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第4話 町に到着。家族の団欒。

「ふー、やっと着いたわ」


 日が町の向こうに沈んだ頃、シャルティア、ヴァン、ユウノの三人はアルセインへ到着した。


「ぐっすり寝てるね」


「ああ」


 ユウノはヴァンの背中におぶさり、すやすやと寝息を立てている。


「うーん、もう食べられないよぉ」


 むにゃむにゃと寝言を言うユウノに、シャルティアとヴァンは顔を見合わせて微笑む。


「ヴァンが出してくれたパンを沢山食べられて、きっと嬉しかったのね」


「そうだな。パンしか出せずに申し訳ない気持ちだったが、予想に反して大喜びだった。出して正解だったよ」


「そうね。今後も食事の際はお願いするわ」


「ああ、任せておけ。お安い御用だ」


 そんな事を話しながら、門の前へ。辺りは暗く、既に夜。その為門は閉じられてしまっている。シャルティアは門の横、門番が駐在する部屋の小窓をコンコンとノックした。


「こんばんは、旅の者です。どうか町の中へ入れていただけないでしょうか」


 そう尋ねてみる。すると小窓がバン! と開き、兵士が顔を覗かせる。


「旅人ですか? では、身分を証明する物をご提示下さい」


 警戒の色を見せる兵士。現在のシャルティアは身分証の類は持っていない。そもそも夜間町へ入る為に身分証が必要な事すら、元貴族の彼女は知らなかったのだ。だが、ダメで元々。思いついた方法を試す事にした。


「ねぇヴァン。私の身分証、あなたに預けていたわよね。あれ、ちょうだい」


「ん? ああ、わかった。少し待て。いくぞ! シャルティアの身分証! よし出た」


 ヴァンは懐から身分証を取り出し、シャルティアに手渡した。それには彼女の肖像画と名前、性別、年齢、誕生日、出身地などが記載されていた。もちろん全て偽の情報。新しく生まれ変わったシャルティアの為に、ヴァンが考えたものだ。


「これで良いですか?」


 シャルティアは身分証を手渡した。兵士はシャルティアの顔と身分証を見比べる。


「ふむふむ。シャルティア・レイグッドさん。二十歳ですか。出身地はハルティノガフ。肖像画も間違いなく本人のようですね。いいでしょう。ですが一応、他の方の身分証もお願いします」


「ええ、もちろんです」


 シャルティアは同じ手順でヴァンとユウノの身分証を出し、兵士に提出した。全員、姓はレイグッドだ。


「なるほど、ご家族でしたか。わかりました、どうぞお入り下さい。宿屋の場所をご案内しますよ」


 兵士は門を開き、宿屋の場所が示された簡単な地図をシャルティアにくれた。


「ご親切にありがとうございます。では」


 シャルティア達は兵士に案内された宿屋に入り、まずは一泊する事にした。金はなかったが、ヴァンが銅貨を出す事が出来たのでそれで支払った。


 部屋に入りユウノをベッドで寝かせると、シャルティアはヴァンに礼を言った。


「お金まで出せるなんてすごいわ。これでどうにか生活は出来そうね」


「ああ、まぁな。だが一度に出せる銅貨はわずかだぞ。安宿に泊まるくらいなら問題はないが、大金が必要な場合は無理だ。覚えておいてくれ」


「わかったわ。さて、ユウノは寝てしまったし、私達も今日はもう寝ましょうか」


「そうだな。だがこのベッドはどう見ても一人用だし、一つしかない。三人で寝るには無理があるんじゃないか?」


「うふふ。それが無理じゃないのよ。ヴァンが猫の姿になってくれればね」


「ああ、なるほど。わかった、少し待て」


 ヴァン目を閉じると、その場でくるりとターンをする。すると瞬時に、元の黒猫へと変身した。


「これでいいか?」


「うん! 可愛い! 最高!」


 シャルティアは嬉々としてヴァンを抱き上げると、靴を脱いでベッドへ横になった。


 そしてヴァンを抱きしめながら、ユウノの寝顔を見る。


「可愛い子達に囲まれて、私、今とっても幸せだわ!」


「一応、俺はユウノの父であり、お前の夫と言う立場になっている訳だが」


「でも可愛いんだからしょうがないじゃない ああ、モフモフ最高!」


 シャルティアはヴァンを気が済むまでモフモフ、スリスリし、やがてユウノの横で眠りに落ちた。


「やれやれ、やっと終わったか。お休み、俺の家族達」


 ヴァンはまんざらでもない様子でニカッと牙を見せると、シャルティアのお腹の上で丸くなった。


 翌朝、一番に目を覚ましたのはユウノだった。


「ママおはよう! ねぇねぇ、パパがいないの! そのかわりに、すっごく可愛い猫ちゃんがいるよ!」


 シャルティアの体を揺さぶるユウノ。


「うーん。あ、おはようユウノ。大好き。キスして」


「おはようママ! チュッ! あのね、パパがいないし、猫ちゃんがいるの!」


 その声で起きたのか、ヴァンが「くああーッ」とあくびをする。


「ほら! あくびしてるよ!」


「あらあら、本当ね。でもねユウノ、実はこの猫ちゃんはパパなの。パパはね、猫ちゃんに変身出来るのよ」


「ええええー! そうなの!? すっごい、すっごい! ねぇパパ、早くパパに変身してみて!」


 ユウノはヴァンを抱き上げ、頬をスリスリする。


「ふわふわー。可愛い! ねぇパパ、早く変身して!」


「くああー。おはようユウノ。今変身してやるから、ちょっと降ろしてくれ」


「うわ、喋った! すっごいねパパ! おはよう! 今おろすから、ちょっと待ってね!」


 ユウノは目をキラキラさせながら、ヴァンを床に降ろした。ヴァンはユウノを見上げると、「いくぞ」と言って宙返り。次の瞬間には長身の青年へと変化していた。


「どうだ、ユウノ」


「うわぁ! すっごい、すっごいね! パパ凄い! パパ大好き!」


「俺も好きだぞユウノ! キスしてくれ!」


 そう言ってユウノを抱き上げるヴァン。ユウノはヴァンの首に抱きつき、頬にチュッとキスをする。


 ユウノを抱いたまま、ヴァンはシャルティアに向き直った。


「おはようシャルティア。今日はどうする?」


「おはようヴァン。今日は早速、魔女ギルドに行ってみるわ。例の目的の為にも早く出世したいし、ここに住めるようなら家を買う資金も欲しいしね」


「そうだな。では俺とユウノは町を散策してみる。連絡は思念伝達魔法でよこしてくれ。ギルドで杖をもらえば使える筈だ。連絡がなかったり、お前が帰ってくる前に夜になってしまった場合は、この宿屋にいるよ」


「わかったわ、ありがとう。じゃあお願いね。さて、出かける前の腹ごしらえと行きましょうか。ここの一階には食堂があったわよね。そこで朝食にしましょう」


 そう言いながら、シャルティアは鏡台の椅子に腰掛けた。鏡を見つつ、自身の髪を結う。


「ねぇママ、お出かけ?」


「うん。ママ、ちょっとお仕事もらいに行ってくるわ」


「ユウノも行く!」


「ユウノはパパと遊んでて。パパがね、色んな所に連れて行ってくれるって」


「わぁい! パパ、ありがとう!」


「うむ。任せておけ。美味しい食べ物も買ってやるぞ」


「わぁい! ユウノ、美味しい食べ物、食べたい!」


 はしゃぐユウノの髪を撫でながら、ヴァンはシャルティアを見て微笑んだ。シャルティアもヴァンを見つめ返して微笑む。


(なんだか、本当の家族みたい)


 そんな風に思った。憎しみにすさんだ心が、癒されていくようだった。








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