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第1話 妹に全てを奪われた。

「シャルロットお姉様! 私、カルロス様に抱かれましたの。とても情熱的な方ですわね、カルロス様って」


「え......!? ルシアあなた、自分が何を言っているのかわかっているの?」


 実の妹ルシアの爆弾発言に、シャルロットはなかばパニック状態に陥った。カルロスは隣国ハーゲンワッツの第二王子にして、マルゲニア公爵家長女であるシャルロットの婚約者。


 妹がその彼に抱かれた。それはシャルロットとって信じがたい事だった。カルロスはとても誠実な青年で、シャルロットだけを愛してくれると約束したのだ。


 彼がその約束を破るとは考えにくい。だが、この妹ならばもしかしたらカルロスを騙した、という事は充分にあり得るとシャルロットは思った。


 昔からこの妹は、シャルロットのものを欲しがった。そして両親も、妹を溺愛していた。シャルロットにあげる筈のプレゼントも、妹が欲しがれば無条件で彼女に手渡していた。


 妹は美しかった。金色の髪にサファイアのような青い瞳。そして透き通るような白い肌。愛くるしい笑顔。容姿だけではなく歌声さえも美しく、聴く者全てを虜にした。


 それに引き換えシャルロットは醜い、と周囲の者からは言われていた。癖のある黒髪に猫のような左目。縦長の瞳孔を持つ瞳の色は緑で、右目の青色と比較すると不気味に見える。そしてそれは不吉の象徴であり、悪魔の子と呼ばれる姿。


 さらにシャルロットは声も低く、音痴でもあった。まるでいいところが無い、と彼女自身思うようになっていた。両親が妹を愛するのも無理はないのかも知れない。いっそ死んでしまおうかと悩んだこともある。


「シャルロット、君は優しい人だ。それにその黒髪と、左右で色が違う瞳も素敵だよ」


 カルロスはシャルロットに出会った時から、そう言って誉めた。「いつも見ていた」と。そして何度目かに出会った時、彼女は求婚されたのである。


 両親は厄介払いが出来ると喜んだが、妹は怒り狂った。


「何故美しい私ではなく、醜いお姉様を選ぶの!?」


 その日を境に、ルシアのシャルロットへ対する暴力や嫌がらせは激しさを増していった。


 両親も妹も、毎日のようにシャルロットを醜いと罵っていた。だがシャルロット自身は、鏡を見ても醜いとは感じていなかった。髪の色と左目の色、瞳孔の形以外はそれほど皆と違いはない。顔は整っているし、肌も綺麗だ。


 それにシャルロットの両親が治める領地、マルゲニア公爵領であるアルセインの人々は、時々町を訪れるシャルロットを美しいと言って褒め称えていた。


 それでも家族や親族に何度も醜いと罵られるうちに、自分は醜いのだと心に染みついた。


 だが、そんな醜いシャルロットをカルロスは選んだ。それは彼女のこれまでの人生において、最高の喜びだった。カルロスの元へ嫁ぎ、幸せに暮らす。それだけがシャルロットの今の望みだ。


 それなのに。何故妹は、カルロスに抱かれたなどと嘘をつくのだろう。


「うふふ。もちろん、自分が何を言っているのかはわかっているわよお姉様。だけどカルロスが私を愛しているとおっしゃるのですもの。拒めるはずもないでしょう?」


「そんな筈ないわ! だってカルロス様は、私だけを愛してくださるとおっしゃったもの!」


「ふふっ、まぁ信じられないのも無理はないわね。なら、本人の口から直接聞くといいわ。カルロス、入ってきて」


「えっ?」


 シャルロットの思考が追いつかないうちに、扉を開けて中に入って来た長身の青年。それは確かにカルロスだった。


「ねぇカルロス? こんな醜い化け物よりも、私の事を愛しているわよね?」


 カルロスは一瞬押し黙る。そしてシャルロットと目が合った。彼女は祈るような気持ちで、彼を見つめ返す。


 だがカルロスはシャルロットを蔑むように見つめ、フン、と鼻で笑った。


「当然だろう。何故王子である俺が、こんな醜い女を愛さねばならぬのだ。かつての俺はどうかしていた。こんな化け物を愛おしいと思うなど。だが、ルシアの愛が俺を目覚めさせてくれたのだ。そして二人で計画を立てた。まずはこれまでどおり、シャルロットの婚約者を続ける。そして王家として、マルゲニア公爵夫妻に恩を売っておくのだ」


 シャルロットは衝撃を受けた。カルロスとルシアは、彼女の知らぬ間に親密になっていたのだ。一体いつからだったのか。思い返して見たが、そんな様子は感じられなかった。だが妹は着実に、その魔の手をカルロスへと伸ばしていた。またしても、姉のものを横取りしたのだ。


「領地はもとより俺のものになる予定だったが、公爵夫妻に口出しをされると面倒だからな。奴らを言いなりにさせる為には、美しいルシアではなく、醜いシャルロットの婚約者を続ける必要があったのだ。おい、シャルロット。貴様まさか勘違いなどしていないよな? 俺が愛しているのはルシアだけだ。本来ならば貴様のような化け物の婚約者など、死んでも御免だ! けがらわしい!」


 ペッと唾をシャルロットに吐きかけるカルロス。


「そんな......ひどい......」


 シャルロットは立っている事も出来ないほどの絶望感と虚脱感に襲われ、その場で膝をついた。そして大声を上げて咽び泣く。


「ああ、うるさい。ひどい声だ。そしてなんと醜い事か。泣き顔もやはり化け物にしか見えん。少し予定より早いが、貴様を処刑する。なに、もう立派に役目は果たしたぞ。マルゲニア公爵と夫人を俺の下僕にするというな。だから安心してあの世に行け。おい! 入って来い!」


 部屋の外からゾロゾロと兵士が侵入してくる。彼らはハーゲンワッツ王国の紋章が入った鎧を着ている。つまりカルロスの近衛兵だ。


「こやつを捕らえよ。そして俺を暗殺しようとした罪で、火あぶりの刑に処せ。刑の執行までの間は好きにして構わん。まぁ、この化け物を抱く勇気があるのならな」


「はっ! かしこまりました!」


 兵士達は乱暴にシャルロットを引き立て、連行していく。


 シャルロットは抵抗しなかった。全てに絶望していたからだ。


「良かったじゃない、お姉様。天国にいるお爺さまに、良い土産話が出来て。例え嘘でも王子様に愛してもらえた事、誇りにしなさいよね!」


 そう言って高笑いするルシア。シャルロットは何も答えず、兵士達に引き摺られて行った。


 そして牢屋の中で激しく暴行を受け、翌日、(はりつけ)にされた。場所はマルゲニア領の町アルセイン。その中央広場には大勢の人々が、シャルロットの処刑を見に集まった。


「シャルロット様!」


「ああ、なんと、おいたわしい」


「あんなにお優しい方が、何故......」


「美しかったお顔も、あんなに腫れてしまって」


「ああ、神よ! どうかシャルロット様をお救い下さい!」


 町民達の声が聞こえる。


(ありがとう。こんな私の死を嘆いてくれて。そして醜い私を、美しいと言ってくれて)


 シャルロットの目から、涙が溢れる。


「火をくべよ!」


「はっ!」


 兵士達が、シャルロットの足元積み上げられた藁に火をつける。あっという間に炎が燃え上がり、全身を焼いていく。


「あ゛あああああッ!」


 シャルロットは絶叫した。


 (熱い! 痛い! 苦しい!)


 服が燃える。皮膚がただれ、血が流れる。気が狂うような激痛に、シャルロットはただただ叫び続けた。肉が焼ける異臭。黒煙が充満し、呼吸が出来なくなる。やがて、叫ぶことすら叶わなくなった。


 (どうしてこうなったんだろう。私は何も、悪い事なんてしていない。ただ、幸せになりたかった。人並みの幸福が欲しかった)


 それは望んではいけない事だったのだろうか。産まれてきた事が、既に不幸だったのか。


 いや、違う。全てはあの第二王子カルロスと妹ルシアのせいだ。


 (許さない。絶対に許さない。その名前と顔は、死んでも忘れはしない!)


 激しい憎悪が、シャルロットの中に渦巻く。そして願った。


 (私に力を! 憎きあの者達に鉄槌を下す、強い力を! 神が駄目なら、悪魔でもいい! そうだ、私は悪魔の子! 悪魔よ、私に力を!)


 すると聞こえる、不思議な声。


「その左目にはめ込まれている猫魔眼をよこせ。そうすれば、お前に力をやる。世界最強の魔女にしてやろう」


 ほとんど炭と化したシャルロットの目の前に、毛の長い黒猫が現れた。そしてそれは毛繕いをしながら、「にゃあ」と鳴いたのだった。








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