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5.悪魔憑き

アクセスありがとうございます。

 村は騒然としていた。

 あちこちで怒号と悲鳴が響き、ところどころから煙が上がっている。家々の屋根から翼の化け物が飛び立つ度に悲鳴が上がる。


 怪我人や死人があちこちに横たわっている。人間のほうの分が悪いのは一目瞭然だった。



 走り出すとほとんど同時に、鋭く風を切る音がした。

 振り向いたら灰色の影がすぐそこに迫っている。避ける間もない。

 ルネはとっさに盾で顔をかばう。


 鉤爪の一撃で突き飛ばされた。

 リアは間髪を入れずに薙ぎ払う。どさりという音とともに、怪鳥の脚が落ちる。切り離されてなおジタバタと不気味に踊りくるうそれ。


 目を上げるとそいつは足から血を流しながら飛び去っていく。


「凄い目で睨まれてたわ。」ユージェニーが場違いな平板さで言うや否や、さっきの片脚が戻って来た。仲間を3羽連れて。


「ここじゃまずい。こっちに。」

  広く見通しのいい通りでは不利だ。


 できるだけ狭い路地を目指して走る。後ろからは4羽の化け物どもが追ってくる。空を飛ぶ者のほうが圧倒的に速いのが道理で、このままではすぐに追いつかれてしまう。


 ようやく路地に入れた。だがここは田舎の開拓村。そもそも建物自体が少なく、背も低い。 

 あっという間に開けた場所に出てしまう。

 4方にそれぞれ4つの建物が並ぶ。それぞれの門にシンボルを掲げた、そこは四神教の聖会堂前の、聖なる広場だった。


「ちょっと、挟まれたみたいよ。」リアが指す先に4羽。後ろからも4羽。羽ばたきながら散開して包囲をかけてくる。


 逃げ場はない。


「あいつらそうとう頭に来てるみたいね。」

「リアが脚なんか斬るからだろ? 」

「だって斬れそうだったんだからしょうがないじゃん!」

 訳の分からない理由に腹を立てたのか分からないが、数羽がこっちにむかって来るのが見えた。手に長いものを持って。


「まずい。気をつけて!」

上空から放たれる。投げ槍だ。

できるだけバラバラに飛び出してその場を逃れる。


「ぐっ!」

 ルネは右腕に焼けつくような痛みを感じた。肩当ての隙間を槍が切り裂いていた。


 これじゃ狙い撃ちだ。


 ここでは人目があるが、背に腹は替えられない。 


「リア!カバーして!」

「了解。」

 立ち上がって上空の敵を睨む。勝ち誇ったように、目をぎらつかせて旋回する汚らわしい化け物ども。


 ルネはすぅと息を吸い、目を閉じる。その瞬間に脳の奥でかちりという音を知覚する。そうして息を吐きながらゆっくりと目を開く。


 空を舞う有翼の魔物。その美味しそうな姿を目で捉える。

 たった今、ルネの眼は捕食者のそれになった。


 まだ槍を持つ何羽かが向かってくる。ルネは舌なめずりをしてクロスボウに矢をつがえ、即座にそれを撃った。


 ごく当たり前の武器であるそれは、ごく当たり前の射程をはるかに超える距離にある標的に、まるで吸い込まれるようにして易々と命中した。

あっさりと命を失い、きりもみしながら落下するそれを横目に、2矢目、3矢目を射出。それらもまた過たず標的を叩き落としていく。


 呆気に取られ身動きもできない怪鳥ども。その間にも殺戮は繰り返される。ユージェニーは殺しの機械と化したルネの姿をじっと見ていた。


 それに・・・。それに目が異様に黒い。リアはそんなルネの傍らにいて、周囲を警戒している。ルネの異様な変化を既定のこととして受け止め、淡々と役割をこなしているように見える。



 ハーピーの群れが動いた。

 生き残った数羽が一団を成してこっちに向かってくる。

 起死回生の一撃をかけようというのだろう。いかに恐るべき射手といえども、次の矢をつがえる前に接近してしまえば終わりだ。


 波状攻撃が始まる。リアが長剣を振りかぶってルネの前に立つ。彼女もまた、異様な気配を身に纏っている。

 闇灰色の暴風が押し寄せる。すさまじい咆哮は、だが二人に届く前にかき消された。剣が振られればケーキのように化け物の体が切断される。

 矢が放たれれば確実に仕留められる。いくらもたたないうちに、周囲に動く気配がなくなった。 

  2人の周りには灰色の肉塊と赤い血のマーブル模様が描かれている。淡々と矢を回収して回るルネ。彼の左肩は、確か槍に切り裂かれたのではなかったか。衣服こそ千切れて血の染みができているが、そこからの出血はもはや見えない。


「悪魔憑き・・・。」


 ユージェニーがつぶやく。

 2人の肩がぴくりと動いて、同時にこちらを見た。目はすでに紅くないが、こちらを見る目にはどこか虚ろさがあって・・・。


 四方の聖なる建物は、よそよそしく立ち尽くしている。

 ユージェニーは後ろに一歩下がりながら短剣の柄に手をかけた。

「ユージェニー。」

 何か察したのか、リアが気遣うような顔をする。ルネは気まずそうだ。2人からは、もうさっきまでの薄ら寒くなるような気配を感じない。


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