションを一旦退かし、何やら見たことのない魔道具を馬車に取り付けた。
「それ、どんな魔道具?」
「乗り物酔いってのは、揺れる視界を脳が理解出来なくて起こったり、揺れの振動が脳に伝わって気持ち悪くなるらしい。これは振動を抑えるシートだな。魔道具って程でもねぇ。夕べ持ってたのを思い出した」
「へー。確かにクッションよりもグネグネ固い感触なのに、弾力がある。これで揺れが軽減されると良いね?」
グネグネしたシートの上にクッションを敷いて乗り込むカラカル。
ゆっくりと出発してみると、
「どお?幾らかマシ?」
「ああ、完全には無理だが、揺れはだいぶ軽減された。もう少しならスピード上げても大丈夫そうだ」
「りょ~か~い!徐々に上げてってみるから、駄目そうなら言って~」
「ああ、分かった」
言った通りに徐々にスピードを上げても、カラカルからストップの声は掛からなかったので、通常スピードで進めた。
街道の一定間隔である休憩所に着くと、カラカルは爆睡してた。
そして昼に寝すぎたカラカルは夜眠れなくなって、魔道具弄りをしてた。
馬車が普通に進められるので、文句は無い。
無限収納の事で、突っ込みを頂きました。
容量が決まってるのに無限とは?とのこと。
これは魔道具師の夢と言うか、理想と言うか野望を込めて名付けられた魔道具って事で!
「いつか本当に無限に収納出来る魔道具を作るぞ!」
って心意気で名付けた。って事で一つ!




