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どれだけ騒いでも店主が商品を渡さないのをやっと理解した元第三王子は、不貞腐れたようにその場を離れ、ふらふらと歩き出した。


食べ終わった串をその辺のゴミ箱に捨てて、何となく元第三王子の後を追ってみる。

元第三王子は平民にしてはそれなりに大きな家に入って行った。

中から男女の怒鳴り声が聞こえるのだが、元男爵令嬢とは今も一緒に居るのだろうか?

王命での結婚なので、そう簡単に離婚は出来ないだろうけど、仲が悪いなら結婚したまま別居なりすれば良いのに。

家の中までは見えないのでその場を離れようとしたら、前方から何となく見覚えのあるような顔が近寄ってきた。

誰だったか思い出そうとしてたら、その人物は俺を通り過ぎて先程俺が見てた家に入っていった。

元第三王子か元男爵令嬢の友人とか知り合いだろうか?と見ていたら、今度は俺の居る道とは反対側から、これまた微妙に見た事のあるような顔が。やはり元第三王子と同じ家に入って行った。


え?何なの?これから何かあるの?と疑問一杯に家を観察してたら、複数人の怒鳴り声が。

何なんだろうこの家?と訳が分からず首を傾げてたら、肩を叩かれた。

振り返れば兄ちゃん。


「お前、ここで何やってんの?」


「元第三王子見たから、興味本位で着いてきたら、続々と見たことあるような顔が入ってくから、何なのかな~って思って」


「あー。住んでんだよ奴等全員で」


「何の奴等?」


「女の取り巻き?とか言う奴等」


「あー、自称男爵令嬢の取り巻き。え?全員で?常に侍ってた奴だけで7人くらい居たけど?」


「あー、そんくらい居るな。出入りは激しいけど」


「ここ、大きめとは言え家族向けの家だよね?」


「まあこの辺では大きい方だが、親と子供何人かが住む感じの家だわな」


「そんな家に成人した男が7人と女1人って、なんかむさ苦しいね?」


「だろ?さっさと出ていきゃ良いのに、しつこく居座ってるな。そんで無駄に騒ぎを起こしてる」


「あー、うん。さっき元第三王子が露店で商品を寄越せって騒いでた」


「それ、他の奴等も同じことしてるし、仕事を寄越せとか、仕事に対する報酬が少ないって揉めたり、綺麗な女の子見て妾にしてやるとか言って迫ったり」


「うわー、自分が平民だって自覚無いんだ?家追い出されててよくそんな風にしてられんね?」


「これまでは何もかも世話されてた奴等が、突然平民にされれば、こんなもんだろうよ」


「そんでよく生活出来てんね?」


「この家で唯一まともに働いてんのが女だけ。でその女に寄生してる男共って感じか?仕事も家事も全部女任せだから、しょっちゅう女の怒鳴り声が聞こえてくるがな」


「まあ、高位貴族の令息様ともなれば、まともに自分1人で身支度したこともないし、家事なんて自分がやる事とは夢にも思った事無いだろうしね」


「貴族学園では夜営訓練とかはしないのか?」


「騎士科ではあるらしいけど、それも三年からで、希望者だけって聞いたよ?」


「騎士学園では一年の頃から夜営訓練はあるし、三年にもなれば、魔の森での一ヶ月間戦闘訓練もあるのに」


「昔は貴族学園の騎士科でも、それなりに厳しい訓練があったらしいけど、保護者から怪我したらどう責任を取るんだ?って非難ごうごうだったらしくて、段々と縮小してったそうだよ。ただ、貴族学園出身で騎士団に入団すると、最初物凄く苦労する、って噂はよく聞くよね?」


「あー。だがそれに生き残れば出世は早いな」


「生まれがお貴族様だとその辺あれだよね」


「つっかえない高位貴族の騎士は、名ばかりの役職に就かされるがな」


「名ばかりの役職なんてあるんだ?」


「どこそこの相談役とか、団体の顧問とか?名前は立派だけど、何の権限もなく給料も安く、名誉職って感じの職場だな」


「まあそうするしかないよね?使えないなら」


「下手にそんな奴に権力持たせたら、組織がめちゃくちゃになるし、騎士団として退職者続出とか弱体化したら洒落になんないからな」


「それを掻い潜って、上手いことやる、要領の良い奴とか居ないの?」


「実戦訓練で使えない奴は、即リストにのせられるらしいぞ?」


「怖いリストがあるんだ?」


「噂だけどな」


「うん。じゃあ兄ちゃんがリストにのせられないように、俺はそろそろ帰るよ」


「俺は結構優秀だから、少しくらいサボったってリストにはのらねぇよ!」


頭をぐしゃぐしゃされて兄ちゃんと別れた。

家に帰ったら、兄ちゃん達の嫁候補が半分以上居なくなってた。

婆ちゃんと母さんの顔が怖かったので、理由は聞かなかった。


程々に店の手伝いをして、たまに元第三王子達の様子を観察して、姉ちゃん達に呼び出されてお茶会に参加させられて、と暇そうで意外と慌ただしい休みを終えて新学期。


友人達は出来立ての婚約者と良好な交流が出来たようで、休み前よりも表情が凛々しくなった、かな?

それぞれの婿入り先の領地経営なども学んでいるらしく、忙しそうだし大変そうではあるけどね。


友人達の婚約者は、友人達を通して俺ともそれなりに言葉を交わす仲になると、俺を通して婚約者から贈られるプレゼントの希望をさりげなく誘導することを覚えた。

我が家の商会で買い物をしてくれるので、文句は無いのだが、それぞれの好みと流行を押さえるのは結構難しい。

その辺は婆ちゃんと母さんに丸投げなので、令嬢は好みの物を手に入れられるし、友人達はプレゼントを外す心配をしなくて良いと、全員が喜んでいるので問題は無いのだが、友人ではない、それ程親しくないクラスメイトからも何かと相談されるのはどうしたら良いものか?

姉ちゃん達に相談したら、呆気なく令嬢方の好みを教えられて、婆ちゃん達に丸投げしたら、あっさりと解決したけど。

親しくないクラスメイトの令息達には、困った時は婆ちゃんか母さんに相談するように言っといたし。


そんな事をしていたら、噂になったのか、義妹を巻き込んで他クラスの令嬢方にまで相談されてしまった。

何でも、令息の趣味で贈られるプレゼントが、悉く令嬢の趣味には合わないのだとか。

相手の方が身分が高いので、文句を言う訳にもいかず、困っているのだとか。


詳しく聞いてみたら、単に好みじゃない令嬢と、婚約者の令息の趣味が独特な方とで結構分かれるとのことで、それって俺にどうしろと?とは思ったものの、そこで活躍するのがあざといマニュアル。

既に持っているらしいご令嬢方に、上手に物をねだる方法を改めて伝授。

ただ、感性が独特な方々は、一応おねだりは試してみるものの、それでも改善されないようなら、どうにもしようが無いので、受け取るだけ受け取って、身に着けない事で好みではない、と遠回しに訴えるしか手がない。もしくは好みではない事をはっきりと訴えてみる。との事。

まあ、好みが合わない人と、無理矢理結婚してもその後が不満が溜まるだけだからね。

今は婚約破棄もわりと多いので、それ程問題にはならないだろう。


三学年夏休み明けからの授業は、基本的な座学以外は、社交のための授業が大半となる。

令嬢方はマナー、ダンス、優雅な話術等々。

令息の方は、優雅なエスコートの仕方、ダンス、食事の作法、緊急時の対応の仕方等を学ぶ。


その他にも絵画や音楽等の芸術方面の授業も増えるし、ちょっと俺には縁遠い科目が多くなるんだけど、学んどいて損は無いとの姉ちゃん達や婆ちゃんや母さんのアドバイスに従い、真面目に授業を受けている。


ただ、思春期の青少年なので、令嬢方とダンスを踊るのは照れ臭いし、エスコートは相手によって好ましいやり方が微妙に違うし、食事の作法は面倒なばかり。

良い品を見分けるのは得意でも、音楽や絵画の良し悪しはいまいちピンとこない。

そう友人達に愚痴ったら、皆似たようなものだったけど、俺の苦手分野を知ってニヤニヤされた。


あと緊急時の対応ってのは、夜会などで突然暴漢が乱入してきたり、暗殺者が現れたりした時の対応なんだとか。

どんな危ないことを想定してるんだか?え?酔っぱらいが暴れたりする?そんな事あるんだ?

友人達から幾つかエピソードを聞き、ちょっと真剣に護身術を習おうかと考えた。


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― 新着の感想 ―
ミックたん護身術習ってなかったの!? 世の中美しい顔の子には必須よ!? そして、男爵令嬢もどきは何故逃げない!? 絶対逃げた方がいいと思う!! どうせ性格悪いなら逃げたらいいの!! 私絶対笑っちゃうよ…
うん、やっぱり平民の顔なんか覚えないタイプの人たちでしたね。
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