大男
「こんな山奥に人が居るとはな! 冒険者か? ソロでとは無謀な若者だな」
現れたのは熊のような大男。
その人物を見て思わず、
「熊っ!」
と、言ってしまう。
「誰が熊だ! れっきとした人だ! 熊はそこで毛皮を剥がれているやつだろうが! というか、その熊、お前さんがやったのか?」
と、大男が少し怒る。
「あ、失礼。つい口に出た」
と、謝ると、
「まあ、山の中で熊に間違われて弓矢を放たれた事は、何度もあるがな!」
と、大男が言う。
あるのかよっ! と思ったが、口には出さない。
「運良く熊が川の中で転んだところを仕留めた。私の実力では無い」
と、言うと、
「運も実力の内だ。やるなぁ!」
と、大男が自分の胸の前で、腕を組みながら言った。
あ、そうだと思いつき、
「今から食べようと思っていたのだが、火が無いのだ。持ってたら貸してもらえまいか? お礼に肉をお分けするが」
と、聞いてみる。木の棒を回して火を起こすのは、かなりの労力が必要だろう。何か持ってるなら、是非とも貸して欲しいものだ。
「お! くれるのか? 火打ち石ならあるぞ」
と、大男が背負っている鞄から、火打ち石のセットを取り出した。
「それでいい。貸して欲しい」
と、言うと、
「ああ、いいぞ! ほれ」
と、すんなり貸してくれる。
「ありがとう、私は火を着けるので、肉は欲しい分を切り取ってくれ」
そう言って私は薪や枯れ草に向かって、火打ち石を打ち込んだ。
何度か石を打つと、細かく砕いた枯れ草に火が飛び移る。すかさず息を吹きかけ、火を大きくしていく。
ボッと、火が大きくなると、枯れ草を少しずつ足していき、さらに火を大きくしてから、枯れた小枝などをくべていく。
そしてようやく薪がわりの枯れ枝に、火が燃え移った頃、
「これだけ貰っていいか?」
大男が聞いてくる。見ると、熊の前足と、腹の一部を手に持っていた。
「それだけでいいのか? 私1人では腐る前に食べきれないから、もっと持っていっていいですよ?」
と、大男に言うと、
「ほんとか? やったぜ! だかいいのか?干し肉にすれば日持ちするぞ?」
と、喜んだが、私の事を少し心配してくれた。
「塩が無いのだ、干し肉に出来ないだろう?」
と、言うと、
「塩ならうちに腐るほどあるぞ?」
と、大男が言う。
「腐るほど?」
と聞き返すと、
「俺の仕事は、岩塩を掘り出すことだからな!」
と、大男が言うのだった。