初めに:執筆を終えてみて思ったことをつらつらと
この作品は、タイトルに執筆裏話とあるように、全37話で完結しているアクション小説「ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ」の設定集になります。本編を読まれていない方は、先ずはそちらへ。単行本一冊程度なのでサクサク読めると思います。
◆2022年の日本だから書けた作品
「ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ」は、見知った街を気持ちよく飛ぶメカ&少女という夢を観て「これだぁ!」と忘れぬうちにネタ帳に記して、そのまま、熱が冷めぬまま、37パートの連日投稿を完走しきった作品でした。
作品としては中編から長編くらい、単行本一冊の分量といったところですね。
で、この作品なんですけど、いろんな意味で、2022年の日本だからこそ書けた作品だったように思います。
第一に、武装メカを纏っている少女というイメージがジャンルとして成立しているのがなんといっても大きい。この潮流のスタートと言えば、MS少女あたりになると思いますが、名前の通り、ガンダム世界と切っても切り離せないところがありました。それでも少しずつ様々なロボット系アニメ風のメカを纏った少女絵が出て、漫画が連載されたり、ゲームが出たりとしていくうちに、一つのジャンルとして今では確立されたと言って良いでしょう。
それからご当地キャラ。地域限定のキャラがいて、それを町おこしとして推していく。これも本作の「ご当地戦士」の土台として不可欠な要素でした。アメコミに出てくるような世界を救うようなヒーロー/ヒロインじゃなく、狭い地域を守る、地域密着型のヒーロー/ヒロイン、その地域の人達からはオラが街のヒーロー/ヒロインなんだよ、と言って貰える、そんな地域に根付いた雰囲気が本作では重要でした。
手製の半被とペンライトを持って揃いの動きで応援するリーマン達、なんて演出も日本以外では不可能だったでしょう。あの近い距離感はアメコミヒーローとかだと出せません。身近な偶像という概念は日本では定着している文化だと思います。
※アメコミでも蝙蝠男あたりは、頭のイカれたコスプレ野郎とか言われてて身近ですね。
創作活動を支えるピク〇ブとか、動画投稿をできるY〇uTubeやニコ〇コ動画なども存在も重要で、ご当地キャラ推しと同じ流れで、ご当地戦士推し、という風潮があるよ、と描写すれば、まぁあるだろうね、と思って貰える下地もありました。
メカ&少女=フィギュア、魔法少女=コスプレ、FPS勢=サバゲ―、と分かりやすく勢力分けできたのも演出面で大変助かりました。いずれも日本発の文化であり、日本では馴染み深いモノですが、海外にも嗜む人達もいないではないですが極少数派なので、ご当地戦士の多様性を演出できなかったでしょう。
都市部の電線地中化がある程度進んでいるというのも、何気に重要でした。昭和の頃のように電線があちこちに走っていたら、街中を飛ぶなんて危なくて現実的じゃありませんからね。
ドローンの一般化、これも重要でした。数百機なんて規模でも上手く連携して狭いところでも飛べる飛行機械、しかも誰でも簡単に飛ばせる、というのがミソです。昔ならラジコンヘリが該当するとは思いますが、自律飛行なんて夢物語ですし、アーケード街を飛ばす、というのは無茶でしょう。でも不思議パワーで飛んでる飛行メカなんてしたら、なんか撃っても簡単に墜ちてくれない気がしませんか? ドローンなら、当たり所が悪ければ簡単に墜ちる気がしますよね。
賢く飛んで、撃って当たれば墜ちやすい敵の一般飛行ユニット、しかもイメージしやすいというのは助かりました。空を飛ぶメカ&少女なら、空飛ぶ敵がいないと困りますから。
それからスマホ(GPS、カメラ、通信、通話)も重要な位置付けになりました。登場人物をできるだけ少なくしたいという欲求と、市民を活躍させたい、市民を単なる被災者、逃げ惑うだけの存在ではなくしたい、という欲求を両立することができました。これが携帯電話時代だったなら、何十万人という人達の目を活用して敵を発見、なんてネタは使えませんでした。
昔なら、市民の誰かが奮闘するシーンを入れるなどして、頑張ってるところを描写するしかなかったと思いますが、それって特殊な一部の人の抽出であって、大多数の市民が広く参加する感じじゃないし、そうして誰かを出したら名前の付いた人物が増えることになってたでしょう。
活動量計も重要なキーアイテムですが、一般化したのは最近の話で、リモートワークが推奨されて、運動不足解消なども含めて、自己管理が重視される流れともなりました。今でこそ水泳中も計測できたり、バッテリーが一週間くらい充電せずとも持続するようになり、スマホとも簡単に連動してデータ分析もできますが、少し前ならすぐ電池が切れる、データ連携も面倒臭い、生活防水がやっとといった具合でした。……活動量計なしだったら、後輩クンが不調に気付く流れの演出はかなり苦労したと思います。
ミッション開始前のブリーフィング画面を観て、装備を変更したり、戦い方をあれこれ考えたりするというのも、各種ゲームで採用されているからこそ、イメージしやすい演出でした。自由に装備変更できる、機体構成を変えられる、というのはゲーム機の性能が向上してからでないとできない仕様でしたからね。
主人公視点、リアルな3D世界で戦うゲームが普及しているというのも外せない要素でした。コンピュータの性能が低い時代には2D世界が限界でしたし、3Dと言っても疑似的なモノでした。それに単にスマホが普及してるだけの国では駄目です。生活に余裕があって大きな画面と快適な演出ができるコンピュータやゲーム機で大勢が遊んでいられないと、本作の描く「ゲームが現実を侵食してきた」なんてのはイメージしにくいでしょう。
また、本作では漠然と世界を覆う不安、不況、混乱といった要素が欠かせませんが、時代が冷戦期なら人類滅亡の恐怖、全面戦争への危機意識が強過ぎて不適格、冷戦終了から暫くはアメリカ一強の能天気な時代だったのでやはり不適格、その後の多極化時代もまた不安定ではあったものの、決定的に時代が変わった、という意識までは至ってませんでした。しかし、2022年の日本においては、いつ明けるともしれぬコロナ禍による社会構造の不可逆な大変化、第二次世界大戦後の国際連合の機能不全が完全に露呈した政治的動乱の渦中にあって、本作の描く世界観も残念なことにイメージしやすい時代となりました。
そして、戦闘が非現実であること。創作の上で身近な街でドンパチやる訳ですから、そうなったら大変だ=でもそうはならないね、という意識が根底にあるから楽しめるのであって、ロシアにいきなり侵略戦争を吹っかけられて日常が壊れてしまったウクライナでは、到底、娯楽として楽しめないでしょう。幸い、2022年03月時点の日本では、まだ戦闘は縁遠い話です。
◆化けたキャラ
やはり運命は化けたキャラでした。初期案ではいなかった子で、ご当地戦士の世代交代を演出するのに、新人戦士を出そうか、そんな気持ちで入れてみましたが、最終話まで書き終えて思ったのは「この子いないと話が成立しないわ」でした。
夜の風は便利でしたね。当初案では永田町大戦で終わる感じだったので彼は単なる集団戦を束ねるチームリーダー程度だったんですが、首都決戦では全体指揮役が不可欠となり、彼がずっと調整役として奮闘することになりました。直接戦闘としては彼は次元バリアを展開しただけなんですが、いないと困るキャラとなりました。
知を欲す者もまた、演技派のご当地戦士として活躍してくれました。彼がいなければ、敵戦力に関する洞察や各種情報収集&分析を夜の風と運命に全部任せる流れにするしかありませんでしたが、それだとバランスが悪かったと思います。それにヒーローの苦悩、悲哀のようなところを語らせるのにも、賢者的なキャラが語ったほうがそれっぽくで良かったと思います。
◆書いてて想定がズレた点
当初案では全13話で終わるさくっと読める中編アクション作品とするつもりでした。ところが永田町大戦を描いてみると、あれ? ここで終わり……はないよなぁ、となりまして。
ちょっと頑張ればなんとかなる程度のミッションで〆とするより、絶望的な中、総力戦で乗り切ってから、エピローグの方がいいなぁ、と思ったのが泥沼化の始まり。
戦士だけが戦い、それ以外は襲われるだけの存在ではなく、総力戦の名の通り、市民も、マスコミも自衛隊も政府も全てが力を尽くすことでやっと、手が届く勝利への道。でないと、難度:希望はないとは言えないだろうと、あれこれ要素を足していくと、パート数が増える、増える!
一時は、全43パートまで増えそうになり、頑張って今の全37パートに抑えました。
先が見えない高難度という演出が、だらだら続く戦闘、とならないようにかなり展開はテンポよく改変できたと思います。
ただ、二週間程度の短距離走のはずが、フルマラソンに変わった感があり、約二か月の執筆漬けは大変でした。週2回の長編投稿と並行でしたからね。複数作品の並行執筆を勧める人もいますが、色々ときついので私はあまり推奨しません。まぁ、ネタを神様がくれたなら、熱が冷める前に書け、書いてから後悔しろ、とは言いますが。
◆振り返ってみて
2018年から連載中の長編作品「彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?」を書いてて、これを書き終えたら、改稿とかはするとしても、新たな作品を書くなんてことは多分無いだろうなぁ、などと考えていただけに、ネタの神様がくれた新作品の創作熱は全くの予想外でした。神様ありがとう。日本人なんで、敬虔さは標準搭載してます。創作裏話の連載が終わった辺りでいいので、その頃になったら、またネタを下さい。
本日から2022年10月4日(火)までは毎日7:05に投稿していきます。
第一章は全11パート、ご当地戦士達の紹介です。