3-3.軍事用語
この作品は、タイトルに執筆裏話とあるように、全37話で完結しているアクション小説「ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ」の設定集になります。本編を読まれていない方は、先ずはそちらへ。単行本一冊程度なのでサクサク読めると思います。
【銃弾の威力や効果】
歩兵が使う銃器を大まかに分類すると、主力武器の小銃と、予備武器の拳銃に分けられる。日常生活において、治安を守る警官が持つ装備が拳銃なのは、平服に対しては、最も弱い22口径弾(小指くらいの細さ)でも致命傷を与えることが可能な為である。実際、安倍元首相の命を奪った手製ショットガンが放った六粒弾の一粒の威力は22口径弾相当だった。
ただし、銃弾というのは22口径弾でも命中部位によっては致命傷となるのと同様、より威力の大きい45口径弾や9mm弾を十発近く撃ち込まれても大怪我で済んだという事例もあるように、拳銃弾で確実に即死させるのは難しいのが現実である。なのでアメリカでは、警官は相手が止まるまで射撃し続けるのが基本だ。
似たような威力の45口径弾と9mm弾とどちらが威力が上か、ストッピングパワー(相手を止める効果)はどちらが上かなどがよく論争されるが、一発撃って止まらないなら、弾倉が空になるまで撃って、それでも止まらないなら弾倉を交換して更に全部撃てばいい、という訳だ。
さて、ちょっと話が逸れたので戻すと、拳銃は戦場においては予備武器扱いに過ぎない。ゲームでは何故か小銃より威力が大きい、或いは敵を倒しやすいといったことになってる場合もあるが、以下の表にあるように、拳銃弾のエネルギー量は小銃の3割程度、射程距離も至近距離以外では使い物にならず、ヘルメットやボディアーマーを装備した兵士や車両には殆ど効果がない。
勿論、拳銃弾であっても、ヘルメットやボディアーマーがカバーしてない部位に命中すれば殺害も可能ではある。しかし、そんな狭い部位を戦場の混乱の中、狙って当てるというのは、創作作品の中だけの話と思った方がいい。
小銃について話題を移すと、小銃と言った場合、大まかに分類すると、5.56㎜弾を用いるアサルトライフル、7.62㎜弾を使うバトルライフル、12.7㎜弾を使う対物ライフルに分けられる。ゲームなら威力の大きな銃がいいところだが、人間は5.56㎜弾で十分殺せるので、軽くて沢山弾が持てて、反動も制御でき連射も可能な5.56㎜弾を使うアサルトライフルが現在は主力だ。
では、7.62㎜弾を使うバトルライフルはどこで使うかと言えば、射程距離の長さを活かしたり、ボディアーマーを着ている敵兵を倒すのに使うといったように、限定された用途で使うことになる。7.62㎜弾を防ぐボディアーマーの配備が始まってるのは米軍だけなので、威力と弾数のバランスの良さで言えば5.56㎜弾だが、5.56㎜弾では非力だ、射程が足りない、風で弾道が安定しない、なんて時には7.62㎜弾の出番だ。連射すると反動で欧米人の立派な体格でもコントロールしきれないので、単射が基本である。
なら、12.7㎜弾はと言えば、単射が限界、撃った時に土煙を巻き起こす、銃声がバカでかいなど、更に使い勝手が悪い。しかも銃自体も10kgを超える重さであり、じっくり構えて撃つしかないので、遠距離狙撃であるとか、旅客機のコックピットのガラス、鳥の激突にも耐える頑丈なソレ越しにハイジャック犯を撃つ、などという時にこいつの出番になる。
なお、車両相手となると、相手が非装甲車両なら小銃でも効果はあるが、一般的な軍用車両、戦場で使う装甲車両となると、小銃弾を防げるのは前提となってくるので要注意だ。小銃は人間と戦う時の武器なのである。
<補足>
拳銃弾で非装甲車両を撃っても効果は無いが、乗ってる人間を狙うなら話は別である。自動車なら、エンジンやホイールといった厚みのある金属部分以外に防弾効果は無く、バスバス貫通するので、創作作品のように、ガラス越しに運転者を狙うのはアリだろう。
【陣地と機銃掃射】
歩兵にとって重機関銃を備え付けた陣地というのは、かなり手強い存在だ。土嚢やコンクリートで作られた陣地は小銃弾を完全に防ぐし、12.7㎜弾を間断なく撃ってエリアごと薙ぎ払う掃射の前には、歩兵は無力である。重機関銃を撃つ射手も体の一部が見えているに過ぎないので、倒すのは至難だ。
そして、陣地というのは複数が連携することで更に手強い存在へと変わる。図の蒼い円弧は、重機関銃の掃射範囲を意味し、互いの掃射範囲を重ねることで、敵兵への攻撃と、敵兵の接近を防ぐ攻防一体の効果が得られるのである。図のように前方と側面から機銃掃射を受ける歩兵など、何人いても屍の山を築くだけだ。
歩兵の主力武器である小銃より、重機関銃は、射程も威力も連射速度も命中精度も全てが勝っており、加えて陣地の護りは小銃に対してはほぼ鉄壁なのだ。歩兵が対物ライフル(12.7㎜弾)を持ってたとしても、こっちが一発撃つ間に相手が数百発撃ってくる状況で勝負になるとは思わない方がいい。
では、それでも歩兵で陣地を何とか攻略したいならどうすればいいか。グレネード弾を放り込むとか、対戦車ロケットを撃ち込むとか、対戦車ミサイルを叩き込むとか、25mm機関砲を装備してる歩兵戦闘車に攻撃を打診するとか、より大きな大砲を持つ戦車に砲撃を頼むとか、座標を伝えて自走砲の榴弾を撃ち込んで貰う、といったことになる。
<補足1>
狙撃兵に射手を倒して貰う、というのも良いアイデアに思えるかもしれない。しかし、重機関銃の射程は狙撃銃並みかそれ以上に長く、更に当たるまで連射できるので、狙撃を外せば、狙撃兵のところに向けて、雨霰と重機関銃の12.7㎜弾が降り注ぐことになるだろう。普通、陣地には複数人いるので、代わりの人が射手になって反撃してくることにもなる。なので実はあまり良い案ではなかったりする。
<補足2>
歩兵が持ち歩けて連射もできる5.56㎜軽機関銃MINIMIを持っていたら、それで何とかしたいと思うかもしれない。映画とかでばばばばーん、と両手で構えて乱射しているアレだ。なんか強そうである。
しかし、歩兵の側に銃撃を防ぐ陣地はなく、歩兵が持ち歩く軽機関銃の弾など一弾帯50発といったところで、しかも撃つのはアサルトライフルと同じ5.56㎜弾、つまり陣地に防がれてしまう。なので、相手を驚かせる効果はあるし、連射してる間、相手の首を引っ込ませるくらいはできそうだが、持ち歩いてる弾数などすぐ撃ち切ってしまう。となれば、待っているのは重機関銃からの終わることのない掃射である。軽機関銃は連射もできる持ち歩き可能な銃器、重機関銃は連射が基本の据え置きの銃器で、しかも撃つ弾の威力は、こっちは殆ど防がれる、あっちは一撃必殺なのだ。分の悪過ぎる賭けである。
【土嚢】
米袋のように土をぎっちり積めた袋で、持ち運ぶ時は袋だけでよく、土はどこにでもあり、シャベルで土を詰めれば、積み上げるのも楽、水捌けもよく崩れる心配もなし、となかなかの万能選手である。
ビル屋上に合計何トンにもなる土嚢を運び込んだりすれば、陣地構築前に通報がきて、お縄となるところだろう。いきなり敵が配置される夢幻戦闘領域ならではの理不尽な話である。
なお、土嚢、つまり詰めた土はコンクリートのように割れたりせず、独特の抵抗力を生むので、実は銃撃にも強い。なんと、しっかり詰めた厚さのある土嚢なら、12.7㎜弾にも耐えるのだ。
こんなので守られて殆ど姿が見えない重機関銃手を相手に、小銃と手榴弾だけで攻めろ、というのは、死ね、と言われるようなモノだ。
【友軍誤射】
放たれた銃弾やエネルギー弾、爆弾は、夢幻戦闘領域においても敵味方の区別なくダメージを与えることになる。同領域に出てくる敵は、いきなりこの世界に出現したり、リロードすると弾がいくらでも出てくるといった非常識さはあるものの、撃った弾は誰にだって当たるし、どういう手段であれダメージを与えれば敵は倒せるのだ。テクニカルくらいなら、大型SUV当たりで体当たりすれば一台くらいなら倒せるかもしれない。
【十字砲火】
射線を交差させるように、二方向から機銃掃射すること。どちらか一方に向けば、もう一方から側面射撃を食らうことになるので回避が極めて難しい。人は二方向には同時対応できないのと、側面攻撃には弱いのだ。地上同士の打ち合いが基本だが、本作でも行われていたように地上と空の二方向からでも、同じ恩恵は得られる。そもそも人は頭上からの攻撃に弱く、正面の敵と対峙しつつ、空から降ってくる爆弾にも気を配る、なんて真似はできないのだ。空からの攻撃を少しでも弱めようと空に向けて牽制射撃をする、なんて手はあるが、そんな風に手数を空に割けば、地上の敵への攻撃がその分弱くなってしまうというモノである。
【戦力の逐次投入、予備兵力、波状攻撃】
敵を倒しに行って戦力不足で倒せず、予定外の援軍を送る、のが戦力の逐次投入。基本的にはやってはいけない失策であり、戦力は可能な限り一度に投入して数を活かして敵を倒すものである。もっとも、戦場には常に情報不足という霧が立ち込めており、不測の事態に備えて予備兵力を備えておきたいのも事実ではある。
ただ、念の為、予備兵力を備えて、不測の事態で味方の劣勢を助ける為に援軍に向かわせるのは、逐次投入とは言わない。
また、ある程度の戦力を一度にぶつけるのではなく、入れ替わり立ち代わり突撃させる波状攻撃も、逐次投入とは違う。例えば、沖縄特攻作戦(坊ノ岬沖海戦)を行った戦艦大和を含む艦隊に対して、米機動部隊が合計三波に及ぶ波状攻撃を行ったが、これは狭い空域に集中できる航空機の数には限度があること、空母からは順次発艦しなければならず、順次着艦しなければならない制限もある。だから、効果的に戦える一定数の攻撃隊が攻撃を行う=爆弾、魚雷を使い終わると、次の攻撃隊にチェンジし自分達は帰投する、という流れになる訳だ。
それと、本編の戦乙女に対して空飛ぶファンファン部隊と地上を歩くテクニカル部隊の襲撃タイミングが十秒程度ズレたことを指して、戦力の逐次投入というのは可哀そうだろう。これが相手が運命なら、十秒程度ではファンファン達を倒しきれず、周囲のファンファン達からエネルギー弾が襲い掛かり、そちらに注意が割かれている間に地上からテクニカル部隊が射撃を開始し、避けきれず墜とされていただろうから。
【死重量】
搭載してても使わない装備なんてのは、持ってる分だけ機動が鈍り、移動速度が低下して良い事が何もない。そんな活用できない=死んでいる重量、という意味である。使いもしないゴルフバッグを自動車の後部荷室に入れておくのは、燃費が悪くなるし、高温に晒されればゴルフクラブも劣化する、と良い事がないことのようなモノだ。
航空機の場合、重量制限がシビアで、旅客機なら目的地との距離に応じた燃料だけ入れていくくらいには厳しかったりする。
【赤外線欺瞞】
対赤外線誘導ミサイル用の身代わり。ジェット機の排気と同等かそれ以上の激しい燃焼を起こすことでミサイルのセンサーに飛行機と誤認させて逸らす仕組み。ただ、近年は赤外線誘導ではあっても画像認識を併用しているモノも多く、そうなると、点で激しく燃えるだけでは、身代わりと見破られてしまう。レーダー誘導ミサイルには効果がない。
【電波欺瞞】
レーダー誘導ミサイル用の身代わり。ジェット機と同じ波長を反射するアルミ箔による紙吹雪。ミサイルは紙吹雪とジェット機から返ってくるレーダー波の区別ができず欺瞞される。赤外線誘導ミサイルに対しては効果がない。本編では登場せず。
【ダメコン=ダメージコントロール】
艦艇において、被弾した際の被害を最小限にする為の事後処置を指す。太平洋戦争において、米海軍はこれに優れており、大本営発表といえば嘘ばかり、というのが定番となっていたが、実際、日本海軍であれば沈むような被害を受けても、応急措置によって沈没を免れて、帰港、修理をして戦線に復帰する、大小15回も被害を受けながら生き延びた幸運艦エンタープライズのような例もあった。
かくして、海上自衛隊では今では打って変わって、ダメコン重視になった。また、同戦争において、米潜水艦にボコボコに沈められたことから、戦後の海上自衛隊では、対潜能力に注力し、潜水艦絶対殺すマンにもなったのである。
【曲芸飛行隊】
日本が誇る航空自衛隊の曲芸飛行隊である。スモークを使って空中に描画する「描きもの」を得意とする。2020年には東京オリンピック・パラリンピック大会において、東京上空に五輪マークを描くなど活躍している。T4(国産の亜音速ジェット練習機)を使う。
バイクに飛行機風外装を付けたブルーインパルスジュニアの愛らしい姿と息の合った走行演技も人気が高い。
【戦場の霧】
戦場においては不測の事態が起こりやすく、敵味方ともに情報は不十分であり、見通しの悪さを霧に例えた言葉である。実際、第二次世界大戦時、米軍が日本軍がいるキスカ島に上陸作戦を行ったが、実は奇跡の脱出を終えた後で無人であり、米軍はそれに気付かず上陸作戦を行い、同士討ちで100名が戦死した、なんて話もあるくらいだ。
【ピカティニー・レール】
銃に様々なオプションを取り付けるためにレール状の取り付け台。規格化されているので、規格が合っていれば、望んだオプションを好きなように取り付けられる。本作でも戦乙女や運命の使っているライフルには同レールが取り付け可能であり、そこにボム投擲器を取り付けたりしていた。ちなみにオプションを取り付けない時のレールは単に邪魔で重いだけの死重量なので、レール自体を取り外していたりもする。
【即応部隊】
自衛隊の防衛計画大綱(H26以降)で語られている統合機動防御力に沿った戦力の一つとして、即応機動連隊という陸自の部隊が編制された。ざっくり言うと、日本は道路網が整備されていること、昨今、情勢の変化が早いことに迅速に対応できるよう、装輪車両群で連隊を編成することで、迅速な移動と部隊の展開を目指したものである。
実際には、ヘリコプター部隊や海自と連携して海上輸送するといったものもあるが、詳しく知りたい人は防衛大綱を読んでみよう。
即応機動連隊は周辺諸国絡みで戦闘が想定される時に、迅速に展開できるようにするものなので、配備されている場所は北海道、東北、中国地方、九州、沖縄といった地域となる。本作では、夢幻戦闘領域の発生に対応する為、東京、名古屋、大阪といった大都市圏にも、即応機動連隊の縮小版となる即応部隊が配備された。オリジナル設定である。
東京においては、市ヶ谷駐屯地に配備されている。夢幻戦闘領域に出現する敵は、対人火器では有効打を期待できないことから、対物ライフルや重機関銃といった装備が拡充されることとなった。
<作者コメント>
本作では、ご当地戦士以外でも、敵に抗えることとした。一般人がただ守られるだけ、逃げ惑うだけの無力な存在として描きたくなかったからだ。とは言うものの、戦乙女の戦場においては、敵は最低でもファンファン、テクニカルといった存在となり、警察官の所持する拳銃では全弾を命中させるくらいしないと倒せる可能性が出てこない。なので、非戦士勢の中での主戦力は自衛隊で確定した。
想定される敵はエリアボス以外は、軽車両程度の戦力なので、陸自の花形の戦車では火力が過剰過ぎて逆に使えない。それに戦闘の展開が早いので装軌車両よりも、装輪車両の高速移動の方が作品にも合っている。
で、調べてみると、防衛大綱も見直しが入って、昔のように双方の機甲師団同士がガチの正面衝突をする大規模戦闘の発生は低くなり、代わりに偶発的に起こるような局地的な戦闘の方が危ぶまれて、そんな事態に即応できる戦力を拡充することになった。
それが、即応機動連隊であり、それを小規模にして都市部に配備した、とすれば丁度よいとの考えに至った。
……ところが、自衛隊関連の資料を調べ始めてみると、これが予想以上の困難が待ち構えていた。花形だった10式戦車や、表紙を飾る事が多い16式機動戦闘車なら、独立した書籍もあり、それなりの情報が手に入ったのだが、 96式装輪装甲車とか、軽装甲機動車とか、 82式指揮通信車といった指揮用、偵察用、兵員輸送用といった車両群の情報がとにかく見つからない。エンジン配置だとか、中の構造だとか、装甲の厚さとか、出入りする扉の位置とか、執筆する上での資料が欲しいのに、内部写真はおろか、三面図すら見つからない……。そこそこの火力で使い勝手がいい89式装甲戦闘車とか、87式偵察警戒車も写真がちょいとある程度だった。
ネットだけではまるで足りず、見かける書籍を片っ端から確認する羽目に陥った。ネット情報はあるように見えて、偏りがあるということを実感することとなった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。
2022年10月7日(金)までは毎日7:05に投稿していきます。
第三章は全4パート、その他の紹介です。




