おぼっちゃま
「んー。おぼっちゃまとはいえ、さすがに五度目はこれしかくれないか。」
「なぁ......」
「ん?」
「君は、良心が傷んだりはしないのかい?」
無料で宿泊できる教会で手続きを済ませ、部屋に入ると、ゴッホがおずおずと聞いてきた。
「別に。だってお金稼ぐって、こういうことでしょ?」
「それは、そうだが......」
「金目的で戦うのが嫌なのは、知ってる......って、うわ。何ここ、クローゼット?この世界の住民って小人なの?」
想定外に狭い部屋に驚くが、とにかく野宿を避けるためにはここしかない。教会は寝る場所を提供してくれるだけで食事は出ないので、稼がないと割とまずい。
「彼らは意地とプライドをかけて戦っているんだ。自分の作品が決して負けることはあってはならない、という芸術家特有の気質とともに。」
「うん、でもあんたが最強だから良いじゃない。そのファイトマネーをいただくのは、当然の対価じゃない?」
始めは私もバトルとか理解できなかった。だが、戦ううちに分かってきた。ここは自分の描いた絵を出現させて相手と戦い、買ったら金をもらえる世界。ポ○モンのモンスターが絵に入れ替わったようなものだ。画家がトレーナーね。
「あー、もう。分かったわよ。一日に何度も同じカモと対戦するのは控えるわ。だから、そんな眉間にシワよせないの!」
「......」
「ゲームでは定石なのよ?どんな攻撃してくるか分かってるし。」
やってみて分かったのは、知名度がレベルに匹敵しているということ。ゴッホを知らない人はまずいないので、ほぼレベル100に近い。絵ごとで相性とかあるのかもしれないが、とりあえずゴリ押しでなんとかなっている。
私は教養として美術の知識は知っているが、絵なんて描いてない。だからこの世界で生きていくためには、この気難しい男となんとかやっていかなくてはならないのだ。
気分転換に外を見ると、橙色で統一された灯りがレンガでできた家をぽつぽつと照らしていて、まさにRPGの世界だ。悪くないかな、貧乏生活も。ゲームの中に限るけど。
SNSに投稿しようとして無意識にポケットをさぐるも、いつもそこにあるはずのスマホはない。現在の所持金で機種代が払えないことに気付き、即座に気を改めた。うん、やっぱり金を稼ごう。