始まりは痛み
思いつきの見切り発車です。
さてどうなる事やら。
激しい痛みが、男を襲った。
それは右脇腹から背中にかけて、内臓を握り潰されたような激痛。
男は悶絶して倒れた。
だが、倒れた位置が悪かった。
時は、朝日はあと1時間以上経たないと、登らないであろう未明。
場所は信号機の無い横断歩道、蹲り七転八倒して倒れ込んでいるところに、迫りくる大型トラック。
運転手は、スマホの画面を凝視しており、倒れた男には気がついていない。
Noブレーキのトラックは、男を空高く跳ね飛ばす。
宙を舞った男の体が、とある場所に落ちた。
何かにぶつかった衝撃と音で、慌ててブレーキを踏んだ運転手は、トラックを停めて前面の凹みを見て、慌てて辺りを見回すのだが、ぶつかった相手が見当たらない。
「こんな都会でイノシシとかは、居ないだろうし、俺は何に当たったんだ?」
首を捻りながら、車が凹んでいる事実もあるし、とりあえず警察にスマホから電話するのだった。
保険でトラックを直すために。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やあ! いらっしゃい!」
樽のようなお腹をした中年の男、仕立ての良いスーツを着込みなかなかオシャレだ。
その男は、俺を覗き込みながら声をかけてきた。
「あの? どちら様でしょうか? 私は何故ここに仰向けで寝てるのでしょうか?」
私は、男にそう言うと、起き上がろうと腹筋に力を入れる。
あれ? 腹筋? 無い? てか、感覚が何も無い。
目は見えるし、耳も聞こえるし、口も話が出来てるのに、首から下の感覚が何も無い。
「えっと、質問に答えるなら、どちら様と聞かれたら、わたしゃ神様だし、何故ここに仰向けで寝てるのでしょうかの問いには、仰向けというより、首が転がってて、偶然上に向いてるだけだね」
は? 神様? あ、ヤバイ人かこの人。逃げよう!
そう思って逃げようとするのだが、首から下の観覚がないので動けない。
ヤバイ。このヤバイ人に麻酔でも打たれたか? もしかして臓器密売のドナーにされたか?
「君、物騒な事考えるねぇ。私はヤバイ人ではないし、臓器密売する悪人でもない。ていうか、人では無い」
あれ? 俺、声に出してた?
「いや、声に出してないよ。君の思考を読んだだけ。これでも神なのでね。混乱してるかもしれないけど、とりあえず説明だけしておこうか。君は夜中3時まで残業した後、24時間営業やってる店でラーメン食べて、フラフラ歩いて家路についてた時に、君の腎臓の中にあった石、いわゆる尿管結石ってやつで苦しみだして、蹲ったところで、トラックに跳ね飛ばされた。運悪く君の体は、線路の上に落ち、深夜に走る数少ないブルートレインにひかれて、首と胴体がサヨナラしてしまった。ここまではオーケー?」
「オーケーな訳あるかあああああっ!」
「あ、やっぱり? でもそういう訳で君は死んじゃったんだよねぇ。で、何故高貴なる私が首しかない君と、こうして話しをしているかというと、テンプレって言えば君は理解できるよね?」
「ももも、もしかして、異世界?」
「ざっつ、らいと」
「なんで平仮名表記?」
「よく平仮名表記と分かったね!」
「発音がそれっぽく聞こえた」
「てか、君変わってるねぇ。もう落ち着いたの?」
「まあ、いくら動こうとしても、まぶたと口以外動かないし、さっきまでは気が動転してて、気が付かなかったけど、背中に12枚も羽生えてるし、何故スーツなのかは謎だけど、この世のモノでは無いのかなぁって思って」
「スーツは単なる趣味だね。で、ヲタな君を見込んで1つお願いなんだけどさ?」
「異世界に行って魔王倒せとかなら、断る!」
「魔王は居ないねぇ」
「邪龍倒せも断る!」
「邪龍も居ないね。竜は居るけど倒さなくて良いよ」
「じゃあ、何させようとしてるの?」
「とりあえず60年生きて」
「は?」
「60年生きてくれるだけで良い。それ以上は望まない」
「それだけで良いの? それにメリットがあるの?」
「60年生きてくれたら、60年、異世界に地球の魔力が送れるのさ。君の体を通してね。それであの世界は1000年保てる。1000年後は、また誰かを送り込むさ」
「俺のメリットは?」
「もう一度生きられる。異世界で生きていける能力はあげよう。魔法も1つだけ使えるようにしてあげよう。どうだい?」
「魔法は選べるのか?」
「うーん、ホントはダメだけど、特別に! 強過ぎるのはダメだよ?」
「尿管結石を自由にコントロールできる魔法をくれ! 異世界であの痛みとか、60年生きていける気がしない!」
「え? 炎の魔法や氷の魔法、雷の魔法とか有るよ?」
「そんなの貰って英雄みたいになりたくない!」
「うーん、石をコントロールかぁ。土魔法を改良すれば良いかな? ちょっと待ってね? ここを改良して、あ、石を認識出来ないとコントロールできないか! じゃあその能力も追加してと、鉱物鑑定でいいか、オッケー出来た! これを君の脳内に埋め込んでと。あ! 体持ってくるの忘れた! どうしよう? 赤ん坊からやる? 記憶有りで!」
「記憶有りで赤ん坊からとか、羞恥プレイの趣味ねぇよ!」
「だよねぇ。あ、良いの見つけた! ちょうどよく魔物に、首から上をかじり取られて死んだ死体があるから、そこに君の首を繋げてあげるよ」
「繋げた途端に、その魔物にガブリとかやめてくれよ?」
「もちろんだよ。私は君に60年生きて欲しいんだから!」
「じゃあそれでいいよ」
「じゃあ行ってらっしゃーい!」
そう言われた直後、俺の意識がブラックアウトした。




