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気分良く公爵令嬢の罪とやらを語る第三王子殿下とその取り巻き。
内容はお粗末なもので、無視した、文句を言われた、すれ違いざまに突き飛ばされた、お揃いのブローチを自分も欲しかったのにくれなかった、酷い噂を広められた等々。
それが高位貴族のご令嬢の罪だと宣う第三王子殿下。
終わってる。完全に。
「追って沙汰を下すが、逃げられると思うなよ!」
公爵令嬢もそのご友人の方々も呆れて声も出ない。
全員が1ヵ所に集まって扇で顔を隠し無言で壇上を見てる。
そんなご令嬢方を見て、この時とばかりに第三王子殿下により密着した男爵令嬢が、ご令嬢方を指差して、
「ほらぁ!ああやっていっつもわたしをのけ者にしてわたしの悪口言ってるんですぅ!現行犯ですよ!この場で断罪しちゃいましょう!」
ぐいぐいと第三王子殿下に胸を押し付けて唆す男爵令嬢。
第三王子殿下達が卒業してしまう前に、令嬢達を退場させようとでも企んでいるのか?
第三王子殿下は、鼻の下が伸びてだらしない顔に。完全に肉欲に溺れてる。
会場内はシーーーンと誰も何も言わないが、これ、どう始末付けるのかね?
壇上でイチャイチャする声以外聞こえない会場内に、やけに大きくガチャリと扉の開く音がした。
両開きの扉を開けたのは煌びやかな鎧を着た騎士。
王都に住む住民なら誰もが一度は見たことのある近衛騎士様。
近衛騎士様が大きく開いた扉から現れたのは、卒業パーティーには出席予定のなかった国王陛下と王太子殿下。
「父上、兄上?」
第三王子殿下が驚いたように声をあげるのを余所に、会場内に居た者が一斉に礼の姿勢を執る。
パーティー中は平民でも立礼が許されるので、平民用の立礼、掌を下向きに両手を重ね下げた頭の上まで上げる。
友人達は貴族なので、片手を胸に、もう片手を真っ直ぐ下に体に密着させて頭を下げる。
身分に依って頭を下げる角度が違うので、一見バラバラに見える礼だが、壇上の人達以外は全員頭を下げてる。
それに、
「皆、頭を上げてくれ。折角の卒業パーティーを邪魔して悪いな。身内の不始末を片付けたらすぐに去るので少し時間をくれ」
そう言ったのは王太子殿下。
「兄上?」
状況を呑み込めない第三王子殿下が心底不思議そうに王太子殿下を呆然と見てる。
王太子殿下は、第三王子殿下に密着してる男爵令嬢を不快そうに見てから、
「会場の外にまでお前の声は聞こえていた。だがお前の述べた事は何一つ事実ではない。こちらにはお前とその友人達の不貞の証拠が多数ある。今更言い訳は聞かぬ。お前の起こした騒動は、王家の顔に泥を塗る行為である。このような公の場でまたも騒動を起こすとは呆れるばかり。よって異例ではあるが、この場で沙汰を言い渡す!」
王太子殿下が頭を軽く下げ、国王陛下に場を譲ると、
「第三王子マローイは王族として相応しくない行為の数々の責任を取らせ、今この場で王族籍から除名し、平民とする。当然婚約はマローイ有責で破棄し、城にあるマローイの私物は全て売却し、婚約者だったマーシャル公爵令嬢への慰謝料の一部とする。今後はこちらで用意した平民用の住宅で、そこな男爵家の庶子と暮らすがいい」
朗々と響く声に、理解が追い付かないのか、
「え?は?………じょめい?婚約はき?平民?わたしが?………………しょし?」
混乱して単語を呟くのみ。
「ああそうだ。男爵家庶子の愛人の諸君も、それぞれの家から処分を言い渡されるだろう。学生としてだけでなく、貴族として参加できる最後のパーティーを精々楽しみたまえ!」
何故か無駄に爽やかに王太子殿下が取り巻きの人達をまとめて切って捨てた。
そして最後にパーティーに参加している生徒達に向けて、
「邪魔をした。詫びにワインを差し入れたから、パーティーを楽しんでくれ」
そう、言いたいことを言い終えた国王陛下ご一行様は、もう用は無いとばかりに速やかに会場を出ていかれた。
国王陛下ご一行様方の姿が見えなくなるのと入れ違いに、盆にのせたワインを持った給仕の人達が会場に入ってきて、生徒一人一人に配り始めた。
全員に行き渡ったのを確認して、壇上、邪魔者達の居る中央を避けた端の方で、新生徒会長が、
「では改めて!卒業おめでとうございます!」
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」
呆然としてる壇上中央の人達を無視して、全員が何事もなく唱和してパーティーが始まった。
和気藹々とパーティーを楽しむ皆。卒業生は在学中の愉快な思い出を語り合い、これから別々の道に進む事への不安や期待を語り合い、別れを寂しがって涙する方々も居たり。
そんな先輩方を見て、自分達にもいずれ訪れる時を思って、友人達との親睦を深めようとしたり。
そんなちょっと切なく楽しいパーティー。
なのだが、理解が追い付かず混乱して、責任の擦り付けあいをして、自分達の今後に絶望して叫んでる壇上の人達が、責任の原因を公爵令嬢へと定め、責める為に大声を出した。
「全てはお前の企みなのだろう!第三王子である私が平民になるなどあり得ない!お前が!父上や兄上に有りもしない罪を訴えたのだろう!今すぐに取り消せ!そして我々全員に謝罪と慰謝料を払え!」
国王陛下の決定により、既に平民になってしまった元第三王子が、公爵家のご令嬢相手に叫んでる。
この場で不敬罪に問われ首を切られても文句を言えない事態。
その現実に会場は静まり返り、慄いてふらつく令嬢多数。
それに引き換えこんな時でも冷静さを失わない公爵令嬢は、扇で口許を隠したまま、何やら指示を出している。
それを受けて複数の侍従らしき人達が素早く動き、何やらセッティングして、恭しく公爵令嬢に何かを渡している。
「理解も自覚も無いようなので、貴方達の罪を実際に見せてさしあげますわ」
カチッと公爵令嬢の手元で音がなると、カタカタと小さな音の後に、壇上から大音量で、
『あああ~~ん!もっと~!』
と、あられもない声が聞こえてきた。
壇上、元第三王子達の後ろの、普段は緞帳で隠されている壁があらわになり、その白い壁に魔道具の映像が大映しにされている。
大映しにされた映像のすぐ横に上に下に、次々と同じような映像が増えていく。
うるさいからか聞くに耐えないからか音声は切られたものの、全ての映像が似たような濡れ場。
絡み合う男は全て違うのに、女は一人。言わずと知れた男爵令嬢。
半裸で、局部だけ出して、全裸でと様々だが、背景は学園生なら当然知ってる場所ばかり。
この映像は俺が王家に献上したもの。それだけじゃなく、誰か別に映像を記録した人も居るらしく、俺でも初見の映像が多数。
どれだけ盛ってんだか?頭ん中性欲だけしか詰まってないのか?
今この場で公爵令嬢が公開していると言うことは、王家も公認であるのだろう。
複数の男との肉体関係を公表されてしまい、
「いやーーーーーー!!止めて止めて!こんなの嘘よ!わたしを陥れる作戦でしょう!」
とか叫んで体を張って映像を止めようとしてるけど、また別の映像に切り替わっていく。
高位のご令嬢相手に勝ち誇った顔で令息に密着する姿、複数のご令嬢相手に腰に手を当ててふんぞり返る姿、複数の令息に泣きながらすがり付いているのに、涙が一滴も溢れておらず、ご令嬢方をほくそ笑んで見下してる姿。
音声は無いのに、どんな場面かは見れば明らか。
この映像はご令嬢方が魔道具で集めたもの。
濡れ場の映像など見たこともない令嬢方が気絶したり顔を覆って座り込んだり、隠した手の隙間からガン見してたり。
令息達は興味津々にガン見したり、呆れたり、股間をおさえてどこかへ駆け出したり。
大混乱の会場の中、空気を切り裂くようなリンとした声で、
「ご自分の目で見て理解されたかしら?貴方達は婚約者が居るにも拘わらず、不貞行為を繰り返し、婚約者であるわたくし達を侮辱し続けた。貴方達の軽率な行動のせいで貴方達の家は多額の慰謝料を支払うこととなり、婚姻で結ばれる筈だった家同士の関係は破綻した。見て分かるように学園内での不純な行為の数々のせいで、学園内の風紀を著しく乱した。当然学園は退学。貴族学園を卒業出来なかった貴方達に貴族、ましてや王族であり続ける資格は無いわ。家に恥をかかせただけでなく損害を与えた貴方達を、ただ平民に落とすだけなんて、愛情深いご家族ですわね?心から感謝して平民として生きていかれたらいいわ。王太子殿下の仰られたように、貴族最後の時間を精々楽しみなさい」
元第三王子だけでなく、男爵令嬢の取り巻きだった高位貴族の令息達も全員が平民に落とされる事は決定済みらしい。
そりゃそうだ。壇上の7人だけでなく他にも映像に映ってる令息はまだ複数居る。
低位貴族の令息達の居る辺り、まだ全員の処分が決まってる訳ではないようだけど。
ニアが無言で後ろから抱き付いてくる。
「ほんっっっっっと助かった!俺が今ここに居られるのは、ミックのお陰だ!」
小声で訴える声は震えてる。ちょっと泣いてるかもしれない。
それが恐怖からくるものか、安堵してのものかは分からないが、ガスガスと乱暴に頭を撫でてやると、グリグリと肩に顔を押し付けてくる。
「おいこら、鼻水付けたらぶっ飛ばすからな!」
「鼻水なんか出てねーし!」
涙声の返答に友人達も笑いながらニアをからかい、滅多に飲めない高級ワインをがぶ飲みして、卒業パーティーは終了した。




