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一部を除いて賑やかに和やかに終わった卒業パーティー。
友人達とほろ酔いの良い気分で会場を出ると、会場外の廊下には4人の騎士が待機してた。
先程の国王陛下ご一行様に随行してた近衛騎士ではなく、普段王都の街中でよく見る治安部隊の騎士。
その中によく知る顔を見つけたので話しかけてみる。
「リック兄ちゃん、ここで何やってんの?学園内は管轄じゃないよな?」
リック兄ちゃんは次男で騎士団で働いている。
「ミック、お前酔ってんの?」
「まあちょっとは?国王様の差し入れで、滅多に飲めないような高級ワインが振る舞われれば、そりゃ飲むだろ!」
自慢気に言ってやれば、
「くっそ!俺らはここで待機なのに、ろくに味も分からん若造に高級ワインだと?勿体無い!俺にも飲ませろ!」
リック兄ちゃんの同僚の3人も深く頷いてる。
それにへら~っと笑って、
「で?何でリック兄ちゃんがここで待機してんの?」
もう一度聞いてみれば、苦いものを飲み込んだような顔で、
「あれだ。元王子?の護送」
「ごそう?」
「平民になったんだろ?そんで元王子と男爵家の庶子?を平民街の家まで連れてって荷物共々置いてくるのが俺らの仕事」
「あー、それはご苦労様です。で、元王子達の家ってどの辺?」
「職人通りの端の方」
「なら良かった!うちからは距離があんね!」
「まあ、うちからはな」
浮かない顔のリック兄ちゃんを見て、
「あー、もしかして暫くの間は監視しろとか言われてる?」
「まあな」
「問題行動起こしそうだしね~」
「すげぇぞ王族。忖度も遠慮もせずに一平民として扱っていいとお許しがあった上に、それを書面でも用意されてて、完全に元第三王子を切りにいってる。上映会もチラッと見たが、学園も噛んでるな?」
「あー。そりゃそうだよね。学園の許しがなきゃ、あんな濡れ場映像公開出来ないもんね。あれかな?見せしめとか戒めとして、王族でもその行いが相応しくなければ、容赦無く切り捨てるぞ!的な?どうにも公爵令嬢様のやり方とは思えなかったんだよね~。爺ちゃんの話では、公爵家への慰謝料が莫大な額だって噂だからね」
「そりゃそうだろ?あれだけ大量で明確な証拠を握られてちゃ、下手に揉み消すことも出来やしねぇ。王家にとったらとんだ赤っ恥だ。ま、辛うじて王家の方が先に決定的な証拠を押さえて、王弟殿下との婚約って事で手を打てたんだろうがな」
「万が一にも公爵家から証拠付きで申し出られたら、王家は面目丸潰れだもんね~」
リック兄ちゃんに頭をガスガス撫でられた。ま、俺が提出した証拠映像が大きかったってことだけどね!勿論、俺以外にも目撃しちゃった人は多いだろうし、そのせいで学内の風紀も乱れてきてたし、ここで一つショック療法とか、警告とかの意味でも、あんな濡れ場大公開になったのかもね?
友人達が興味本位で護送される元第三王子達を見たいと言うので、その場に留まりリック兄ちゃん達と話してると、大騒ぎしながら会場から出てくる一団。
相当酔っぱらっているのか足元が覚束ない。
そんな元第三王子をリック兄ちゃん達が囲み、元第三王子と実は男爵家の庶子だった女を両脇から腕を掴み連行する。
「きしゃまらぁ!わらしは王子だぞ!ぶれいらろ!今すぐクビにしてやる!さわるなぁ!」
「わたしわぁ!王子に愛されてるのよ!こんにゃことして、ただじゃおかないんだからぁ!」
呂律の回らない言葉で抵抗しているが、兄ちゃん達は無言のまま、引きずるように連れ去っていった。
残された取り巻き達は一気に酔いがさめたのか、顔を真っ青にしてどこかへと去っていった。
騒がしい一団が去って行くのを、カツカツカツと音高くヒールの音を響かせて現れた公爵令嬢とそのご友人の方々が、皆様扇で口元を隠しうふふおほほとお淑やかに、微笑みながら軽やかな足取りで俺達の前を通りすぎていく。
目が!全く笑ってないけどな!茶番に巻き込まれて実は怒り心頭?
正直怖い!何て言うか、雰囲気がめちゃめちゃ怖い!
友人達も同じく感じたのか、肩や背を震わせて、両腕を擦ったりしてる。
気持ち良く楽しく過ごせたパーティーの終わりに、こんな恐怖体験をするとは思わなかった!
◆◇◆
卒業パーティーが終われば、在校生は春休みとなる。
俺はまた爺ちゃんに付いて買い出しの旅に。
父ちゃんや兄ちゃんも手伝って欲しそうだったけど、こき使われるのが分かりきっているので、爺ちゃんに付いてさっさと家を出てきた。
今回爺ちゃんが買い付けに行くのは、隣国から出港してそれ程離れてない島国。
小さな国で、これと言った特産も無いあまり裕福ではない国。
島国特有の閉鎖的なお国柄らしいけど、爺ちゃんは長年通い詰め、少しずつ少しずつ取り引きを増やし、今では多少の無理を聞いてくれるくらい順調に商売出来るようになった。
島国は海流の影響や岩礁に囲まれている立地のせいなのか、大型の船が寄港出来る港を作れず、小型船でしか行き来出来ない点も、隣国からしてみれば攻める旨味を感じられないらしく、貧しいとは言え一国として成り立っている。
国土の多くは山林で、国民の数も少なく、耕作地も狭く、その多くは漁師として働き、我が国よりも北にあるため冬は厳しい。
そんな国に、爺ちゃんが持ち込んだのは、暖かくて丈夫な布地。
肌触りは悪いものの、一枚羽織るだけで海風も冬の厳しい寒さも凌げると言うのは大変重宝されて、何度洗ってもへたれない丈夫さも好評で、欲しがる人が続出。
だけどその代金を支払える人は少なく、不満も募っていた。
そんな中、何とか取り引き出来ないものかと島にある物を次々売り込みに来る島民達が持ち寄った中にあったのが、透ける程薄い絹織物。
それに目を付けた爺ちゃん。
島国では、透ける程薄い絹織物などは、何枚重ねても寒さを凌げず、役に立たない物として趣味で機織りする人の間でちょっとだけ作られていた物で、まさかこんな役に立たない物が売れるとは思ってもいなかったらしく、大層驚かれたのだとか。
爺ちゃん的に適正価格と思われる厚布二反と絹織物一反を交換したところ、島民達は仰天して拝む勢いで爺ちゃんに感謝したのだとか。
まあ、かさばる厚布一反と絹織物一反ではその重量や見た目の量が10倍くらい違うからね。
爺ちゃんは正直に、この絹織物なら倍以上の価値があるのだと説明したらしいが、島民達はそんな事はない!これは価値の有るものだ!と聞かずに、厚布二反と絹織物一反での取り引きが成立してしまったらしい。
島国は、冬になると海が時化て漁に出られないので、男衆は樵として、女衆は家で出来る仕事を、となるが、そこに機織りと言う仕事が加わり、得意な女性は旦那よりも稼げるとなれば、女衆も張り切ると言うもの。
厚布も女衆の奮闘で家族分確保出来れば、今度は島では手に入らない物が欲しくなる。
爺ちゃんは抜かり無く、保存の利く穀物を持ち込み、絹織物と交換。と、絹織物の在庫もしっかり確保して、卒業パーティー用にドレスを仕立て、レンタル業を始めた。
そこに透ける程薄い絹織物で作ったショールや、シンプルなドレスにビーズで飾り付けした重ねられる用のスカートを作ったり。
布地の美しさだけでも好評だったが、これから春夏に向けてのドレスに使えば軽やかで涼しげに見えること間違いなし。
その宣伝の場として、卒業パーティーでのお披露目を密かに企んでた。
まあ、ドレスに重ねるとか、ショールとかは婆ちゃんと母さんのアイデアだけど。
姉ちゃん達もいち早く取り入れてドレスを作ってるけど。
そんな絹織物の買い付けに向かってる。
島国特有の閉鎖的なお国柄ってのに多少緊張するけど、爺ちゃん居るし。
船での旅は初めてだけど、それ程遠く離れてるわけでもなく、半日で着く距離だそうだし、新しい場所ってのはワクワクするし、楽しみでしかない。
あーーーーーー。ドキドキわくわくしながら船に乗り、船酔いにやられてオロロロロとなり、よれよれで島国に到着したら、爺ちゃんの孫って事で手厚い介護を受け、島民の人達との商売を眺め、珍しい外国人に子供達がわらわら寄ってきたので遊んでた。
うん。そこまではとても楽しかった。子供達が屈託無く笑い転げる様子は、普段貴族学園で取り澄ました顔ばかり見ている身としては凄く癒されたし。
楽しかった、のになーーーーー!
またもや顔の事で絡まれました。
慣れてはいるよ?婆ちゃん似の美人顔な自覚も嫌と言う程ある。
だけどさ!慣れてるからって面倒じゃないって事ではない!
爺ちゃんはごつめの男らしい見た目で、俺が爺ちゃんに似たのは群青色の目だけ。
爺ちゃんも絶世の美女と評判だった婆ちゃんを嫁にしたくらいだから、この手のトラブルは慣れてる。
でもね、無下に断れない相手からの求婚とか、迷惑でしかないんですけどーーーーー!
と、言うことで、俺と爺ちゃんは今、島国の王宮に来てる。
島国島国言ってたけど、この国は正式名キャメル諸島国群に所属するイストーナツ国と言う。
複数ある島国が協力しあって共生していて、他にも小さな独立してる国を名乗る島がある。
この協力しあってる幾つもの島国を、総称でキャメル諸島国群と言う。
爺ちゃんが取り引きしてるのはイストーナツ国だけだけど。
他の島国にはまだ何の伝も無いので、行ったこともないそうだ。
で、俺が見初められた?目を付けられたのが、イストーナツ国のお姫様。
独身。見た目30代。
島国の生活は過酷なので、お姫様とは言え肌は浅黒く荒れ、髪は潮焼けでチリチリしてる。
普段手入れされ過ぎてツヤツヤどころか若干テラテラ滑ったように光ってる髪を見慣れてるので、お姫様、ってのが信じられない素朴な容姿。
そんなお姫様が今も目の前に座って、よだれを溢さんばかりに俺をなめ回すように見てる。
帰りたい!切実に!
爺ちゃんよりは少し若そうな国王様が、お姫様の行動に驚いて固まってる。
この島国は人口も少ないので、その分身分の差があまり無く、国王様だろうがお姫様だろうが、繁忙期には畑仕事を手伝ったり、子守りを引き受けたりと、考えられない程気さくなのだが、それは良いことなのかもしれないが、俺が子供達と遊んでたら、普通に歩いてきたお姫様が、俺の顔を見るなり、ガッと腕を掴み引きずられる勢いで引っ張られ、慌てて爺ちゃんも止めようとしてくれたが敵わず、到着したのが国王様の執務室。
執務室のドアをバーーンと叩き開け、
「お父様!わたくしこの者と結婚するわ!」
と宣言した。
室内にいた国王様も執事さんも、誰かは分からないがおじさんも、勿論俺と爺ちゃんもいきなりの事でポカーンとした。
ドスドス執務室内を歩き、俺と爺ちゃんを応接用だろうソファに座らせると、
「ムジカ、結婚の書類を!」
と執事さんに手を出すお姫様。
それに慌てて立ち上がり、
「なんなのだいきなり?!結婚?その者達は誰だ?」
お姫様の隣に座ってこちらを睨む国王様。
「わたくしの夫となる者と、その父親ですわ!」
お姫様勝手にぐいぐい進めようとしてる。やめて!
無言のままの国王様が睨むばかりでお姫様の言葉に何の反応もしないので、取りあえず自己紹介からかな?
では改めて。
爺ちゃんと俺はソファから立ち上がり、我が国での平民が国王様の前でする正式な礼の姿勢を執る。
両膝を付いて、頭を下げ、下向きにした掌を重ね頭の上まで上げる。
まず爺ちゃんが、
「イストーナツ国国王陛下、お初にお目にかかります。私はグレンナール王国から参りましたブレオ商会会長、ブレオと申します。イストーナツ国には薄絹の取り引きの為に参りました。姫殿下の仰ることは、私共も突然の事で理解出来ておりません」
続いて俺が。
「イストーナツ国国王陛下、お目にかかれて大変光栄に存じます。グレンナール王国、ブレオ商会会長の孫、ミックと申します」
敢えてお姫様の事には触れない。
「ミックと言うのね!可愛い!」
とかお姫様が叫んでるけど触れない!
俺達の言葉を聞いて、お姫様の様子を見て、国王様ははぁーーーーと深い深いため息を吐いた後に、
「ああ、分かった。まずは着席を許す。座って話をしようじゃないか」
と言ってくれたので、もう一度深く頭を下げてからソファに浅く座る。
うっとりと俺を見てるお姫様の視線は無視無視。




