第1話 私にとっての世界の形
「一緒に消える?」
あの子に言われた言葉。
これは私とあの子の物語。
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ぼんやりする意識から目を覚ましていく。
また朝なのかと憂鬱になりながらも、身体を無理やり起こす。
時間は7時。
今日も学校に行かないといけない。
理由も分からずに。
身体のだるさを感じながらも、制服に着替える。
いつも通りの作業の一つ。
着替え終わったので、リビングに向かう。
リビングにいた母に声をかける。
「お母さん、おはよう」
「おはよう、灯里。朝ごはんできてるわ」
「ありがとう」
椅子に座って、朝食を食べる。
トーストとミネストローネとサラダ。
食べるけど、たぶん美味しいのかもしれない。よくわからない。
味は少し違う気がする。
「今日のミネストローネおいしいよ。味付け少しかえたでしょ。いい感じ」
「ありがとう。さすが私の娘ね。ハーブと塩加減を少し変えてみたの。良かったわ」
そんな母の言葉を聞き流しながら、作業的に食べていく。
「ごちそうさま。それじゃ、学校に行く準備するね」
「おそまつさまでした。遅れないようにね」
「わかってる。心配しないで」
身体重いし正直休みたいんだけど、身支度を整えて、家を出ることにする。
家にもあんまり居たくないし。
母に声をかける。
「学校行ってくるね」
「いってらっしゃい。帰りは遅くならないようにしなさいね」
「わかった。それじゃ、行ってきます」
家を出たあと、駅まで歩いて、電車を乗り継いで学校に向かう。
満員電車なんて嫌い。なんでわざわざ学校なんて行かなきゃいけないの。
満員電車ではいつも気分が悪くなる。少し過呼吸みたいになる。しんどい。
学校に着いてしまった。憂鬱。
校門から昇降口に入り、教室に入る。
「灯里、おはよう。ねえ聞いてよ」
教室に入った途端に話しかけられた。面倒。疲れる。
なんか彼氏がどうだとか、正直どうでもいい話。
聞き流してるけど、それっぽい反応を返しておく。
「南は悪くないよ。その彼氏が悪いだけだと思うけど。別れたら?」
「だよね。もうあんな奴と付き合いたくないし。ありがと。やっぱり灯里は頼りになるな」
興味ないし。
恋愛感情とか全くわからない私に恋愛相談とかされても正直よくわからない。
ただ、相手が言ってほしい言葉はなんとなくわかるから答えてるだけ。
それで感謝されたり、相談されることが多いんだからよくわからない。
みんな他人の意見なんて必要なくて、ただ背中を押してほしいだけな気がする。
それなら聞いてこないで欲しい。
「そんなにアドバイスできるか、わからないけど、何かあったら相談してほしいな」
「ありがとー。灯里大好き!」
南が抱きついてくる。
女子特有のスキンシップ。
人に触れられるのが嫌だから、本当はやめてほしい。
朝から疲れる。
その後はホームルームがあって、授業が始まる。
授業も退屈。
教師が黒板に何かを書きながら、何か言ってるけど、わざわざ授業なんて必要なの。
ネットで検索すればいいじゃん。
ほとんど話を聞かずに、一応黒板の内容をノートに書いていると、先生に指名される。
「宮坂さん、この問題を答えてくれますか」
「はい」
黒板の前まで歩いていく。だるい。めんどい。
問題を見ると、数学の連立方程式みたい。
まあ、これなら解けるけど。
チョークで手が汚れるのが嫌だなと思いながら、問題を解いていく。
生徒の目の前で生徒に解かせる行為って嫌がらせなんじゃないかと思いながら。
一応手順通りに解いたので先生に声をかける。
「解けました」
「正解。さすが、宮坂さんね。それじゃ、席に戻っていいわ」
「はい」
席に戻る途中に、周りの生徒から「すごい」とか言われてたけど、どうでもいい。むしろうざい。
その後、お昼休みにも何人かのクラスメイトと一緒にご飯を食べたり、退屈な授業を受けたり。ほんとは、ご飯は一人で食べたい。
そんなこんなで6限。
また憂鬱なイベント。文化祭のテーマ決めらしい。
私はクラス委員長なので、まとめないといけない。
教卓に立って、みんなを見回す。
興味なさそうな子と、興味がありそうな子がいるような感じ。
こういう集団で何かをやる行為って何か意味なんてあるの。
面倒なだけなのに。
クラスメイト全員に話しかける。
「それではまず文化祭の実行委員を決めたいと思います」
やりたくもない仕事はやりたい人に任せるに限る。
「高田さんと浅野さん、お願いできますか。お二人が適任だと思うのですが」
こういうときにやりたい人って言って手を上げる人なんてほとんどいない。
みんな人と違うことをするのが嫌だから。
空気を読むなんて馬鹿馬鹿しいけど。
高田さんは男子、浅野さんは女子で、さっき見た中で一番文化祭に興味がありそうだったから。
高田さんからは
「いいぜ。盛り上げてやるからな」
浅野さんからは
「はい。わかりました。精一杯頑張ります」
との返事がきた。
はい。受けることは知ってます。
あとはご勝手に。
「では、高田さんと浅野さん。あとの進行はお願いします。わからないことがあれば聞いてくださいね」
そんなことを2人に言ってから自席に戻る。
人に投げられることは投げるに限る。
文化祭なんて私は欠片も興味ないし。
あとの話し合いは割と盛り上がりながらもスムーズに進んでいたようで、最終的には喫茶店をやるということになった。
飲食は衛生関係とか経理関係とか手続きが面倒そうだなと思いながら聞いていた。
まあ、あとの手続きもすべて丸投げするつもりだから、あとはご勝手にという感じだけど。
話し合いが終わった後の放課後、文芸部に入っているので、部室に向かう。
部室に入ると、同じクラスの美香が椅子に座って本を読んでいた。
お互いにとくに何も言わずに、適当な空いている椅子に座って、机に突っぷす。
すると美香が話しかけてきた。
「お疲れさま。無理しすぎ」
「ありがと」
美香は私が割と本音で話せる友達だったりする。
美香はこんなことを言ってきた。
「学校休んだら」
「できると思う?」
「あんたの場合、親もアレだからね。学校と家、どっちがまし?」
「どっちもどっち」
「そう。なら、どうしようもないね。まあ私も似たようなもんだけど。けど、私はあんたみたいに学校で自分を作ってないから」
「作ってる自覚はあるんだけど、やめられなくて」
「呪いみたいだね」
「確かに」
美香とは割とネガティブな話を良くする。
お互い学校にも家にも居場所がないと感じてるタイプだからなのか、美香といるときは疲れない気がする。
美香に話しかける。
「最近家は大丈夫?」
「相変わらず駄目。自己愛強すぎな親。話が通じない。まあ、あんたも似たようなものでしょ」
「自分の意思を押し付けてくるタイプの親。そして気に入らないことがあるとすぐキレる」
「相変わらずヒス親だね」
お互いネガティブなことを言い合ってるのが、いつもの放課後の部活の時間。
私達にとっての唯一の逃げ場所のようなもの。
この苦しみしかない世界からの逃げ場所。