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予想外に忙しかった新店舗開店も落ち着いて、一週間も学園を休んだ俺も、やっと学園に通えるようになった。
新店舗はまだまだ忙しいけど、元々あった店舗から人員を移動させ、元々の店舗では新人を募集したら結構な人数集まり、即戦力になってくれそうな人も居たので助かった。
どこぞの大商会に長年勤めてた人らしいよ。
勿論お客様を選り好みして接客を変えるような人は選ばなかったけどね。
大商会にありがちな、馬鹿高いプライドの持ち主とかいらない。
そんな人は、最初から中央通りの店に配属されるものと自分の経歴をひけらかしてくるし、自分がいかに有能かをやたらと強調してくる。
なのでそんな人には、我が家には我が家のやり方があるので、新人は平民街の店の下っ端からだと説明すると、怒って帰っていく。
それでも良いからと働いてくれる人は歓迎する。
その辺は我が家で一番人を見る目の厳しい母さんの仕事。
婆ちゃんも人を見る目はあるけど、年齢的なものなのかお涙話にはわりと弱い。
以前、不幸自慢みたいな女性を採用してしまって、仕事もしてないのに私には無理です!とか泣いてばかりで、でも給料を減らされると、ああ!私に能力が無いばかりに!とかお客様の前で盛大に泣きだす人が居て、婆ちゃんも困り果てていた所に、母さんが現れサクッとクビにしてた。
その辺母さんは容赦ない。
適度にサボる分には大目に見るけど、能力や経験が足りないのは仕方ないにしても、やる気の無い人は容赦なくクビを切ってしまうし、そんな人はうちの噂を流して盛大に嘆くけど、何処へ行ってもまともに仕事をしようとしないので、その内消えるし。
母さん曰く、
「真っ当に働いてれば、真っ当なお客様が見ていてくれる。私達は真っ当なお客様に誠意ある商売をすれば良いのよ」
とのこと。これには爺ちゃんもうんうんと大いに納得して、人事権は母さんに全て任された。
婆ちゃんはちょっとだけ寂しそうだったけど納得してたし。
一週間ぶりに学園に来たら、クラスメイト全員が見覚えのある同じハンカチを鞄に飾り付けてて、高位貴族のご令嬢何人かが同じ総レースのヘッドドレスを髪飾りのように身に着けてた。
うん。我が家の新店舗開店の時に配ったやつですね!
ありがたいんだけど!クラスメイト全員のお揃いってちょっと照れない?しかも俺だけ着けてなくてボッチっぽくなってるし!
口々に新店舗開店のお祝いを言われて、お揃いの品に喜ばれて、男子生徒はちょっと照れ臭そうなのに嬉しそうなので文句言えないし!
久しぶりに会った担任には生温かい視線を向けられるし!
他クラスの生徒には羨ましがられるし!微妙な気分になった1日でした。
学園帰りに頼まれたお使いを済ませる為に職人街に来たら、絡まれました。
ガラの悪い連中とかなら、まだ対処の仕方を知ってたんだけど、絡んで来たのは学園を追い出され身分を失くした元王子達。
俺が迂闊にも学園の制服のまま来てしまったのが悪かったんだけど。
一応話を聞いてみたら、生活が苦しいから、同じ学園に通っていた誼みで幾らか融通して欲しいとのこと。
そんな話に乗るわけがない。
俺がすげなく断ると、ギャンギャンと文句を吠え立てる。
薄情者とか恩知らずとか、身分を笠に着てとか偉そうに、とか。
それ全部自分達の事じゃん!って突っ込みたかったけど、言えば言ったで面倒な事になるのが分かってたのでガン無視して通りすぎた。
しつこく食い下がって来ようとしたけど、用のあった鍛冶屋に入ると、強面の見習いさん達が何事かと出てきて、恐れをなした奴等は逃げてった。
「何じゃ~ありゃ~?」
「自業自得で身分も学園在学資格も無くした人達」
「そんで何でボンに絡んどる?」
「俺が迂闊にも制服で来ちゃったから、同じ学園に通ってた誼みで、金を貸して貰えると思ったんじゃない?迷惑しか掛けられてないのに、貸すわけないじゃんね~?」
「奴等は近頃この辺を彷徨いてる奴等じゃろう?仕事もせんと、彷徨いてるだけなら、金が無くて当たり前じゃろうに?」
「元は自分の服一つ自分で着たことの無い奴等だから、誰かが何とかしてくれるって思ってんじゃない?現に今も、散々馬鹿にしてた平民の女に養われてる訳だしね」
「自分の服一つって、何じゃ、高貴な方だったって事か?」
「うん。今じゃ見る影もないけど、俺達平民からしたら、直接姿を見るだけで不敬になりそうな、高貴な身分の方々だったのに、不始末起こして落ちぶれちゃったね!」
「ほ~ん。お貴族様出身ね~?道理でそこらじゅうで騒ぎを起こす訳じゃ!平民の常識はお貴族様にはつうじね~んじゃろうな~?」
「元、貴族なんだから、いい加減平民の常識を学べば良いんだけどね~?無駄にプライドが高いのも大変だよね~?」
「ふぉっふぉっ!ボンも中々言うの~?」
「学園でもあんまり評判の良い人達じゃなかったからね~」
親方に依頼してた品を受け取り、荷物が多いので見習いさんに荷馬車で運んでもらう。
帰りにまた絡まれても面倒なので、荷馬車の隅に相乗りさせてもらって帰った。
それで面倒事は収まったかと思ったんだけど、中央通りの我が家の店舗付近で、不審者達が度々目撃されるようになった。
店の警備員の話では、店に押し入ったりはしないものの、店付近を彷徨いて、知り合いらしい人達に声を掛けて回ってるらしい。
高位貴族のお客様はお店の前まで馬車で来るから問題ないけど、低位貴族のお客様は混雑防止の為に中央通りの専用馬車置き場に馬車を停めて、徒歩での移動が多い。
そんな低位貴族の令息令嬢を捕まえてはお金を借りようとしてるとか何とか。
直接お金を貸してくれ、って言うのではなく、過去に自分がどれだけ相手を助けたかを訴えて、恩を返せ的な事を言うらしい。
学園に在籍してた当初から、身分を笠に着て傲慢に振る舞って低位貴族を見下してたくせに、恩なんて欠片も無いことを理解してない様子。
いまだに自分達は敬われ尊重される存在だと思ってる様子。
そんな奴等を、誰も相手する訳もない。
ただ、かなりの人数が言い掛かりを付けられているらしく、警備員さん達から続々と報告があり、奴等の実家には多数の苦情が行っているとかいないとか。
元婚約者だったご令嬢方にも絡んだらしく、ご令嬢方の愚痴が止まらない止まらない。
何故かお茶会の席に招待されて聞かされている俺。
元王子殿下の婚約者だった公爵令嬢が、完璧な淑女の笑みで微笑みながら、
「ふふふ。低位貴族の訴えだとしても、あれだけの数があれば、廃嫡した後だとしても、ご実家も何も手を打たずにはおられないでしょうねぇ?」
目が全っっっ然笑ってないですよ!他のご令嬢方も同じように笑ってるけど、全員が目がマジだし!こわっ!奴等の行く末は真っ暗のようです。
はい。奴等の元実家の皆様はとても迅速に問題に対処されたようで、今、目の前で奴等が衛兵に連行されている。
放課後にお使いで中央通りの店に来たら、令嬢に絡んでる奴等を見てしまって、止めるべきか様子を見てたら、衛兵が駆け付けて、速やかに奴等を捕縛してた。
予め通報されてたのか、奴等が抵抗しても対処出来るように周りをぐるりと囲めるくらいの人数がいて、抵抗虚しく連れられていった。
うん。奴等のせいでご実家はかなり評判が落ちてたし、肩身の狭い思いをされてたのに、その上に大量の抗議文が届けば、もう放置は出来ないよね。
今後奴等がどうなるのかは分からないけど、たぶん二度と王都には来られないんじゃないかな?
(好み)が(このみ)とも読めるので、(宜み)の方が良いのでは?とご指摘頂きました。
成る程!そっちの方が意味が通じやすいので、そちらに変換させて頂きました。ありがとうございます!
相変わらず日本語しか話せないし書けないのに、不勉強なせいで沢山の誤字報告を頂いております。
大変助かってます!とても参考になります!今後にいかせるように頑張ります!成果は微々たるものかもしれないけど………頑張ります。
更に訂正。宜みではなく、誼みが正解のようです。すんません!