プロローグ
「ふっふっふ。覚悟はいいわね、おぼっちゃん?」
「お、お前はさっきの......!」
本日五度目の勝負を挑む。相手はいかにも育ちが良さそうな男の子だ。
「......いいだろう。受けて立つ。」
「うんうん、そうこなくっちゃ。あ、ゴッホそれ剃刀?耳切ろうとしてたでしょ、今!」
あわてて剃刀を取り上げる。手からは血がにじみ出ていた。すごく怖い。とにかくこれ以上待たせると良くないことが起こりそうなので、バトルを開始するーーー!
・・・
私の名前はレイナ。
自分で言うのも何だが実家はかなりの金持ちで、イージーモードの人生を送っていた。小学校からお嬢様学校に入学し、そのままエスカレーターで進学した大学になんとなく通っていた。
部屋でゲームしていたら突然、壁に飾られていた絵たちが光って、目を開けると異国の路上にいた。街並みからするに、ヨーロッパのどこかの町だろう。
慌てて腰に下げられたポシェットをあさる。いつも入っている家の鍵もスマホも、カードケースもない。入っているのは、絵の入っていない額縁と、財布だけだ。
異世界へ行くこと自体ありえないことだけど、それ以上に信じられない事実に遭遇した。
…...財布の中身が、空っぽだったのだ。
・・・
その事実に衝撃を受けていると、肩をたたかれ「私はゴッホ。オランダ人だ。」とめちゃくちゃ近距離で聞いてもないのに自己紹介してくる男が立っていた。私は理解した。これはゲームの世界だと。
「あぁ、大学の課外学習ね。君たちはもうちょっとお金を稼ぐということを学ばにゃならん、って教授が言ってたし。」
「......?」
「いやー。臨場感あるわね。これがVRってやつか。あんたも本物みたいだし。まるで本当にトリップしたのかと一瞬思っちゃったじゃない。」
ゴッホがいるということは、召喚した英霊とかで敵を倒してく類のものだろう。ふと手を見るが、そこに令呪はない。「あなたが私のマスターか?」とかも言ってこない。ということは、私から分からせてあげなきゃね。
「いかにも。私があなたのマスターよ。これからよろしくね、ゴッホ!」
「き、君が私のマスター......!?」
「うん。たくさんお金稼いできましょうね!」
現実世界でお金を稼いだことなど、もちろんない。そもそもお金って無限に口座に入ってるものだし。でも、私には自信があった。昔やったゲームでお金の稼ぎ方は知っているからだ。
ピ○チュウとか出てくるアレで学んだのだ。ジェントルマンとかおとなのおねえさんとか、たくさんお金おとしてくれる人とひたすら戦えばいいんでしょ?
こうして、決してお金を心配したことのない私の、金稼ぎの旅が幕を開けた。