24.終話
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翌日。一行は森の片隅に設けられた祠に到着した。そこには数人の村人と祭服姿の女性が待っていた。
「よく、ご無事で。」
村人たちはユージェニーの姿を見ると安堵の涙をこぼした。
「コヴェンティナの現し身。お会いできて光栄ですわ。」
柔らかく微笑んだのは初老の女性で、大地神パトリコスの司祭である。
「私たちの先生よ。」
リアが簡単すぎる紹介をした。
彼女はソフィーナ。水都ベーメンの大地神教団に所属する司祭で、悪魔憑きになったリアとルネを保護してくれた恩人だ。
大地神パトリコスの司祭ならばあるいは、ユージェニーの問題をどうにかできるかもしれないという話を聞き、はるばる故郷まで戻って招聘したのだった。
「私などのためにこんなに遠くまでお越しになるとは、感謝に絶えぬ。」
ユージェニーが畏まって頭を下げると、ソフィーナは柔和な顔をいっそう柔らかくして言った。
「賢き精霊様のお役に立てるのならば、この身に余る光栄と言うものですわ。」
神と神が同化するというのは、生き物が他の生き物を食べるのと本質的に異なる、とフィリップは言った。
「取り込まれた側はその神の一部になるとともに、その神の性質を自分の精神に加える。」
リアとルネは完全についていけていない。
「一部になるのに加える?」
「そうだ。」
「・・・。」
「つまりあの時私が冥界神に飲まれていても、私は消えなかったということ?」
「正確に言えば、精霊コヴェンティナの現し身であるお前は消える。代わりに冥界神アエイヌースの化身たる女神コヴェンティナの現し身が現れる。お前の物質的な部分は何も変化がないはずだ。」
「よく分からないけど、あの時負けてても別に問題なかったってこと?」
リアがおそるおそる尋ねた。
「異なる神の精神を併せ持つことを問題無いというなら、そうだな。」
「はあ。」
リアは思わずため息をつく。
「あの時の覚悟はいったい・・・。」
「ただ、お前たちの中のそいつもそうだし、コヴェンティナにしても、そろって冥界神はお気に召さないようだな。あそこまで場を整えて、あれほど抵抗されるというのはどれだけ相性が悪いのか・・・。」
フィリップが嘆息した。
ただ単にあの時のフィリップが問答無用で襲いかかってきただけではないかと他の3人は思ったが、口には出さなかった。
「だから私は大地神パトリコスの一部になるのね。」
「そうだ。お前はそっちの方が相性が良さそうだしな。」
そう言って脇に立つ柔和な司祭の方を見た。
「では始めましょうか。」
彼女は言って、大木の根元にしつらえられた簡素な祭壇の前にユージェニーを案内した。
ミモザの冠をユージェニーにかぶせ、榛の枝を持って聖印を描く。
儀式はあっさりとしたものだった。怪しげな光も奇声もなく、魔物が湧くこともない。
それが終わった時、ユージェニーの目がかすかに輝いたように見えたが、それは涙で潤んだ瞳が木漏れ日で煌いただけだった。
「これにて、結縁は成就せり。寿げ新しき大地神のともがらを。」
静かな宣言と共に、儀式はしめくくられた。
「不思議な感じ。ずっと前からこうだった気がする。世界の記憶が重なっている。」
ユージェニーは焦点の合わない目であちこちを見ながら言った。
「まあ、何はともあれ一見落着なのかね。コヴェンティナは四神教に組み込まれて異教じゃなくなったし。これで信者さんたちも安心して暮らせるでしょ。」
リアがそんなユージェニーに声をかける。
「ほんとうに。」
ユージェニーは同意した。細かいことをいえば、正統証明や受洗、儀式作法の調整などなど課題は山積しているのだが、それは一つずつ何とかしていけばいいし、なによりフィリップという四神教側と交渉できる人材もいる。こき使ってやろうと心に決めた。
ユージェニーは最後まで協力を惜しまないでいてくれた2人に心からの感謝を伝え、尋ねた。
「あなたたちはこれからどうするの。」
「すごく迷ったんだけど、やっぱりこいつをどうにかできる聖者様を見つけようと思うんだ。どうやら月神と相性がいいんじゃないかってフィリップが言うし。」
「やっぱりユージェニーみたいに、自ら望んでスムーズにってわけにはいかなそう。」
元大河の精霊は、2人の精神がいたくお気に召しているのでなかなか説得に応じないらしい。大地神の力でユージェニーと同じように調伏できるなら、そもそもリアとルネは故郷を出る必要はなかった。
「月神ティル・ナノーグ信仰が盛んなのは東の国々だ。かの神の聖者がいるならそちらだろうが、今は白毛人との戦争で大変なことになっているらしい。行くなら気をつけるんだな。」
フィリップがそっけなく付け足した。
「あんたもあんたの神様に気に入られすぎないように気をつけなよ。」
リアの言葉に、フィリップはただ苦笑だけを返した。
【完】
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