大人になった短パンこぞう
デートといっても、どうやってゴッホを強く(して金を稼げるように)するかという話に始終していた。待ち合わせは朝9時、カフェのテラス席で紅茶を飲むだけ。昼からはおとなのおねえさんを倒しまくる仕事が待ってるからね。
そもそも昨日と色違いのアロハシャツに半ズボンで現れたので、甘い雰囲気などわきようがない。典型的な、残念なイケメンってやつだ。
「ごっつ強いけど、難しいやろ。あいつ。」
「そうなのよ。連続で絵が出せないし、攻撃を受けることにはめちゃめちゃ弱い。だから一撃で相手を倒すしかないの。」
以前、他の絵も見てみたくて一回のバトル中に命じたら、発狂されて「や、やっぱ今のなし!」ってあわてて言ったことあったっけ。連戦はそんなに問題ないんだけどね。おぼっちゃまとジェントルマン倒しまくってたわけだし。
「嬢ちゃん、よく理解してるなー。頑張ってるやん。」
「それは......」
頭をぽんぽんと撫でられて、美術の授業で習ったから、という言葉を飲み込む。この世界のキャラクターがどこまで知っているか分からないからだ。
「絵の良し悪しとか、よく分かんないわよ。有名だから知ってるだけ。」
「ほぉ。」
「でも、生き様はすごいと思うわ。私はあいつみたいに、これといって打ち込めるものがあるわけじゃないし。必要もなかったし。」
厳格な家庭で育ち、仕事や恋愛はことごとくうまくいかない。父に認められたいという思いは満たされないまま死去され、次第に精神を患っていく。自身の耳たぶを切り落としたり、有毒の絵の具を舐めたりして、精神病院へ収容される。37歳の時に、麦畑で自ら腹へ発砲し、自殺。生前に売れた絵は、一枚のみだった。
「ゴーギャン。実は、私......」
自分のコンプレックスを話せる相手ができたことで、ふとこのゲームのことを打ち明けても良い気がしてきた。ここに来て1週間が過ぎてそれなりに稼いできたけど、一向に帰る手がかりがつかめず、弱気になっていたからだ。
「あ!金稼ぐことに打ち込めばええんちゃう?」
「え?」
「せや。カツアゲの女王になればええやん!」
この目を輝かせているアロハ男に相談しようとしていた、数秒前の私を殴りたい。彼の位置づけはジムリーダーから、一瞬で大人になった短パンこぞう(だたし体に限る)にすり替わったのだった。