ジムリーダー戦
「え、ゴーギャン?」
「せやで。食い逃げとオヤジ狩りが好きって、おもろい嬢ちゃんやな!」
私は否定するのも忘れ、興奮していた。そうか、忘れてた。この世界でもジムリーダーとかいるんじゃないか。そして四天王を倒して殿堂入りすれば......
「永遠にリーグに挑み続けて、無限に金を稼げるわ!」
カツアゲみたいなことをし続けなくても済むし、横にいる神経質な男から小言を言われることもないだろう。つい言葉に出てしまった私に、二人はよく分からないといった顔をしているけど、まあいい。ゲームのキャラクターは知らなくて良い話だ。
「ゴーギャン。その勝負、受けて立つわ!」
「え、さっきパス言うたやんけ......」
「気が変わったの。ゴッホ、準備はいいわね?」
声をかけられると目を見開き、そのまま頷いていた。なんだかんだ戦うの好きみたいなんだよね、彼。
「ちゃんと勝ったらジムバッチちょうだい......よっ!『ひまわり』!」
近くにあった花屋の草花が一斉に黄色に染まり、ゴーギャンに襲いかかる!
「ほんま好きやな、その花。ほれ。『Van Gogh peignant des tournesols(ひまわりを描くゴッホ)』」
黄色い花たちは行き先を変え、現れたキャンバスの前に全て吸収されてしまった。残ったのは、そのキャンバスに向かって筆でひまわりを描き続ける、ゴッホに似た男のみ。
「くっ......!」
「もう終わりなん?なら、オレから行くで。『D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?(我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか)』」
言い終わるや否や、あたり一面がジャングルへと変貌する。ほぼ半裸の原始的な女の子に見つめられ、身体が動かない。やっとの思いで目を横へうつすと、蹲って苦しそうにうなり声をあげるゴッホがいた。
「分かったわ、降参。こっちの負けよ!
精一杯の気力を振り絞って負けを宣言すると、一気にもとの街並みへ元通りになった。我に返り、路上に倒れて動かない男のもとへ駆け寄る。
「ちょっとあんた、大丈夫?」
「ぅ、ううう......」
「死なへんよ。部屋で休ませとき。運ぶの手伝だったろか?」
こんな風にさせた張本人はひょうひょうと言ってのける。バトルだから当たり前なのだが、負けるのは始めてなので、この冷静さはかえってありがたかった。私の返事の前にタクシーをつかまえて、かろうじて息をしている男を乗せてくれた。
「あ。嬢ちゃん?」
そのまま一緒に帰ろうとしたが、案の定、そうはいかなかった。くそ。ゲームでは確か所持金の半分持っていかれるんだっけ。
「......いくら欲しいの?」
「は?」
「どれくらい払えばいいか聞いてるの!」
「別にいらへんよ、そんなもん。」
拍子抜けする私に、このアロハシャツの男はニヤリと笑って、腰を抱き寄せてくる。そして軽く頬にキスをし、耳元でこんなことを囁いてくるのだった。
「じゃ明日、デートしようや。」