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「ミック、お前見る目無いな?あんな純真無垢そうな令嬢を見て、食い物にしてとか性悪なんて感想を言うなんて、見損なったぞ!」


 まだ声を荒らげてはいないが、その顔は怒りに染まっている。


「ニア、令嬢以外を冷静に見てみろ。あの令嬢の周囲に居るのは貴族の令息ばかりだ。ただの男爵令嬢が、楽しそうに貴族の令息達と過ごしてるんだぞ?普通の男爵令嬢なら畏縮して固まったり青ざめたりする場面だろう?それなのにあの場の中心はどう見てもあの男爵令嬢だ。子爵令息も伯爵令息も居る場の中心が、だぞ?天真爛漫?平民の子供と同じ様に大口開けて笑うことがか?」


 ニアの目を真っ直ぐに見て言うと、ニアも何かを考える素振りでもう一度男爵令嬢を見る。

 付いてきた友人達も納得したように改めて男爵令嬢とその周囲を見ている。

 最初におっ!とばかりに興味深そうに輝いていた男爵令嬢を見る目が、とても冷静になっている。


「………………ミックの言う通りかも。最初にあの令嬢と仲良くなったのは男爵家の令息だった。そんでその男爵令息の友人、そのまた友人、とどんどん交遊関係が広がっていって、今ではあんな感じで伯爵令息にまで囲まれてる。それって狙ってやってるって事だよな?」


「だろうよ。あの令嬢のテーブルの周りも見てみろ。あぶれた男爵家や子爵家の令息達が恨めしそうに見てるだろ?」


「「「あー」」」


 ニア以外の友人達も納得の声を上げる。


「……………………はーーー、一目惚れだったんだけどなーーー」


 頭をわしわし掻きながらうつむくニア。

 完全に夢から覚めた様子。


「良かったよニア。友人を失くす前に目が覚めてくれて」


 肩を叩いてやれば、


「ええ、ミック俺を捨てる気だったの?!」


 とおどけて見せる。


「そりゃ~変な女に目移りして盲目的になった奴は捨てるだろう?」


 と半分本気を滲ませて言ってやると、


「ひどい!わたしを捨てるのね!」


「そうだ!俺以外に目移りする奴なんて、こっちから捨ててやるのさ!」


 と2本指を立ててポーズを決めてみる。


「「「ブフッ、アハハハハハ!!」」」


 ニア以外の友人達が笑いだし、ニアも笑いだした。その目が微かに潤んでいるのは見なかったことにしてやろう。


 食堂からの帰り道、


「ミックが居て良かったよ。危うく己を見失うところだった」


 とボソッと言われたので、頭をグシャグシャにしてやった。


 友人の初恋を打ち壊しにはしたものの、改めて冷静になって見てみると、確かに性悪だった、と判断できた友人から感謝されたので良しとして、他にもあの令嬢に傾倒仕掛かっていた友人の友人とかにも声を掛けて、正気に戻すなんて事をやっていたある日、呼び出しを食らいました。

 相手は姉ちゃんの義理の妹。


 身内の事を自慢する訳ではないが、俺の婆ちゃんは絶世の美魔女である。

 成人した孫が4人も居るのに、今でもパーティなどにお呼ばれすれば、男性から声を掛けられるくらい年齢不詳の美魔女である。

 寝食忘れるくらい仕事に没頭してた爺ちゃんに一目惚れして、子爵家の三女だった婆ちゃんは家を飛び出し押し掛け女房として爺ちゃんを口説き結婚した。

 親父は見た目厳つい爺ちゃんにそっくりで、そんな親父に一目惚れした母さんも親父を口説き落として結婚。

 そんな母さんも平民にしてはかなりな美女の部類。

 そんな俺達兄弟は全員が婆ちゃんか母さんに似ている。

 婆ちゃんに似た長女は伯爵家の嫡男に求められ嫁入り、母さんに似た次女は子爵家の嫡男に求められ嫁入りしてる。

 曾祖父母はその事を我が事の様に自慢してるけど、曾祖父母の影響は欠片もない。

 敢えて言うなら曾祖母の厳つ目の顔が爺ちゃんにちょっとだけ似てるくらい?


 俺を呼び出したのは長女の旦那の妹。

 嫁と小姑の関係ながら2人の仲は良好で、俺も何度か顔を合わせたり家族ぐるみの食事会等でも話したりはする。

 まあ相手は伯爵令嬢なので、学園内では特に親しくはしていないのだが。


 呼び出されたのは学生なら予約すれば誰でも使える談話室。

 名乗って許しを得て入室すれば、既に居たのは義妹だけでなく4人程の令嬢。

 代表して義妹が、


「お義兄様、呼び出しに応じて下さってありがとう」


「構いませんが、私に何かご用ですか?」


 一応義妹と言っても相手はお貴族様なのでこちらは敬語。


「実は、お義兄様に折り入ってご相談がありまして…………」


 そう言ったきり中々話し出さない義妹。

 こちらから催促するのは失礼に当たるので、出されたお茶を飲んでゆっくりと待つ。

 意を決した様に、


「あの!お義兄様はその、ブレンダ男爵令嬢と親しくされている令息方を説得されて、ブレンダ男爵令嬢の取り巻きから引き離すことに成功されたとか!それはどの様になさったのでしょうか?是非教えてくださいまし!」


 ブレンダ男爵令嬢はニアが一目惚れした性悪な令嬢。

 義妹だけでなく一緒に居る令嬢達も何か必死な顔でこちらを見てる。


「ええと、それ程特別なことはしていないのですが?あの男爵令嬢は、何と言うか、次々に爵位の高い令息方に声を掛けては、それまで付き合いのあった令息をないがしろにしていく事を繰り返していたので、言い方は悪いですが切り捨てられた令息方に現実を見た方が良いのでは?と忠告させて頂いたことはありますね」


「そうなのですね。ですがわたくし達からの言葉にはどなたも耳を傾けて下さらないのです。お義兄様は令息方にどの様に仰ったのですか?」


「ええと、私が直接説得したのは、既にブレンダ男爵令嬢から見向きもされなくなった方々ばかりなので、おそらく本人も何かしらおかしいとの自覚があったのだと思います。そのタイミングで普段から親しくしている友人から言葉を掛けた事で、諦める決断に至ったのだと思います」


「…………………そういったことは異性よりも同性からの言葉の方が耳に届くのでしょうか?」


「そうかもしれませんが、友人であることも関わってくるかも知れませんね」


「そうですか。ご意見を聞かせて頂きありがとうございます」


 納得はしていない顔でお礼を言われた。

 なので貴族令嬢としてギリギリはしたなくない程度の、あざといが男子がクラッとくるテクニックを伝授してみた。

 普段すました顔をしている令嬢達が、自分の前でだけ可愛らしい仕草や顔を見せれば、ギャップにやられる令息は多いと思う。

 普段からあざとさ全開の男爵令嬢よりも、"自分の前でだけ"ってところがポイント!しかもそこには貴族令嬢としての恥じらいが見え隠れすれば、殺られない令息は居ないだろう。


 貴族令息ってのは、身内も含めて取り澄ました女性の顔しか見てないから、あんな明らかに騙す気満々のあざとさにもコロッと転がされてしまう、実はとてもちょろい存在なのだ。

 ニアの件だけでなく、他にも男爵令嬢に傾倒していた令息に聞いた話では、母親や姉妹達でさえ家で素の顔を見せることは滅多に無いらしく、化粧を落とした顔など見たこともないらしい。

 まあそんな育ち方をすれば、男爵令嬢の拙いテクニックにも騙されてしまうのだろうと納得。


 俺の教えたテクニックをその場で練習し出す令嬢達。

 頬を赤く染めて上目使いで全員に見られるとか、それはそれで微妙な気分になるけど、先程までとのギャップは中々のもの。

 後は相手の話を聞いて、すごいわ!素敵だわ!さすが!等と笑顔で褒めてやればコロッといくこと間違いないだろう。

 男爵令嬢と違って教養もマナーも出来ている令嬢達なら、相手の話に合わせてより深い話も出来るだろうし、あの男爵令嬢と違ってやたらと贅沢品をねだるなんて事も無いし、家柄的にも自分の将来的にもどちらが理想的かくらいの判断はつくだろう。

 って話をして解放されました。


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― 新着の感想 ―
1話 >長女と次女は低位貴族に嫁ぎ、長男は商会の仕事に没頭して、次男は騎士団に所属している。 2話 >婆ちゃんに似た長女は伯爵家の嫡男に求められ嫁入り、母さんに似た次女は子爵家の嫡男に求められ嫁入り…
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